強く優しき勇乙女の像 第1話

作:HAGE


「ギィィイイィエェェアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」



破壊の天使の絶叫が響き渡る。
仲間達の殆どが力尽き、絶体絶命の危機に陥っていた熾烈な戦いの勝敗を決したのは、唯一、まだ戦う力が残っていたティナが放った
潜在技「ライオットソード」であった。
彼女の持つ強い魔力が具現化した鋭利な刃が、最早倒せないかと思われたケフカに決定的な致命傷を与えたのだ。


「わ、わ、わ、わタしいいィイぃのぉオおおカラ、から、だ、ぐァァアああァァぁ!!!!!」


神を気取ったケフカの体が、少しずつだが、砂の如く崩れていく。


「よくも……ヨクモヨクモヨクモヨクモォオオオオォオォォォ!!!!!
 神たる私ヲ、貴様ラ如きカス以下ノ以下共がぁァああァアアぁ!!!!!
 こノままデは済まさン!!! 貴様らモ道ヅレにしテヤるァァァァァ!!!!!」


己よりも下等と見做していた者達に引導を渡されたことが、ケフカに強い憎悪を抱かせた。
悪魔すら失禁するであろう醜く歪んだ形相と共に、ケフカは残る全ての力を両手に込めた。
彼の今まで以上の攻撃であることは、両手が放つ圧倒的な威圧感からも窺い知れる。


「畜生……ヤバいな、あれは………。」


呻くようにロックが呟いた。
ようやくケフカを倒したことで再び芽生え始めていた生への希望も、脆く崩れ去ってしまった。まさに、生きとし生ける者全てを
絶望に追い遣る力だ…と、彼は感じていた。
それは自分以外の仲間達も同様で、今の自分達の体力と魔力では、あの攻撃を避けることも耐え切ることも不可能だ、と諦観していた。


「フッ……短い人生だったぜ………だが、悪くねえ……。」


世界を股に掛ける生粋のギャンブラーらしく、セッツァーは潔く死を覚悟した。
勝負はドローになっちまったが、こんだけの大勝負に臨めたんだから悔いはねえ―――
仲間の皆に不謹慎ではあるが、自分の命よりもスリルを優先する彼は、ポーカーやバカラ、ブラックジャック等にはないスリルを味わえたので、
それほど死への恐怖は無かった。



「死イイいぃイィいいネエエぇえェえエェええ!!!!!」



ケフカの攻撃が放たれ、最早これまでかと皆が諦めかけていた………その時。



「ケフカ!! 私の大切な仲間達を、あなたの道連れになんかさせない!!!」

「な………なにィいぃイイィいイぃ!!!!!」



ケフカの放った禍々しい光を前にして、皆を庇う形で躍り出たティナが両手を突き出した。ライオットソードを繰り出して自身も疲労していたが、
正真正銘、最後の力を振り絞ってケフカの攻撃を魔力のオーラで凌いだのだ。
膨大な魔力の拮抗によって生じた、あまりに眩い光と強烈な風圧に、瀕死の仲間達は何が起こったのか分からないまま、
次々と気絶していく。


「ティ………ナ……!」


愛用のエンハンスソードが折れ砕け、倒れ伏していたセリスが、よろよろと顔を上げながらティナに呼び掛ける。
あんな攻撃をたった一人で防ぎ続けている彼女を見ると、すぐにでも助けに行きたかったが、瀕死の身体は言うことを聞いてくれなかった。
そしてとうとうセリスも又、不覚にも気絶してしまった。



「皆……大丈夫……!
 私……皆を死なせはしない…!
 今の皆を守れるのは……私しかいない!!」



少しでも気を抜けばやられてしまうと確信していたティナは、両手に更に精神を集中させ、魔力のオーラを放ち続けた。
眩い光の中、紫を基調としたドス黒いケフカの光と、癒しを連想させる淡い緑のティナのオーラが、均衡を保っている。


「グ……おおォオぉオオォ……!!!
 何故…ダ……? 生マれつキ魔導の力ヲ持っテいるトハいえ……
 なゼ……おまエごとキが…ソれホどのチカらを……まだハナてるトいうノだ………!!?」


ケフカ自身、持てる力を全て放ったこの攻撃で、「目の前の虫ケラ共を道連れに出来る」という確信があった。
それだけに、その攻撃をたった一人で防いでいるティナに、憤怒を通り越して畏怖を感じ始めていた。


「あなたには分からないわ…。
 命を愛することを知らず…
 夢を見ることを想わず…
 希望を抱くことができなかった、あなたには…。」


憎むでもなく、蔑むでもなく、ティナは悲しげな顔でケフカを見遣る。
彼に操りの輪を被せられ、戦争の兵器に仕立てられた過去を持っているとはいえ…人として壊れたまま死に逝く彼の姿を見ると、
ほんの僅かだが憐憫の情を抱かずにはいられなかった。


「ググげげぐゲゴォおオォおぉぉ…!!!
 チクしょウ…ちくショう……ちィぃぃクぅウゥしょォおぉオおおぉオォ!!!
 ……だガ……セメて…おまエだけデモ………みちヅレだ!!!
 ワたシノのろイ…エイえんにいしトなるノロイ…ウケるがイイ!!!!!」


『ズズズズズズズズズズ…』


「…!? …まだまだ!!」


破壊の性質では駄目だと考えたケフカは、魔力を変質させ、対象を石にする攻撃に変えた。光の色が変わり、ティナの両手先と
前に踏み込んだ利き足先が灰色に変わっていく。それでも臆することなく、最後まで諦めまいとオーラを放ち続けるティナ。


「ククク……どんナしゅだンだろウが……こノこうゲキまでハふせゲまイ!!!
 そしテ……もとニもドることモでキン!!!
 ざまあみろ………ヒョワッホッホッホッホ……ホッホ………ホ……………」


攻撃が上手くいったことを知ったケフカは、彼独特の耳障りな笑い声を上げ、これまた彼独特の厭味極まる笑みを浮かべた。
魔導実験の失敗で心が壊れてしまった実験最初の犠牲者とはいえ、それからの狂人人生を大いに謳歌し続けてきた彼は、
世界を破滅に追い遣った、人類史上最凶最悪の狂人としての生き様を最期の最後までまっとうし、塵の如く崩れ去っていった…。





(……やったわ…。これで、全てが終わった……。

 ……でも、石化は……止まらない………)



ケフカが消え去り、魔力の拮抗による光や風圧も治まり、今の今まで激戦の場であった周囲に静けさが戻り始める。
仲間達は皆気絶しており瀕死でもあるが、命の心配は無いだろう。
捨て身の覚悟でケフカの攻撃を防ぎ切ったティナ。…だが、その代償に石化の呪いをその身に受けてしまった。
両手が動かせないので魔法を詠唱し、自身に身体状態の異常を治癒する魔法「エスナ」を掛けてみたが、元に戻る気配はない。
腕も、脚も、胴体も、既に石になっており、ついに灰色の侵食は頭部に及び始めていた。

…自身が辿る運命を明瞭に悟った彼女は、村を発つ前に交わしたモブリズの子供達との約束を、思い起こしていた…。


(みんな………ごめんね………

 私……無事に…帰ってくる…約束………

 どうも……守れないみたい………)


仲間達を皆、無事に守ることが出来たので、こうなってしまった事自体には後悔はなかった。
全ては、自分の意思による結果なのだから。
…ただ、子供達との約束を守れなくなったこと、それだけが無念で仕方がなかった。



(ふふ……みんなに……ちゃんと…「ただいま」って………



 ……いい………た………かった…………な………………)



そんな、切ない想いと共に自嘲気味に微笑んだティナは、今までの波乱と激動に満ちた自身の生い立ち…

自分を受け入れ、苦楽を共にしてきた仲間達のこと…
自分を生んでくれた、父のマディンと母のマドリーヌのこと…
短い間とはいえ、自分に「愛」について教えてくれたレオ将軍のこと…
そして、自分が「愛」に目覚める切欠となったモブリズの子供達のこと…

走馬灯の如く次々と浮かび上がるそれらの光景を眺めながら、微笑みのまま深淵なる石の眠りに落ちていった…。

<第1話・終>

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