その森に・・・後編

作:モンジ


「そ・・そんな・・・・」
その場にへたり込み、力なく呻くミスト。
私の、私のせいだ
私を庇ってルディアが・・・
私がいけなかったんだ
あそこで私がきちんとしていれば・・・
私が、私が、私が・・・・!
「ミスト!!」
カルールの叱咤。
その声で、はっと現実に戻ってくるミスト。
見るとあの触手が再び自分を狙っている。
「あなたが逃げなきゃルディアが身代わりになった意味がないじゃない!!」
その言葉に反応し、彼女は咄嗟に横に跳とんだ。
さっきまで彼女のいた場所に、あの液が飛び散った。
飛沫が飛んで、ドレスに液が掛かる。
しかし、そんなことを気にしている暇は無く、急いでカルールのいるところへ走り出した。
必死に足を動かし、全力でその場から離れようとする。
出来るだけ速く!すぐあの怪物から逃げなきゃ!
今のミストにはそのことしか考えられなかった。


しかし、必死に逃げようとするミストの背中を衝撃が襲った。
背中に何かが張り付く感触・・・
後ろからの衝撃に思わず転んでしまったミスト。
前のめりに倒れたまま、慌てて背中を見る。
・・・・・・スライム
深い緑色をした粘液のような生物・・・
それが彼女の背中に張り付いていたのだ。
「いやあああ!!」
ミストの悲鳴が響き渡った。
スライムは、そんな彼女に構うことなく自らの支配領域を広げていく。
どんどんと覆われていくミスト。
緑の粘膜が彼女を包み込んでいく。
「姉さん!助けて!!」
悲痛な叫び。
カルールが居た場所へ右手を伸ばす。
助けて!この手を掴んで!
・・・しかし、助けを求めた時、目の前にカルールの姿はなく、深い絶望と落胆がミストに訪れた。
「そんな・・・・なんで・・・」
そう言っている間にもスライムは彼女を包んでいく・・・
粘膜に覆われた部位は動かすことができず、既に体の殆んどを覆い尽くされたミストは身動きが取れなくなっていた。
遂に、彼女の顔にまで緑の浸食が開始される。
ほっそりとした首筋から、徐々に広がっていく粘液・・・
だんだんと、だが確実に、ミストの体はスライムに犯されていった。
可愛らしい唇が・・・すらりとした鼻が・・・漆黒の瞳が・・・
緑に包まれていく。
覆われた個所はまったく動かすことができなくなった。
開いたままの口を閉じることもできず、瞬きすらも行うことができない・・・
とうとう、ミストは完全にスライムに取り込まれた。
しかし、不思議と息は苦しくない・・・・
むしろ、体中を包まれて心地良いくらいだ。
水の中にいるような・・・誰かに抱かれているような不思議な感覚・・・・
心地よい眠気がミストを包み込んでいく。
目を開いているはずなのに、だんだんと暗くなっていく視界。
最早、姉に見捨てられた事も、自分の世話係が石になった事も、どうでもよくなっていった。
ただ今は、そっと眠りたい・・・・
(おやすみなさい)
心の奥で小さく呟くと、ミストは静かにその意識を手放した。


遠くから見ると、まるでエメラルドの如く深緑に輝いているミスト。
上体を軽く起こした格好で右手を伸ばし、森の奥を見つめ続けている。
憂いを含んだその瞳は軽く開かれ、慎ましやかな口は何かに驚いたように開かれていた。
深緑のドレスは幾つか皺を作ったまま、風になびく事も無く、さらさらと流れていた髪も今は、その形を留めている。
その顔は驚いているようにも、無表情のようにも見て取れる。
最早、その瞳に意志の光は無い。
その足も、緑のドレスも、小柄な肩も、小さな胸も、必死に伸ばされた腕も・・・・全てが緑に包まれている。
そして、彼女はその場で鈍く光り輝き続けていた。
まるで、元々そこに飾られていた美術品であるかのように・・・・・




暗い森をひたすら走り続けるカルール
その瞳には涙が溜まっている
そして、その心には様々な感情が湧きあがっていた。

ミストを見捨てた
違う・・・・・!
ルディアを見捨てた
違う・・・・・!
ミストは大切な妹だったのに・・・ルディアだって大切な友達だったのに・・・
助けを求めていたのに・・・・・・ひょっとしたら助けられたかもしれないのに・・・・・・
それなのに、私は見捨てた・・・・・・
「違う!!」
必死に頭を横に振る・・・見捨てたわけじゃない・・・・見捨てたわけじゃないんだ
自分が屋敷に戻れれば、二人とも助けることができる・・・・・・兵隊を雇って、あの怪物を退治すれば、全て丸く収まる
とにかく、私が助けを呼べば二人が助かる!
そんな、言い訳にもならない言い訳を自分にしながら、彼女は森の中を駆けて行った。




心なしか、辺りが明るくなったような気がした。
夜が・・・・・・明けてしまったのだろう。
ふらふらとよろめきながら、ぼんやりと、彼女は考えた。
どこまで走ったか分らない・・・・・・最早、疲れ果てて走る気力もない・・・・・・
ふと、辺りに霧が出ているのに気付いた。
さっきまでは霧なんてなかったはず・・・・
とにかく、乳白色の霧の中をふらふらと進んでいく。
すると、だんだんと、体が重くなっていく。
抗えない睡魔が襲ってくる。
体中の疲れが一気に襲い掛かってくる。
霧の中を進んでいったその足がゆっくりと止まった。
そして、彼女はペタリとその場に座り込んだ・・・・・・いや、へたり込んだと言った方が正しい。
夜通しで走り続け、水も食べ物も口にしていない。
森の道は決して平坦ではなく、幾度も足を取られ、そして何度も転んだ。
「もう・・・・・・どうでもいい・・・・・・」
消え入るように呟き、カルールはその場に横になった。
そして、ゆっくりと目を閉じ、沈むように眠りに落ちて行った




すっかり眠ってしまったカルールの前に、人影が現れた。
一つ、二つ、三つ・・・・・・影は次々と増えていき、全てで七つ、カルールの前に現れた。
どの影も黒いフードを被っており、その顔を窺い知ることはできない・・・・・・
「霧の効果が出たか、ようやく寝たな・・・・・・それにしても、この森に人が居るのも珍しい」
「ああ、広場の方にも二人ばかりいたぞ。もっとも守護獣にやられていたがな」
「それにしても、結構な美人じゃないか。そうそう居る器量ではないぞ?」
「広場で固まっていた女達もなかなかだったな」
「女か・・・この身体になって久しぶりだ」
「ああ、ゆっくりと楽しむとするか」
そう囁きあうと、男達はカルールを抱え、その場から消え去った。




暗く、どこまでも不気味で、陰気な地下室。
幾十もの怨念が渦巻いているような・・・・・そんな禍々しさがそこにはあった。
無機質な壁面が松明によって照らされている。
そんな場所で、カルールは目を覚ました。
横になったまま、ゆっくりと目を開く。
体がダルイ・・・・足が痛い・・・・疲労が完全に抜けていないようで頭が重い・・・・
とにかく、周りの状況を確かめるため体を起こそうとする。
だが、手足が動かない・・・・・
四肢の感覚はある・・・・・それなのに動かないのだ。
首だけ動かして、どうにか手足を見ようとする。
と、横に何かが居る気配がした。
慌ててその方向に顔を向ける。
すると、そこにいたのは・・・・・・
「ルディア!!」
思わず声を上げてしまう。
そこに居たのは広場で石になったはずのルディアだ。しかもその身体は元に戻っており、キチンとした人間の色・・・肌色だった。
しかし、その格好は、服はおろか下着も何も身に着けておらず、未発達な胸や、子供らしさを残した体、はたまた下半身の大切な部分も晒している状態だ。
どうやら深く寝入っている様子で、すうすうと寝息を立てている。
どうしてここにルディアが居るのか?どうして元に戻っているのだろうか?
そんな疑問も思い浮かばず、ただ彼女の無事を心から喜ぶカルール。


ふと、ルディアの奥にも誰かが居ることに気付く。
薄暗い中、目を凝らしてよく見ようとする。
ルディアがここに居て、自分もここに居る・・・ということは・・・・・・ということは、ひょっとして・・・・・・!
・・・・・・やっぱりそうだ!・・・・・・思った通りだ!・・・・・・思った通りにミストがいた!
ルディアと同じように何も身に着けておらず、深く眠っているようだ。
二人の無事な姿を確認して、思わず涙が零れる。
嬉し涙が一筋、カルールの頬を伝っていった。


しばらく二人の無事を喜んだ後、ハタと思う。
ミストもルディアも裸でいるのだ。
それなのに、自分だけ服を着ていることがあるのだろうか・・・
慌てて自分の体を見る。
やはり・・・・・やはり何も身に付けていない。
大ぶりだが形の良い胸や、肉感的な体が剥き出しだった・・・・・・勿論、股の部分を隠すものもない。
どうにかして体を隠そうとする。
せめて、胸と大切な場所だけでも隠さなければ!
しかし、そんなカルールの意思に反して、手足はぴくりとも動こうとしない・・・・
今度こそ手足を確認するカルール。
そして、自らの目を疑った。
「・・・・・・白く、なってる」
手が、足が、白い石になっている・・・
柔らかな指先から、肩まで・・・
伸ばされた足先から、腿の付け根まで・・・
全てが白く固い石になっているのだ。
それなのに・・・・・・石になっている筈なのに感覚は残っている・・・・
「どう・・・なってるの・・・・?」
呻くように呟くカルール。
その時、地下室のドアが乱暴に開かれた。
軋むような音が響き、黒いフードの男が一人、入ってきた。


「ほう、もう起きたのか・・・・どうやら術が効きづらい体質の様だな」
老人の様な、獣の呻きの様な、そんな擦れた声だ。
「ふ、服を掛けてください・・・・・」
懇願するようにカルールが言った。
しかし、男は何事も無かったかのように歩を進め、カルール達に近寄った。
「お願い・・・服を」
「五月蠅いな・・・・・その口も石にしてやろうか?物に喋る機能はいらんしなぁ?」
「も・・・物?」
意味が分らなかった・・・・自分達が、物?
そもそも、目の前の男は何者なのか?
そして、此処はどこなのか?
自分達はどうなるのか?
疑問が・・・次から次へと浮かんでくる。
「・・・・・・ふん、まあよかろう、自分達の運命くらいは知りたいだろうしな・・・
貴様らにはワシ等の相手をしてもらう。なぁに心配するな・・・・・・殺しはせんて」
「あ、相手?」
絞り出すように声を出す・・・声が震えていると、自分でも分かる
「そうだ・・・ワシ等の肉欲を満たしてもらおうか。なぁに、7人居るからな・・・そうそう寂しい思いはせんよ」
そう言うと、男はフードを脱いだ。
黒いフードの下から現れたのは、堂々たる体躯を持った壮年の男だった。
「に、肉欲って・・・それって!」
「ふん、こんな森に数百年も籠っておると、流石に人は肌が恋しくなる・・・前に居た女は逃げ出してしまってな、ちょうど代わりの女を探していたんだよ・・・・・・
最も、逃げだした女は広場で石になって砕け散っていたがな・・・・・・いい気味だ」
くっくっくと、ほくそ笑みながら男が言った。
「あ、あの石像が!」
「ほう、やはり貴様らが壊したのか?そうだよなぁ、他に壊す輩がおらんしなぁ・・・・・・貴様らも逃げ出したら石にして砕いてやる・・・
だから、滅多なことは考えるなよ?
最も、手足はずっと石のままにするからな・・・・・逃げだすこともできんよ」
「そんな!?せ、せめてミストとルディアは見逃して!!まだ子供なのよ!
そ、それに・・・私達は貴族の娘よ!貴族の娘に手を出したら、どうなるか分かるでしょう!?」
精一杯の虚勢を張って言い放つカルール。
貴族の子女に対してこのような事をすれば、様々な所が黙っていない・・・・たった7人の男くらい、苦もなく亡き者にできる。
自分達が貴族と分かれば、少し位相手も委縮するだろう・・・・・・そう考えていた。
しかし・・・


「ほう!貴族の!道理で良い身体をしているわけだ!これはますます楽しみになってきたなぁ」
「なん!!な?!き、貴族なのよ!?そんなことしたらお父様が・・・・領主が黙っていないわよ!!」
「それがどうした?たかが一貴族に何ができる?例え国の軍隊が出てきたとしても、ワシ等に敵うと思っているのか?ワシ等は不老不死の秘術を手に入れ・・・底なしとも言える魔力を手に入れた!そして、数百年間・・・森に籠って魔道の全てを研究をしてきたのだ!!
 高々、戦士や凡百魔術師の二個師団や三個師団・・・ワシ等の敵ではない!!
 三日もあれば、この国の軍を叩き潰し、ワシ等が王になることも可能なのだよ!!」
高らかに叫んだ男の眼を見て、カルールは悟った。
この男の言っていることは本当だ・・・・・本当に、国と戦争をしても勝つであろう、と・・・
そして、この男は狂ってる、そのことも理解したのだ。
「さて、少し話しすぎたようだな・・・・・そろそろ、始めさせてもらおうか。
 なに、子供のことは気にするな・・・・・事が済んだら全身を石にして膣の中を洗ってやる。
 まあ、石になっても意識や感覚は残るみたいだからな・・・念入りに洗ってやるから感謝しろよ?
そうだ!貴様らはワシ等の相手をするとき以外は石になっていてもらおうか・・・・・・そうすれば、飯や水を用意しなくて済むしな・・・・・・
くっくっく・・・嬉しかろう?まぐわっているとき以外は動くことも喋ることも出来んのだからな。
快楽だけを受けることが出来るのだぞ?もっと喜べ!文字通り、性欲処理の道具になるのだ!」
暗い暗い地下室の中で・・・・狂った様に笑いながら男が言った。


狂ったような笑いを聞きながら、カルールは思った。
これから自分はどうなるのだろうか、と・・・・
七人の男達に、代わる代わる犯され続け、用がすんだら石にされる。
食べる事も、水を飲む事も、動くことも許されず・・・そして、ただ男達の相手をするためだけに元に戻され、また犯される・・・・
悪夢・・・・・それ以外の何が当て嵌まるのだろうか?
女として、人としても扱ってもらえずに、石像と性欲処理の道具の間を行き来する。
石になっている間は、喋ることも、涙を流すことも出来ずにひたすら虚空を見つめ続けて、男達が来るのを待ち続ける置物と成り果てるのだ。
ああ、夢なら覚めて欲しい・・・・自分はまだ、あの森で眠っていると考えたい・・・


「さあ、始めるとしようか・・・・」
男が、そう言いながら体を合わせてきた。
絶望に染められ、抵抗する気さえ失った彼女の身体が、男に汚されていった。
カルール達の、物としても生活は始まったばかりだ。










その森に、入ってはいけない・・・・
入ったら帰ってこれなくなるのだから・・・・


戻る