カボチャ大王からの贈りもの

作:haru


 「あの少女の石像は、カボチャ大王からのプレゼントだったんだろうか・・・」
1年たった今でも、私の頭の中で、時々その言葉が出てくる。

そう思いながら、ふとカボチャ畑の中に立っている1体の少女の石像を見つめる青年がいた。
彼は、小さな町の外れで、いろんな野菜を作っている農家である。
しかし、カボチャ畑はそれほど広くなく、出荷量も少ない為か、市場には出さず、
自宅から少し行った道路沿いで無人販売をする位だ。
そんなカボチャ畑が1年後、ここまで大きく変わってしまうとは思っていなかった。

 去年の10月31日の夜である、カボチャ畑の近くの1軒の家に
一人の少女が、窓をずっと眺めていました。
少女は、ハロウィンがとっても大好きで、その中でもカボチャ大王の存在を信じていました。
ハロウィンというと、通常は夜になると子供達が、魔女やお化け等に仮装して

「Trick or Treat!」

と言って家々をまわって、お菓子をもらう風習があるが、
この町では、逆で、ハロウィンに子供が外を出るとお化けに殺されると、言われており、
玄関に、魔よけのランタンを飾ったら、絶対に出さないようにしているのだ。
しかし、少女は一度でいいから、カボチャ大王を見てみたいという思いがあったのだが
必ずとして、外に出してくれません。
そして少女は、トイレに入り、その窓から外に出る事ができた。
しかし外はもう真っ暗で、どこに何があるか分からなかったが、
遠くにボンヤリと見える、家の灯りを頼りに、少女は歩いていった。

 しばらく歩き、やっとカボチャ畑に着いた。
畑には、まだ多くのカボチャがあり収穫間近といったところ、
少女は畑に座り、カボチャ大王を待つ事にした。
初めて見るカボチャ大王はどんなのかと、イメージしたりして待っていたが、
なかなかカボチャ大王は現れません。
それどころか、町の灯りは、どんどんと消えてゆき、気温も低くなって、
少女も待ってる事が、段々酷になってきてました。
もうそろそろ諦めて帰ろうと思っていたその時、後ろの方から
ガサガサッ ガサガサッ っと音がしたのです。
少女は、「カボチャ大王!?」と思い、立ち上がり、フッと後ろを向くと、
そこにいたのは、カボチャ大王ではなく、ものすごーく大きなコカトリスだったのだ。
そしてコカトリスが、その少女を一睨み!
一方の少女は、暗いせいか、カボチャ大王なのか、コカトリスなのかも分からず、
「これが、カボチャ大王・・・?  」と思いながら
ただただ、上を見上げていたが、驚きの余り、自分が石化している事さえ忘れていて、
その姿のまま、少女は完全に石像と化してしまった。
そしてコカトリスは、そんな事もつゆ知らず、そのままどこかへと行ってしまいました。

実は、このコカトリスは、大昔にこの辺りで現れ、そして退治されたが、
ハロウィンになると、悪霊として再び現れていたのだ。
しかし、コカトリスの目からは、大人は見えず、子供しか見えていなかった為に
このような風習が生まれたのだ。

 11月1日、朝の新聞を取りに、青年が玄関のドアを開けると、
カボチャ畑の真ん中に、少女の石像が立ってるのを目撃し、
一瞬、驚き、すぐ両親と弟に報告した。
一家は、石像の前に来て、「一体誰がこんな物を?」などと延々協議していたが、
話し合いの末、石像を売らずに、ここに残す事に決めたのだ。
そして翌年の10月、その石像の御利益?からか、
カボチャが、去年よりも2,5倍も多くでき、あまり多さに、初めて市場にも出し、
売り上げも大幅に伸びたのだ。
しかし、その裏では、兄の秘かな努力もあった。
この1年、父と兄弟で、野菜を作る仕事をしていたが、
兄は仕事が終わると、毎日カボチャ畑に行き、タオルで石像の汚れを拭き取ったり、
雨の日には、傘をささせたりして、少女の石像を大切にしていたのだ。
あれからもうすぐ、1年が経とうとする。いっぱいあったカボチャのうち、
多くはハロウィン用に、既に出荷し、3分の1が、収穫間近のだ。
すると兄は、石像の前に来て、肩の上にポンと手を乗せ、一言つぶやいた。

「来年も、いっぱい実らせてくれよ。」


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