シチュエーション・アウトレット

作:固猫


 トラックからおろされてきたのは年齢様々な女性達の像。
 そのそれぞれが驚いて悲しんで、怒って、喜んでといった感じで、厳重な包装されたまま店内へと運ばれていった。
「ほんなら、確認しますんで」
「あいあいあい」
 よくよくみてみれば解るのだけど、像には何かしらの破損が見られ、トコロかしこに欠けた跡や、ヒビ、汚れなんかが見て取れる。
 腕がぽっくり折れている物もあったりなんだり、首が取れるんじゃないかってのものあったり無かったり。
「んー、ウチはアウトレットやきんにね、やっぱり壊れ物やけん、壊れたりするのよ」
「ですよねー」
 店内に入り、チェックシートにレ点をつけていくお店のヒト。
 像はそれぞれの名前で管理されていて、ヒトミちゃんとか、英子さんとか、えりさんとかが商品名として登録されている。
「えーでー、確か一つ足りないんですよねー?」
「ああ、みたいですろ、搬出する際に壊れちゃってーって、向こうの人言ってました、入ってたヒビが広がっちゃったとか、なんとか、股から真っ二つに」
「うぇー、解りました。まぁこまかいコトは後で問い合わせてみますわ」
「そうしてみてくださー、あ、ではココに印鑑お願いします」
「ほほい、ほい」
 壊れちゃった像は真理さんと言うらしい、もったいないかと思うのだけど、壊れちゃった物は仕方がない、どんなモノにだって寿命はあるのだもの。
 私は店の奥でお店のヒトから印鑑を貰い、ついでに一杯のコーヒーを貰いながらのんびりとする。
 店内は薄暗くて、明かりもちんまい、狭いと感じるほどに多数のシルエットで埋め尽くされた店内だが、蒸し暑さみたいなモノは感じる事はなかった。
「ウチはさぁ、本店が世田谷のほぉにあってさ、一応? 世界規模でチェーン店でやってるンだよね」
「へぇ、新潟の工場以外にも」
「ほぉほぉ、でーまぁ、製造ラインとか、やっぱり輸送中とかで破損品が出ちゃうわけさよね、壊れ物だから。そう言う訳あり商品がこっちの店舗に回ってこっそりと売り払ってるっちゅうこと」
 そう言いながら、お店のヒトは女の子達の身体を点検し、破損箇所をメモしていく。
 怒った顔の祐子ちゃんも、乳頭が欠け落ちてしまいコレじゃあ完品としては売ってもらえない。
「まぁ、他にも時々オモテの店じゃ売れないような商品もこっち来たりすんのよね、微笑んでたりー澄ました顔してくれれば良いんだけど、時々怒ったり何だりって売れないような表情されるんだよねぇ、後はアレ、いろいろ見えすぎてるヤツとかは流石に取り扱えんのよ」
「あー、ソレは良くないすね」
「そやろー、コン前の子、えー、静奈ちゃんやったか、なんてなー、何の不幸かおしりからすぽりと装置の中入ってもうてな」
「やぁ、すっごいかわいそ」
「そねー、結局そのままシュバコー、ジャカーンてなっちまってね、本格的に人様には見せられンもんなってしもたのよ」
「へぇ、へぇ、じゃあ、あれ、でー、結局そんこは?」
「まぁ、しゃーない言えばしゃーないんきどね、エッチな石像はチャチャーッと売れちゃったさ、いっそのこと新商品みんなにヤらせようかと思ったよ」
「そりゃ、しょぼーんですね」
 そんなこんなしながらでお店のヒトは全ての新商品を店に陳列し、私も飲み終えたコーヒーをコースターの上に戻した。
 正直眠いのだけど次の仕事もある。ずっとのんびり出来るほど私も自由な立場じゃない。
「まぁ、正直のトコロ売れ行きはいかんせん、といった感じさね、流行とも少しずれてるしねぇ」
「そんなところですかね、あ、ごちそ様です」
「んーんー、まぁ、今度年末にセールでもやろうかなおもてるよ、流石に数年間はけない子達はさっさと処分したいのよね」
「やっぱりそう言う子もいるんすね」
「おるおる、山のように」
 そう言ってお店のヒトは一体の像に手をかけてゆった。
「そやねぇ、この子がココの最年長かな、流石に8年間も一緒にいるとこっちが愛着わいて来てまーわ」
「へぇー」
 知美さんという名前のその像は、既に両手はなくなっており、折れ目は研磨されつるつるとした光沢を持っていた。
 背を向けたその姿、特に引き締まったおしりが良い出来だ。
 彫像になる前は大学で物理を専攻していたそうで……まぁ、いわゆる才色兼備ってヤツでまさか自分が売れ残りとして扱われるなんて思いもしなかっただろう。
「あとこっちの子もそね、もう6年ぐらいこの店に置いてあるよ、みさちゃんていうの」
 そう言って頭を撫でられたみさちゃんは他の像と比べ若干幼く見えた。
 驚いた顔のその像は、目立った破損もなく、表面を包むようなてかてかとした光沢を持っている。
「あ、かわいい……」
「気に入った?」
「やぁ、まぁ、気に入ったというかー」
「ままぁ、この子はねぇ、オーダーメイドだったんよね、良い出来映えだとは思ったんだーけど、クライアントがだだこねちゃってね、でーかくかくしかじかで表には出せンくてね、結局こっちの店に置く事になったの」
「へぇー」
 お店のヒトはそう言って彼女の身体を指先ではじき、良い音するでしょ、良い音するでしょ。と嬉しそうに続けた。
「ううん、あー、そえばアンタと同い年だねその子」
「え、あ、そなんですか?」
「うん、当時16歳だったから、22だね、もう」
「はぇー」
「あー、やー、どう、買ってかない? おねーさんなら安くしとくよぉ?」
「あははー、やぁ、そんなもんいらんですよー。ウチのアパートのせっまいですしね、買っても邪魔になるだけですよ。今月厳しいですし」
「んぇー、無理?」
「無理ですねぇ」
「あー……まぁーそーだよね普通の人は」
「やーすいませんねぇ、力になれませんで」
「あやや、あんまり気にせんで、アタシも無理言っちゃって悪かったぃ」
「やぁ、ダイジョブですよ。あーほいじゃぁそろそろ仕事戻りますんで、今日のトコロはここら辺で、また機会があればご利用くださぁ」
「ああ、ほいほいお疲れ様」
 そんで私はみさちゃんに手を振り、それじゃーそろそろ帰るにー、と告げる。
 彼女は驚いた顔でその手を見つめていた。
 私が店を出るときも、そしてまた、次に店を訪れたときも。
 まぁ、変わるわけがないか、彼女は既にタダの石のかたまりなのだし。


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