白い宝石

作:ななつき


 傍目に判るほどその少女は緊張しているように見えた。
 広い洋間に置かれたベッドに腰掛け、膝の上にきゅっと握られた両手は力が入りすぎたのか少し震えている。今日彼女は、敬愛し、恋愛感情を抱いている学校の先輩の家に初めて招待されたのだった。

 にこやかに少女を迎え入れたのは、まだ女の子の面影を残した少女とは正反対の美しさを持った、長い黒髪の少女だった。少女は同じ女性に恋していたのだった。
 お茶を淹れるから少し待っていて欲しい、と黒髪の少女が部屋を出て行ったとたん、一人残された少女は大きくため息をついた。先輩の家は想像よりも遙かに大きく、小さなマンションに家族と暮らす少女はすこしばかり気圧されていたのだ。

 昨日少女は思いがけず、手が届かないと思っていた黒髪の少女から告白を受けたのだった。
 黒髪の少女に告白された少女は、驚いた表情のまま、こくこくと言葉も発する事ができずに頷くだけだった。
 明日私のウチに来ない?プレゼントがあるの。と言われた少女はようやっと、はい、はい、とだけ返事をする事ができた。
 その後、黒髪の少女が去った後何分その場に立ちつくしていたか覚えていない。
 天にも昇る心持ちで黒髪の少女の誘いを受けた彼女は、その晩あこがれの先輩の家で、彼女と裸体を絡ませ合う妄想で頭がいっぱいになり、眠れぬ一夜をすごした。

 所在なくふらふらと部屋の中に視線をめぐらせると、机の上に小さな鏡が置いてあるのが目に付いた。今日の服装はお気に入りのブラウンのワンピースと白いカーデガン。おかしなところはないと思うが、今のうちに身繕いをすませておこうと考えた少女は立ち上がった。
 鏡を覗き込もうとしたところで、少女は机の上に小さな可愛らしい包みが置いてあるのに気づいた。
 オレンジの地にブルーのリボンがプリントされた紙包みは、いかにも女の子向けのプレゼントを包むのによさそうである。ひょっとしてこれが自分に用意してくれた品だろうか、だとしたらどんなプレゼントだろうかと少女は気になったが、勝手に中身を改めるのはあまりに行儀が悪い。先輩が戻ってくるまで待とう、と考え直したもののやはり気になる。少しならいいよね…と一人ごちた彼女は袋の中を覗いてみた。
 その瞬間少女は思わず小さく賛嘆の声をもらしていた。
 包みの中はエナメルのチョーカーだった。黒く艶やかなエナメルに、シルバーで出来た見た事のない少し変わった鳥があしらわれている。
 少女は一瞬躊躇したが、包みからそっとチョーカーを取り出すと、はにかんだ表情で自分の首に当てた。


 黒髪の少女がお茶の乗ったトレイを持って部屋に戻ると、待っていたはずの少女は見あたらなかった。
 トイレに立った様子もなく、むろん帰った訳でもない。
 彼女は部屋の中を見渡すと、ベッドで視線を止めた。
 少女はベッドの上に身体を横たえていたのだ。
 彼女はトレイを床に置くと、ベッドに仰向けになって身じろぎもしない少女に近づき声をかけた。
 しかし「それ」はつい先程まで緊張に身を固くしていた少女ではなかった。
 固い点では同じだがベッドに横たわっていたのは、少女そっくりの形をした真っ白な石像だったのだ。
 大理石のような光沢のある表面は、宝石を思わせた。すこし仰け反った姿のまま、開かれた瞳はぼんやりと中空をさまよい、何かを言いかけたような口の中から微かに白い舌が覗いている。投げ出された細い腕や、ワンピースの裾から伸びた僅かに開いた足は、息をのむほど艶めかしく優美な曲線で見る者の視線を釘付けにした。
 少女にそっくりの石像だが、これは少女ではない。だが、少女の石像が身につけているのは間違いなく少女が着ていた服である。

 黒髪の少女は石像の足下に落ちているチョーカーを拾いあげ、笑みを漏らした。
 彼女は少女が自分の罠にかかり、固い石像へとその姿を変えられてしまったのを確信したのだった。
 先日、妖しげな骨董屋で手に入れた「石化の呪いが掛けられたチョーカー」は、胡散臭い店主の説明とは裏腹にどうやら本物だったようだ。
 生きてる時よりずっと可愛らしい。これで貴女は永遠に私のモノ…。彼女は呟くと、当然のように少女の服を脱がせ始めた。
 石と化した少女の身体から苦労してワンピースを剥ぎ取ると、中から可愛い飾りの付いた真っ白な布が現れた。
 彼女の大事な箇所を守っている見るからに新しいその下着は、少女が今日、黒髪の少女に身体を捧げるつもりだったらしいことを伺わせた。
 白い布と劣らず艶やかな白い肌の対比に彼女はふむふむと頷くと、ブラの上から手のひらで少女の胸を優しくさすった。無論、元は柔らかかったであろう少女の胸は固く、冷ややかだったが黒髪の少女は全く気にはした様子はないどころか、却って興味深げに宝物のように彼女の身体をまさぐるのだった。

 ブラをたくし上げると少女の可愛らしい胸が露わになった。
 元々あまり大きくはない少女の胸は、仰向けのまま石化している事もあり、自重で潰れてしまい乳房と言うよりも、なだらかなふくらみと形容したほうが当たっていた。それでもささやかな双丘の先端に位置する小さく先の割れた乳首は、キラキラと光を反射して未成熟ではあるがそれが確かに女性のものであることを主張しているようだった。
 中まで完全に石になってしまった少女の胸をノックするように叩くと、コンコンという鈍い音が、つま先で乳首を弾くとチン、という磁器のような澄んだ音がした。実際少女は磁器のような輝きを放っていたが、胸にブラの跡が付いたまま固まってしまっているのが、少し惜しくもあり愛らしくもあるわね、と彼女は思った。
 しばらくの間、叩いたり弾いたりすることで彼女の身体が奏でる音に聴き入っていた黒髪の少女だったが、気が済んだのか攻める部分を変え、少女が身につけている、女性のもっとも大事な部分を覆い隠していた最後の一枚に手を掛けた。

 ウェストレースやリボンの飾りが付いたショーツを少女の身体から剥ぎ取ると、まずお腹から下腹部、そして盛り上がった丘へとつながる美しいラインが目に付く。
 そしてその丘にはふっさりとしたアンダーヘアが、きらきらと光を放ちながら脚の付け根近くまで覆っていた。毛深いというほどではないが、少女のそこは黒髪の少女の想像よりもはるかにふさふさと茂っていた。大人しく可愛らしい少女に似つかわしくない気もしたが、少女がまだ他人にその部分を晒しておらず、手入れに気を掛ける事もなかったのだろうと思うと少し可笑しかった。
 光る糸の様な少女のアンダーヘアを黒髪の少女がさっと撫でると、シャリ、という微かな音が聞こえ、ピキンと何本かが折れた。
 僅かにカールしたそれを手にとってかざすと、光が透けてまさに銀の糸を思わせる。
 茂みからさらに下に手を這わせると、脚の付け根の所にある縦に走るスリットが手に触れた。
 少女のその部分は脚が開いた状態と興奮のせいか、微かに口を開き、中の複雑な襞が見え隠れしていた。固い石像になってしまったが、少女の秘めやかな部分は淫靡で柔らかそうな造形を未だ保っている。
 黒髪の少女は少女の中に、どうにかして細い白魚のような指を挿入しようと力を込めたが、相手が石の身体ではそれもかなわない。
 彼女はため息をついて少女の股間に顔を寄せると、迷うことなくまだ幼さを残す少女の秘唇にくちづけをした。
 少女の胎奥に佇む妖しげな襞に、黒髪の少女は何度も愛おしげに舌を這わせたが、憧れの先輩に一番敏感な場所を愛撫されても石と化した少女はぽかんと虚空を見つめるだけだった。
 少女の股間をべたべたにすると、黒髪の少女はふと顔を上げ思い出したように出窓の花瓶から赤いバラを一本抜き、少女の秘唇にスッと差し込んだ。
 僅かに開き、唾液で濡らされていたせいか少女のその部分はするすると根本までバラの茎を飲み込んでしまった。生身の少女なら、本来男性を迎える場所に棘のあるバラを射しこまれれば苦痛にのたうち回らなくてはならないはずだが、今の少女はただ黙って愛おしい先輩のプレゼントを身体に受け入れた。
 純白の身体の股間から真っ赤なバラを咲かせた少女の姿はこの上もなく扇情的で、それでいて汚れのない美しさを感じさせた。
 陶然とした表情で黒髪の少女は自分の唇を少女の唇に触れさせた。
 ついばむようなキス、ついで少女の石になった舌の根本まで吸い付くような深いキス。
 舌を絡ませながら少女の瞳を覗き込むが、生きた少女の時なら感涙に咽んでいたであろうこの行為も、ガラスの膜を張ったような虚ろな瞳に自分の顔と長い黒髪が映り込んでいるだけだった。
 唾液を少女の口腔に流し込んで顔を離すと口の間につ――――…と糸が引いて切れる。
 少女の口の端から唾液が垂れているのを見た黒髪の少女は、それを指先でぬぐい、少女の口の中に垂らすと満足そうな笑みを浮かべた。

 
 彼女は少女の白い裸体をしばらくじっと見つめていたが、何かを決心したように部屋を後にした。
 少女の身体を思うままに貪ったが、永遠に自分だけのモノにするにはまだしなければならない事があった。



 ある雨の日、黒髪の少女の家に友人が遊びに訪れた。
 二人は部屋の中でおしゃべりに興じていたが、友人がふと庭に視線を向けた。見事に咲きこぼれた赤いバラと濃緑の葉、そして白い玉砂利のコントラストに目を奪われる。
 それだけでも美しい情景だったが、雨に濡れてより深みのある色合いを醸し出していた。
 キレイね、と呟いた友人はベッドサイドや出窓に、庭の玉砂利と同じ真っ白な美しい大小の石が飾ってあるのに気付いた。
 テーブルの上の可愛らしい小瓶にも、小さいビー玉のような小石を詰めて宝物のように飾ってある。
 何の石かと尋ねる友人に、黒髪の少女は世界で一番美しい宝石よ、と答えた。友人はキレイはキレイだけど、世界で一番は大げさね、と冗談めかして言った。
 他の人にはこれはただの綺麗な石にすぎない。
 
 ――この石の本当の美しさを理解できるのは世界でただ一人、私だけ… 

 黒髪の少女は、小さな小瓶から一粒の小石を取り出すと口に含み、微笑んだ。


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