カタメルロワイヤル第1話「始まり」

作:七月


「今から皆さんには固めあってもらいます。」
いきなり発せられた言葉に私、ティアナ・ランスターは困惑した。
そもそも今この状況すらまだまともに理解できてはいないのだ。
起動六課での訓練終了後、部屋でシャワーを浴びていたところまでは覚えているのだがその後の記憶はあいまいで、気がつけばこの狭いどこかの学校の教室のような場所へ座らされていたのだ。
私の周りにも多くの女の子がいたが、どうやら皆も似たような境遇らしくただただ今の状況に翻弄されているようだった。
そんな私達をよそに教室の前に立っている変な仮面とフードで全身を隠した謎の人物は説明を続ける。
「今あなたたちがいるのはASFR空間と呼ばれる世界です。
 今あなたたちがいるこの学校を中心に様々なエリアが存在しています。
あなたたちはこのエリアの中でお互いを固めあってもらいます。
 生き残るのは4人です。
 それでは何か質問はありますでしょうか?」
何が質問はありますでしょうか?だ。
そもそも根本的なことが分かっていないのだ。
どうして私はこんなところにいるのか?
固めあうってどういうことなのか?
生き残りって?
様々な疑問が怒涛のごとく押し寄せてきた。
その答えを聞くべく私は立ち上がろうとした。
しかしそんな私よりも早く
「冗談じゃないわ!」
私の隣の席の子が声を荒立てて立ち上がった。
少女は全身に気品があふれており、
左右両側で結ばれた、黒いつややかな髪をなびかせて凛とした態度で前を見据えている。
「おまえは・・・遠坂凛だったか・・?」
仮面の人物は不気味な眼光を凛へと向けつつ言った。
「そうよ。私は誇りある魔術師の家系である遠坂家、遠坂時臣の娘の遠坂凛よ!
だいたいいきなり分けわからないことばっかり説明されてもこっちも理解できないのよ!
まずはあんたが名乗りなさい。そして説明しなさい。
何で私達はこんなところにいるの?そもそも固めあうってなによ?どうしてそんなことしなくちゃいけないの?」
こちらも怒涛のようにまくし立てていた。
お陰で私の考えていたことはこの遠坂凛という少女が全て質問してくれていた。
対する仮面の人物はクックックと低い声で笑いながら凛の質問に答えるべく口を開いた。
「まず一つ目、それはお前たちが美少女だからだ!」
シーンと場が静まり返った。
いや、元々そんな場が荒立っていたというわけではないが・・・
隣の凛をみてもその答えに唖然としつつも頬を少し染めている。
相手は変な人物だとはいえストレートに言われてしまったわけだし。
「な・・何を言い出すの!いきなり!」
はっとわれに返った凛は再びまくし立てた。
「そのままの意味だ、これから行われることは参加者が美少女でなければ成立しない。
 お前達はその意味では選ばれた美少女なのだ。」
これは喜ぶべきことなのだろうか・・・
いや、だまされてはいけない。
これで集められた理由はなんとなく分かった。
つまりこれから行われる何かの参加者として美少女(自分で言うのもアレだが)が集められたのだろう。それもだいぶ無作為に。
と、なると次だ。
これから行われること。
それは
「では2つ目の答えだが・・・それは実践することによりお答えしよう。」
仮面の人物が言うや否や凛の周りに巨大なカプセルが出現し、凛を捕らえた。
「な・・なによこれっ!」
カプセルへとらわれの身となった凛は仮面の人物へと向けて叫んだ。
カプセルからは謎の液体が流れ出しており、凛の衣服を溶かしていた。
「お前の2つ目の質問の答えだよ。
 今からお前を固めてやる!」
「なっ!」
これには私も黙っているわけには行かなかった。
凛を助けるべくカプセルへ向き直ろうとするも
「動くな!」
仮面の人物が叫んだ瞬間からだが金縛りにあったように動かなくなる。
「さあ、皆もゆっくりと観察するんだ・・・」
その言葉が発せられたとたん、教室にいた全ての少女がまるで操り人形のようにカプセルに閉じ込められた凛へと向き直った。
「今からこの女をブロンズ像へと変えてやる。
 これを見てお前達がこれからどういうことをしなければならないかを良く学ぶんだ。」
「くっ・・・」
なんということをさせるつもりなんだ。こいつらは。
「なめんじゃないわよ・・・」
凛は衣服のほとんどを溶かされながらも仮面の人物をにらみつける。
「私は魔術師なのよ。こんなカプセルくらい・・・」
といったところで凛の顔がこわばった。
「魔術が・・・つかえない・・・」
「その通りだ、このASFR空間では本来のお前達の能力は全て封じられている。」
「そん・・な・・・」
衣類も全て解けてしまい、凛の顔は絶望に染まって言った。
「それでは仕上げるとするか・・・」
仮面の人物がパチンと指を鳴らすとカプセルの下から緑色のガスが放出された。
「いや・・・いやああああああ・・・・」
カプセル中にガスが充満し、やがて凛の叫びも途絶えた。
そしてしばらくの間をおいてカプセルが開かれ、凛を覆っていたガスがはれていくと・・・
そこには全身を暗緑色に包まれた
ブロンズ像と化した凛の姿があった。
美しく、滑らかな肢体は生まれたままの姿で露わになっており、
口や焦点を失った瞳は大きく開かれており最後まで苦痛にあえいでいたのだろうということが容易に感じられた。
助けを求めるように突き出されたまま固まっている右手もその悲痛さを十二分に物語っていた。
それでもなお、ブロンズ像と化した後も優雅に気品を漂わせているのはこの少女の本来の魅力なのだろうか?
「うんうん、いい感じのものができましたねえ」
仮面の人物は満足そうにブロンズ像と化した凛を眺めていた。
「さて、皆さんお分かりになりましたでしょうか?
 皆さんはこのようにお互いを固めあってもらいます。
 ちなみにこのゲームの目的に関してはいえません。
 もし聞こうとしたり、今後私に逆らおうなどとすれば・・」
仮面の人物はブロンズ像と化した凛へちらりと目をやり
「まあ・・・言わなくても分かりますよね?」
私は思った。
こいつらは本気だ。と



「さあそれでは1人づつスタートしましょうか。
 出発する時に武器を渡しますので忘れずにもらっていってくださいね。普段の能力を封印されているあなたたちはこれがないと相手を倒せませんよ。」
そしてついに一人目がスタートして行きその後も次々と参加者がスタートしていった。
凛がブロンズ像にされて以来誰一人として仮面の人物に逆らうようなことはしなくなった。
だって見てしまったのだ。
あんなにも気高く凛としていた少女が、最後には苦痛にあえぐように一つの像にされてしまった場面を。
私も・・・もしかすると・・・
自分が同じように物言わぬ石像になってしまうビジョンを思い浮かべ必死に振り払う。
やはりやらなければいけないのだろうか・・・・
そんなことを考えている間についに私の番が回ってきた。
「さあ、スタートですよ。」
渡された袋からは2丁の拳銃が出てきた。
これはラッキーだったのかもしれない。
普段使い慣れているような形だから。
私はこれからこの武器を使いこの世界を生き残る。
そう新たに誓いをこめて私は校舎を後にした。
「まずは・・・森に行こう」
とりあえずは落ち着ける場所がいい。
そう思った私は身を潜める場所が多い森へと向かって進みだした。
しかし、この選択は私にとって波乱を呼ぶものであった。

今回の被害者:
遠坂凛:ブロンズ像化

残り99人

つづく


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