GAME OVER後の残存世界の弊害とその事後処理

作:くーろん


彼女、パインは焦っていた。
ビサイド村から海岸への道。モンスターも弱く比較的安全な場所、のはずだった。
それが今、戦えるものは彼女、ただ1人。
2人の仲間、ユウナとリュックはそばで石像と化し、動きを止めていた。
つい数刻までの頼もしい仲間。だが今は、物言わぬ美しき石のオブジェ。

必死に両手のナイフを振るう。
切っ先が獲物を捕らえる。低く姿勢を保ち、勢いよく切り裂く。

だが、そこまでだった。
一瞬で肌が灰色に染まった。ナイフを振り抜いたその瞬間のまま、パインは固まる。
おそらく彼女は、自分が石になった事にも気づかなかったであろう。

新しいオブジェがまた1つ、増えた。
動ける人間は・・・・もういない。
モンスターがにじり寄る。一歩、また一歩・・・
3人の選択肢はない。戦う事も、逃げる事も、身を守る事すら許されない。

モンスターが足を止める。彼にとって目の前にいるのは獲物でしかない。
一気に飛びかかる。その牙が、かつて人間だった石像に迫る。

牙は立てられなかった。
彼は、予期せぬ強烈な一撃によって両断された。
狩人から獲物と成り下がった彼は、地面にその身を沈めた・・・



「・・・弱い」当たり前だな。こんなとこでやられるほうがどうかしてる。
変わらぬ表情で佇む3体の石像に、俺は近づいた。
「さて――GAME OVER、だな。こりゃ」
おそらく、画面にはそう表示されているんだろう。カメラアングルは確か、上空より見下ろしだったか。

「全滅確認。とはいえ・・・・・・なんでこんな序盤で全滅するかねえ。あんたらは」
石化を解こうとするでもなく。
目の前にあるユ・リ・パ3人の顔を見つめつつ、半ば呆れた声で俺は語りかけた。
彼女達は答えない。答えられるはずもないが。
いや、別に石像相手に返答求める気なんざさらさらないんだが・・・

「何、そんな簡単な事も判らないの?」
横からの声。
潮風に金髪をなびかせた連れの1人、雪香(すずか)が怪訝そうな顔で俺を見ていた。

「随分な言い草だな。ならお前には判るのかよ?」
「当然よ。彼女達はね――」
「ねえねえ、お姉ちゃん、お姉ちゃん」

おい、話の途中に、と思ったら今度はお前か・・・
もう1人の連れ、優舞(ゆま)がじれったそうに雪香の袖を掴んでいた。

「わたし、早くパインちゃん達に触ってスリスリして、他にもいろいろしたいー」
「あ・・・そっか、こんなのに答えてる場合じゃないわね。行くわよ、優舞」
「うん!」

まるでおつかいに行くがごとく、仲良く手を取りトコトコと歩き始めた2人・・・・・・の首根っこを掴み、
「待てお前ら」
と、力一杯こちらに引き戻した。

「っ痛!ちょっと、いきなり引っ張るなんてどういう了見よ!」
「人の存在無視して仲良くどっか行く、お前らの了見を知たいわこっちは。
あのなあ・・・遊びに来てんじゃないんだ。
なんでここ、FF10−2の世界へ来たかわかってるか?」
「・・・・・・・・・・・・分かる?」「ええと・・・確かぁ・・・」

いや、考え込まんでくれ・・・
しばらく俺の顔と目の前の石像を見比べていたが、やがてパッを顔を見合わせた。
「思い出したか?じゃあ答えてみ」
「石化した3人の鑑賞」「3人の品評」

・・・・・・・・・わかってねえ。ああどうせこんな事だろうと思ってたよ。

「無言という事は、正解ね」
「それじゃ早速――」

ゴン!

答え代わりの熱いゲンコツ2発を、2人の頭に叩き込んだ。


いかん……名前を書くのを忘れてた。俺は律輝(りつき)。
今までの会話を見てて、妙な違和感を覚えた方は察しがいい。
詳しく説明しとくと、俺達はここ「FF10−2」の世界の住人ではない。
さらに言えば人間ですらない。
見た目は人と変わらないが、「電霊」という異なる種族に属している。

電霊とはまあ・・・電子情報の中に潜む精霊みたいなもんだと思ってもらいたい。
俺の前で痛そうに頭を抱えている2人、雪香と優舞も同じく電霊。
ついでに言えば、ふがいない俺の妹達でもある。

「正座」
いまだ2人は頭を押さえていたが、構わず地面を指差しそう告げた。優舞が素直に従う。
雪香の奴は恨みがましい目でこっちを睨みながらも、しぶしぶ地べたに座った。

「そのまま少し反省してろ」
「く・・・わかったわよ」
「もうちょっとしたら1回だけ説明する。いいか、頭ん中にしっっっかりと!叩き込めよ」
なんでこんなこと説明せなならんのか・・・この仕事就く奴にとっちゃ常識だってのに。
まあ文句を言ってもしょうがない。
2人が反省している少しの間、目の前の石像についてじっくりと見ることにした。

かがみかけた姿勢のまま、顔を前に向け、固まっているユウナ。
手に持つマイクからして、ジョブは歌姫か。
痛みをこらえた切なそうな表情は、訴えかけるような目も加わってなんともいたたまれない気持ちにさせる。

カードを大きく振りかざして固まってるリュックは・・・まあギャンブラーだよなこれは。
これって確か・・・攻撃した瞬間だよな。しかし手のひねりがこれじゃ・・・・うーむ。
踏み込んだ姿勢のためか、左足がスリットから覗いている。
チラリと覗く左足は、石化しても艶かしさは失われていない。むしろ動かない分増してるかもしれん。

パインは・・・両手にナイフといったらシーフしかありえんな。
体を低く保ち、目は前方を見据え、ナイフを持った両の手は大きく開いた瞬間で固まっている。
だがナイフの刃先の方向・・・これじゃまるで・・・
鋭く睨んだ目を見ていると、今にも切り付けるのではないかという気にさせる。
が、動くわけないんだよな。そのミスマッチさがなんともいえない気分にさせる。

どれも髪の毛一本から服のしわまで、全て原型を失うことなく精巧に固まっている。
その迫力は相当なものだ。
「こういうのを、リアルで見て触れるのが電霊の特権よね」
雪香、(思考に)口を挟まんでいい。

(ただ、なあ・・・・どれもこれも、妙な固まり方してるのがわからんなあ・・・・)
「ねえ、いい加減始めてもらいたいんだけど」
「ん?・・・もうこんな時間か」

そろそろ始めるとするか。
雪香の奴がさっきの件について何か分かってるようだし、後で聞けばいいことだ。

「正座崩していいぞ、長い話になるからな。いいか、そもそも――」
俺は妹達に今、この「FF10-2の世界」にいる理由について説明を始めた。


なぜこの世界にいるのか。
と聞かれれば、回答は「GAME OVERになったこの世界を消すため」となる。
ううむ・・・・こう書くと勘違いされそうだな。
「時間を戻す」と書いたほうが表現的にやんわりとしてるか。

『・・・・今よ』
『え?』
『うちの「お兄様」は、説明とか説教を始めると頭がそれだけに集中するから・・・
 もう離れても気づかないわ。今のうちに石像の方へ行くの』

GAME OVERになった場合、普通の人はコンティニューするだろう。
さて、このときGAME OVERになった世界はどうなるか。分かるだろうか?

『うわあ・・・・・・こうしてじっくり見るとこの3人って・・・スタイルすっごくいいー』
『こんなモデル体型の子ばっか作るってのもどうかとは思うけど・・・ま、私達にとってはありがたい話か』
『ホントだよお。胸の辺りとか、引き締まった腰がまた・・・』

結論から言えば、世界はそのまま「残る」。
無論、コンティニュー後の世界も新たに生まれるため、ここに世界が2つ誕生することになる。
で、実際にはこれがプレイ回数分あるため、世界の数というのは無数に存在しているんだな。

『こうやって・・・リュックの足・・・指でなぞると・・・・・石になった網タイツの感触が心地いいわ・・・』
『パインちゃんのこの顔・・・迫力あって触りがいあるなぁ・・・・・ねえねえお姉ちゃん』
『なに・・・あまり邪魔・・・しないで』

さてこのGAME OVERした世界だが、そのまま放置するとあまりよろしくない。
なにせ、大概は遅かれ早かれ破滅だの滅亡だの起こすものばかり。
それだけならまだいいんだが・・・普通にプレイ中の世界にまで影響するからたちが悪い。

『この3人立たせたままじゃ危なっかしいし、下に倒しちゃおうよ』
『そうねえ・・・地面にぶつけて壊れたら事だし、倒した方が・・・扱いやすいし』

ゲーム中、やたらとフリーズしたり、同じところで何回もミスした経験はないだろうか?
大概は「不具合」などと見なされるこれらは、上に挙げた影響によるものも少なからず存在する。
ついでにその確立は、ゲームオーバーした世界の数に比例するため、
放置しておけばその率は高くなるというわけだ。

『う、うう、お、重い、よぉ!』
『ダメよ!絶対手を離しちゃダメ!ここの石像はただでさえ壊れやすいんだから!!』
『う、うん。が、がん、ば、る、よお!!』
ゴトリ

ところで電霊というのは、人の発見した電気より生まれ、人が作り出りし電子情報によって進化してきた。
ゲームも電子情報の1つであり、しかも保有する情報量が大きい。3D空間なども入ってるしな。
電霊にも多大な影響を与えてきた。が、ここでさっき言ったことが問題となってしまった。

『ふう・・・これで全部ね』
『疲れたぁ・・・・ねえ、お姉ちゃん・・・そろそろもっと気持ちいいことしちゃおうよ』
『ちょ、ちょっとダメよ!あいつだっているんだから』
『別にお兄ちゃんだけなら問題ないってばぁ・・・それに、お姉ちゃんは触るだけで満足できるの?』
『う・・・そ、それは・・・』

なにせ放置すればひたすら荒れていくのだ。フリーズしまくりのゲームを誰がプレイするだろう。
このまま何もしなければ、人がゲームから離れていく事は明白。
その行き着くところは、ゲームという莫大な電子情報の消滅に繋がり、
電霊にとってそれは、自分達の進化に大きく貢献する情報の消失に繋がる。

それは、ゆるやかな退化を招く事を意味していた。

『――じゃあ私はリュックね。優舞は?』
『私はパインちゃんー』
『パインからとはねえ・・・マニアックな』

今さら単細胞生物レベルまで戻るなんてまっぴら御免だ。
なんとかゲーム世界への介入方法を見つけ出した電霊たちが、
不要因子の除去を、自分達の仕事の1つにしたのは当然の事と言えるだろう。


「そんなわけで、不要因子、つまりGAME OVERしたこの世界を除去するため、ここに来てるんだ」
説明を終わり、少し一息。
途中熱が入り、ついつい引っ張り出してきたホワイトボードには、図式がびっしりと並んでいた。

「今日、お前達にはその作業を実際に行ってもらう。初めてで大変かと思うが、やれるか?」
「うん」「OK」
「そうか。やっとわか、ってくれ・・・・」

――なぜ石像のほうから声が聞こえる?
声の先を見ると、いつの間にか横倒しになった石像に雪香と優舞がまたがっており、

「準備はいいわね。それじゃ・・・」「うん・・・・そろそろ・・・いっちゃおう・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい

「「いただき――」」
「ドレイン(×2)」

「ひあ!!」「はう!!」
ドレインとはHPを吸い取る魔法で・・・だいたいの人は知ってるか。
ごっそりと体力を吸い取られたうちの妹どもは、石像の上にヘナヘナと倒れこんだ。

なんというか・・・・不節操極まりない失態をお見せして大変申し訳ない。

「人の説明を無視して石像をご堪能か・・・いいご身分だなお前達」
「こ・・・ここまで気づかない・・・そっちも問題あると・・・思うけど」「そう・・・だよぅ・・」
「やかましい。とっとと起きろ」
(自分の失態は無視して)2人を起こそうとする。だが

「いやよ・・・もうちょっと・・・石の感触を味わうんだから・・・」「ひひゃあ・・・冷たくて・・・気持ちいい・・・」
こいつらときたら、石像にへばりついて離れようとしない。
それを抵抗すらせず、ただ受け入れるリュックとパイン(の石像)。
石になった後も、まさかこんな仕打ち受けるとは思わなかったろうに・・・・

「いいからとっと、と、起きろよ!仕事が進まねえだろうが!!」
必死にへばりつく2人を無理やり引っぺがす。
そして必要ない気がしてきたが・・・最小限の回復をほどこした。

(はあ・・・・)思わずため息が漏れる。
うちの妹が石化とか凍結とかに強い関心持つ、「固めフェチ」というものだとは知ってたが。
まかかモノ本見てここまで突っ走るとは思わなかった。
頼むから、もっと節操をもって行動しような・・・

「ほれ、とっとと作業に入るぞ」
「はぁぁぁいぃぃ・・・・・」「いぃ・・・よぉ・・・・」
惚けた声で返事するな。
大丈夫かよホントに・・・・


「うーむ・・・」
先ほどの疑問がどうにも気になり、妹達が弄んでいた石像を見る。
「なに・・・かしたの?」「いや、さっきも聞いた事なんだが」
その答えは、雪香が欲望に負けたおかげで聞き損ねてしまったんだったな。
「なあ、あれの全滅した理由わかるか?」
「あれ・・・って?」「だからあの3体だよ」
そう言ってユ・リ・パの石像を指差す。

「プレイ時間は・・・かなりのようだが。全滅する理由がわからん。
そもそもなんで石化してるんだ?
ここいらに石化使うモンスターいないだろ、それに――」
他にも聞こうとしたところ、雪香があっさりと返事を返してきた。

「ああ、そんなこと・・・あのね、パーティアタックで全滅したのよ」「そうそう」
「・・・は?パーティアタック?」
「詳しく説明すると」
雪香はユ・リ・パ3人の石像を順に指差す。

「石化攻撃をつけたパインがユウナを攻撃→
同じく石化攻撃付きのリュックが自分を攻撃→
パインが自分を攻撃。と、こんな感じ。分かった?」

た、確かに・・・
それならさっきまで気になってた
『約2名、どうしても自分を切りつけたようにしか見えない』という疑問に説明はつく、が・・・

「だがよ・・・なぜそんな事したんだ?」
「なぜ、ですって?まだわからないというの?!」
バッっ、と大げさに手をかざす雪香。なんだ?なんか自嘲的になってきたぞ。。
こちらを向くやいなや、仁王立ちして俺を見上げる。優舞も同じく横に並ぶ。

「これは、私達と同じ趣向を持つ人間によるもの。いわば同志による作品!!」
「そうだよぉ。自分達がグッと来るポーズ取らせるために奮闘した結果なんだからあ!」

んなことふんぞり返って力説されても困るんだが。
しかし・・・人間にもいたんだな。うちの妹どもと同じ趣向持つ奴らが。

「そう。このポーズ1つ1つにプレイヤーの思いが込められているのよ」
「そうそう。グッと来るポーズになるまで、何時間も費やした結果なんだからぁ」
いつのまにか石像のそばに立った2人が、いとおしそうに3体の石像を見つめて言う。

「そんな作品をぉ、このまま放置しとくなんてもったいないよう」
「そう、そうなのよ」
もったいないのは分かったが、喋りながら、石像の胸だの足だの触るのは止めろ。
・・・ああ優舞、それ以上足の上まで指でなぞるの止めような。
それ以上進んだら兄として教育的指導ぶちかますぞ。

「だから私達は・・・・この3体の持ち帰りを要求するわ!!」
「はあ?!」
いきなり何いってるんだこいつは。

「認めないなら仕事やんないわよ」
「そうだー。ストライキだー」
「な・・・・・なんだと!!!!」

今の今まで仕事そっちのけで暴走しといて要求するだと・・・・このバカ妹どもは。
「お・・・・お前ら・・・・」
怒りで肩が震えてるのが分かる。
どう返答してやろうか。俺は考えていた。
考えに考えを重ね・・・・そして、結論が出た。

はあぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・

最初に出たのは、深い、深いため息。
次に出たのは

「・・・・いいぞ。そいつら好きに持ち帰っていいからとっとと仕事に取りかかれ」
諦めに近い、承諾の言葉だった。

なんで解石しないんだよ、とかこの人でなし、とか言われそうだがちょっと待ってくれ。
先ほども言ったが、今からこの世界を消去する。
実際にはコンティニュー地点まで時間を戻すのだが、
どっちにしろ現時間における、あの「石化した3人」は世界と共に消滅してしまうんだ。
どうせこのまま放置しようが解石して助けようが、消えてしまうという事実が変わるわけじゃない。
ならば妹達を納得させるために、利用させてもらっても同じって事だ。

・・・ああへりくつだと思うならそう思うがいいさ。何とでも言ってくれ。
俺はもう、欲望に突っ走るあの妹2人を、これ以上相手するのに疲れたんだよ・・・

「やったあ!」
「ふふ、話がわかるじゃない」
これ以上ない笑顔で喜ぶ2人。
そうか、よかったなお前達。俺はその笑顔に殺意を覚えているがな。

「持ち帰ったらどうしようかしら」
「そりゃあもう、ちゃんと飾ってからあっちこっち触りまくったりいろいろだよー。
顔とか胸とかお尻とか足とか、足の間をツツツーって伝って股先の――」
「表記できないこと口走ろうとするんじゃねえ!!!」

ガゴッ!!!

本日2度目の拳を、優舞のユルい頭に振り下ろした。




数時間後。
「――以上で報告を終わる」
「はい。業務および研修終了確認しました。ご苦労様です」
FF10−2での仕事も終え、俺は先ほどまでの顛末を報告していた。

今いるのは「電界」。電霊達のすむ世界。
目の前にいるおねえちゃんは「電脳世界管理局」という、
電子情報世界の統括監視を行うオペレーター。俺の顔なじみで名をフレイラという。

「妹さん達の活躍、見させてもらいましたわ。とても仲むつまじいご様子で」
「はっ!冗談じゃねえ」
俺は悪態づきながら、そばにあったソファーにどっかりと座った。
「日々之欲望の赴くままに動く、あいつ等の面倒を一度見て見やがれってんだ」
「あら、ちゃんと言われたとおりお仕事も終えてますし、とても素直そうな妹さん達だと思いますけど」
素直ねえ・・・「欲望に」についても含んでるなら、ほめ言葉じゃあないよな。

「さて、仕事も終わったし、俺は帰るぜ」
フレイラにそう告げると、俺はソファーから立ち上がる。と、その時

「律輝ー」「おにーちゃーん」
遠くより響く、聞きなれた声。
走ってきた妹達は俺の近くに来るなり、いきなり手を掴む。

「さっきね、FF10−2の全滅情報を見つけたのよ」
「そうそう。それも石化全滅だったんだよー」

興奮気味に話す2人。
・・・・マズイ。
「悪いが俺はもう帰るんでな」
と、断りながら逃げようとしたが、甘かった。

「これはもう、行くしかないわよね!」
「うん!というわけでお兄ちゃんもいっしょに行こうー」
今のこいつらに聞く耳なんて存在しない。
言いたい事だけ言った後、華奢な体からは想像もつかない力で両腕をがっしりと掴まれる。

「待て!今日の仕事は終わったばかりで・・・
なあおい、こいつらも実習終わったから2人だけでもいいよな?」
すがるように、オペレーターのフレイラに最後の望みをかける。

だが、世間は非情だ。あいつは
「仲がよろしくてうらやましい限りですわ。それではお気をつけて」
と一言告げるとニッコリと微笑み、手を振って送り出しやがった。

「じゃあ了承も出た事だし」「3人で、ゴー」
「待てお前ら!それにおい!フレイラ、俺には分かるぞ!
『余計な面倒ごと起こさないよう付き添ってきなさい』っていう魂胆が!」
「出発手続はこちらでやっておきますので、お2人ともご安心下さいね」
「ありがとう。助かるわ」「どうもー」
「って待て!淡々と処理してんじゃねえよ!!てめえら離せ!離しやがれ!!
俺は2度も・・・2度も同じ石像に対面するなんて御免なんだぁぁぁぁぁ!」

逃れようと必死にもがく。
だが、こういうとき我が妹達の結束力は、ダイヤをも軽く凌駕する。
残念ながら、ダイヤを砕ける力量を持たない俺にはなすすべもなく、ズルズルと引きずられていく。
そして・・・新たなユ・リ・パの石像の待つ世界へと再び旅立つのであった・・・


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