作:七月
華羽野高等学校。
その敷地内の裏庭を一人の少女が歩いていた。
名前は六道芹、この学校に通う3年生であり、幻月教会のシスターである。
彼女が着ているのは紺色の裾のやや短めの修道服に長い皮のブーツ。
そしてその鮮やかな緑色の髪の毛は片側で可愛らしいペンギンの形の髪止めによって縛られていた。
健康的で活発そうな美少女。それが誰もが彼女を見て思う第一印象だろう。
そんな彼女は今、博士から頼みで人を迎えに行っているのだ。
「一体誰なんだろう・・・」
そういえば芹は博士からはその迎えに行く人の特長などは聞いていない(芹が聞かずに飛び出してしまっただけかもしれないが・・・)
基本博士はHENTAIなので、博士が一体何を考えているのかを想像すると多少不安になってはくるが、同時に面白そうだという気もしてくる。
芹は博士の突拍子も無いところは嫌いではなかった。
今回の件も芹は面白そうかも?と思ったので博士の頼みを受けたのだ。
「っと、着いた着いた。」
そんなことを考えているうちに芹は目的の場所へとついた。
そこは敷地内の、芹の所属する幻月教会の活動拠点でもある教会だった。
「ここで待ってるみたいだけど・・」
芹は扉を開けて講堂へと入る。すると講堂の道の真ん中にその少女は立っていた。
銀色の長い髪が講堂に降り注ぐ光を受けて輝いていた。
その身は豪華な装飾の施されたドレスに包まれており、頭には金色のティアラが輝いていた。
その光景を見てボーゼンとしてしまう芹。そんな芹に気づいた少女は芹に向かってにっこりと笑った。
え・・・この人どう見てもお姫様だよね。なんでそんな人がここに?
芹がなおも硬直している間にその少女は芹の方へとやってきて深くお辞儀をした。
「こんにちは、月の王女のフィーナ・ファム・アーシュライトと申します。あなたがこの学園を案内してくださる方ですね。」
「は・・はい・・六道芹です・・。」
相変わらず困惑していた芹は、彼女にしては珍しく歯切れの悪い返事を返した。
「着いたよ、フィーナ。」
「ええ、ありがとう。芹。」
あのあとフィーナと一緒に校内を回った芹はあっという間にフィーナと打ち解けていた。
最初こそぎこちなかったが、もともと芹は人付き合いの良い性格だったし、フィーナも外見こそ育ちのいいお姫様であったが中身は一般的な女の子と殆ど変わりはしなかったので、二人が仲良くなるのに時間は掛からなかった。
「ここが博士の研究室ですね。」
「そうだよ。」
そして、二人が最後に訪れたのは博士の研究室だ。
というか本来ここが目的だったのだが、せっかくなので色々学内を回ってきてしまったのだ。
「博士ーっ!お客さん連れてきたよー!」
芹は研究室のドアを勢いよく開けた。
が、そこで見た光景に芹は凍りついた。
以下芹が見たもの
その1:どっかの特撮で見たことあるような、人がすっぽり入りそうなほどのカプセル。
その2:何かを見てニヤニヤしている博士。
その3:博士の視線の先にどっかで見たことあるような人々の石像×3
きー、ぱたん。
芹は静かに戸を閉めた。
「ごめんフィーナ、中にはHENTAIしかいないや。別のとこに行こ・・・」
「呼んだかね。」
バァァアン!とドアをあけてHENTAIが現れた。
「うわあぁ!HENTA・・ぐふ(口を押さえられる。)」
「やあ、よく来てくれたね。遠慮せずに入ってくれたまえ。(芹の口をふさいでいる。)」
「ええ、それでは遠慮なく。(一連の流れをスルー)」
3人は慌しくも研究室の中へと入っていった。
なんやかんやで研究室に入った芹とフィーナ。
「すまないね。少し散らかっているが・・・まあ気にしないでくれ。」
散らかっているのは少しどころでは無い気がするし、未だにあのカプセルがででん!と置いてあるし、さっき妙な石像たちがあったところはまるで急いで何かを隠したように大きな布がかぶせられていたが、突っ込んでいては話が進まないので芹はスルーする事にした。
と、そんな時とある事を聞いていなかったことに芹は気がついた。
「ねえ、そういえばフィーナはどうして博士のところに?」
「それは・・・身体検査をしてもらう為よ。」
フィーナは答えた。
「身体検査ねえ・・・博士、いくらなんでも犯罪は良くないと思うよ。」
「ちょ・・ちょっと待ちなさい!何を勘違いしているんだ!」
ジト目で博士をにらむ芹に、必死に否定のポーズのポーズを取る博士。
正直いって普段の行い的に説得力は低い。
「違う違う!今回はちゃんとした健康検査だよ。」
「ええ、今回はその件で私は来たのよ。」
「へー、そっか。」
まあフィーナが言うならそうなんだろう。
「ふむ、普段芹君がどう私を見ているかは納得いかないが・・・・ まあ、とにかく始めるとしよう。フィーナ君、そこのカプセルに入ってくれたまえ。」
「分かりました。」
そう言ってカプセルに入るフィーナ。ってちょっと待て、あのカプセルはどう見ても某地獄聖人が使ってた・・・
「博士!」
「ああ、服や靴は脱がなくていいからねー、ってどうしたんだい、芹君?」
「あのカプセルってまさか・・・」
「ん?ああ、このカプセルの事かい。大丈夫、まあ見てれば分かるよ。」
そう言って博士は白衣からリモコンを取り出した。
「フィーナ君、準備は良いかね?」
「はい、いつでも。」
フィーナは特に危機感の無い顔で言う。カプセルの中に入ってもいつも通りの凛とした佇まいは崩さなかった。
「それでは行くよ。少しひんやりするかもしれないが我慢してくれ。」
そう言ってボタンを押す博士。
博士がボタンを押すと同時に、カプセルの中にはシューーッという音を立てながら霧のようなものが充満していく。
「きゃっ。」
その霧の冷たさに反応したのか、小さくフィーナの悲鳴が聞こえた。
その後、あっという間に霧はカプセル内を覆いつくし、フィーナの声も聞こえなくなった。
カプセルの中には霧が蠢いている向こうに、静止したフィーナの影だけが見えた。
「は・・・はははは博士!どこが大丈夫なの!フィーナ絶対石化しちゃってるよね!?この状況!」
あわあわと慌てふためく芹。
やがてカプセルの中の霧がプシューッと抜けていくと、そんな芹の予想通りカプセルの中にはフィーナの姿をした石像があった。
ひんやりとした感じに驚いたのだろう、その表情には少し驚きが浮かんでいた。
長く艶やかな髪も、煌びやかなドレスも灰色に染まり動きを止めていた。
カプセルの中に佇むその石像はまるで丁重に保管されている美術品のようにも見えた。
フィーナは石化してしまったのだ。
ちょっと待ってー!!フィーナって月の王女だよね?そんなお姫様をどうにかしちゃったらヤバイんじゃないの!?
外交問題!?戦争勃発!?いやいや、相手は月だしコロニーとか落とされて・・・
地☆球☆滅☆亡♪
「うわーん、僕どうしたらいいのーっ!」
「こらこら少し落ち着いてこれを見なさい。」
「そんなの落ち着いていられるわけ・・・って、え?」
博士は指し示したのは一つの黒い画面だった。そこには真横に一直線に引かれた緑色の線の所々が連続性に山や谷をなしている。
「これ心電図・・・だよね・・?」
ピコーン、ピコーンと周期的に音を立てながら表示される線を見て芹が言った。
「そうだよ、まあバイタルサインは一通り測定しているからね。他にも・・・」
博士が色々な機械を指差した。
そこには色々な数字やグラフが表示されていた。
「神経伝達速度に血液ガス、髄液検査に尿沈「お姫様はトイレになんか行きません!」・・・
まあ色々測定しているよ。」
「えっ、ってことは本当に・・?」
「だから言っているじゃないか、今回はちゃんとした健康検査さ。 今、フィーナ君に起きているのはナノマシンの作用によるものだよ。」
「ナノ・・・マシン・・・?」
なの・・・ましん・・
なのは・・・魔神・・・・
なの○さん『スター○イトブレイカー!!!』
七○『おーばーきるぅぅぅぅーーー!!』
ちゅどーん
「うん、芹君はなにか変な事を想像しているね。
まあナノマシンっていうのはとてつもなく小さな機械の事だよ。今、フィーナ君の体中をこのナノマシンで検査しているのさ。」
「ふーん。」
実際こんなすごいナノマシンを作れてしまうなんて博士って変な人だけどやっぱりすごいなあ、と芹は思った。
「博士ってその気になれば世界征服ぐらいできそうだよね。」
ってしまった!この人に言ったら面白半分にやりかねない!
殺人ウイルスなんかはこの人の性格的に作りそうには無いが、人類膨体化ウイルスとか石化ウイルスくらいなら作りかねない!
「ん〜世界征服ねえ・・・」
博士は少し黙った後に言った。
「あんまりやりすぎるとPTAから苦情が来るからやめとくよ。」
どうやら地球の平和はPTAによって守られているようだった。
「さて、話を戻してさっきの説明の続きだけど、今フィーナ君は石化しているよね。この石化・・・というかこれはナノマシンよるコーティングみたいなものかな。フィーナ君の体中にまとわり着いたナノマシンが自身の硬化作用によって固まっているんだ。まあこれは動かれると困るからやっている訳で別に私の趣味がどうとかじゃなくすいません私の趣味です・・・」
博士が本音を吐いたところで次の話に移ろう。
「ってことは検査が終わるまでフィーナは固まったまんまなの?」
「まあそう言うことになるかな。でもこのナノマシンは沈静作用もあるから今のフィーナ君は麻酔が効いて眠っている状態なんだ。だから本人にしてみれば検査時間なんてあっという間だよ。」
「ふーん。」
そういうものなのか。と芹は思った。
「さて、では次は君だね。」
「はーい・・・って僕!?」
「うん、ついでに君も検査しておこうと思ってね。」
そう言って博士がにじり寄ってきた。
「うそだよ!どうせ固めたいだけでしょ!」
「いやいや、今回はちゃんとした検査であって僕の趣味云々は全く!絶対!確実にありえない(キリッ」
「さっき本音吐いといてよくもそんな事言えるよね!?」
「まあまあ、お小遣い上げるから・・・」
ピクッ
と、お小遣いという言葉に反応する芹。
「・・・どれくらい?」
博士は2本指を立て・・・
「倍プッシュだ・・・!」
ピシャーーーン(そのとき芹に電流走る・・・! )
「やる!」
「おk。」
そう言って芹はカプセルの中に入っていった。
「じゃあちょっと冷たいよ」
「はーい、って冷たいーっ!」
「はははっ、冷たさましましだー(笑)」
「(笑)ってなんだよーっ!」
そうこう言っているうちに芹の体は霧に包まれた。
そしてフィーナ同様、すぐに声も聞こえなくなり、芹の動きも止まった。
プシューッと霧が晴れていく。
そこには芹の石像が立っていた。
芹は困ったような表情で、寒さに震えるような姿勢で石化していた。
寒さに耐えるように組まれた腕によってその胸が強調されており、内股で石化している足もなんともいえない色気をかもし出していた。
「うんうん、いい感じだ。」
博士がしげしげと芹の石像を見つめながら満足げに言ったとき
ピーーーーーッ
と、アラームが鳴り響いた。
「おっと、フィーナ君の検査が終わったようだね。」
博士はカプセルを開くとフィーナの石像を取り出した。
さらにはたった今石化したばかりの芹の石像も取り出した。(やはり固めたいだけだった!)
博士は二人の石像を適当なスペースに並べる。
姫であるフィーナの石像と、礼拝服を身にまとっている芹の石像が並ぶ様はなかなかに絵になっていた。
「まだフィーナ君の門限まで時間もあることだし・・・せっかくだからそれまで鑑賞させてもらうとしようかね。」
博士は心底楽しそうにそう言った。
数時間後、芹は石像から戻された。その時すでにフィーナの石化は解かれ、フィーナは帰宅したあとだった。
「やあお疲れ、芹君。フィーナ君から今日はありがとう、楽しかったとのことだよ。」
「えー、フィーナ帰っちゃったの?せっかく友達になれたのにー。」
芹は不満げな顔で言った。
「まあ彼女にも仕事があるわけだしね。ほら、そんな君にこれをあげるよ。」
博士は一枚の写真を取り出した。
「芹君とフィーナ君のツーショットだよ。」
「わあ、博士ありがとう。いつ隠し撮りしたのかは聞かないであげる。」
「いやいや、私は堂々と撮ったよ。」
?と芹は首をかしげた。撮られた記憶など無いのだが・・・?
芹は博士から写真を受け取った。
それを見た瞬間その疑問は解消される。
「・・・博士、確かに僕とフィーナのツーショットだよね。」
「ああ、よく撮れてるだろう?」
「うん・・・でもこれ僕らが石化してるときの写真じゃない!」
その写真に納まっていたのは石化した芹とフィーナの姿だった。
ごちゃごちゃとした研究室を背景に灰色一色の二人がそこには写っている。
しかも無駄に写りがいい気がするのが微妙に癪に障る。
「まあ良い思い出になったじゃないか、フィーナ君とのね。」
「良い・・のかなあ」
博士にのせられて石化されてしまったとは言え、まあ何だかんだで楽しかったし良かったのかな。
「写真の題名は『私たち、石化しました。』」
「やっぱ良くない!」
と言いつつもしっかりと写真をしまう芹だった。
おわり。