魅力ある授業について

作:愚印


でっきたっかな、でっきたっかな、はてさて、ふふーん♪さて、ふふーん♪ できたかな?

 今日は、算数できたかな?


 今日はある学校の授業を覗いて見ましょう。
「1に1を掛けると1になります。」
 んっ、どうやら算数の時間のようですね。おっ、感心感心。みんな、先生の言葉に集中しています。
「先生、質問です。」
 おや?いかにもテストの点数を周りに自慢していそうな生徒が手を上げましたよ。こういう生徒は、質問すること自体が頭の良い証拠だと、勘違いしていることが多々あります。先生、大丈夫ですか?
「何かな、太郎君?」
 おや?先生、突然の質問にも結構余裕がありますね。いつものことなんでしょうか?
「1に1を掛けたら1になるなんて納得できません。」
 来ましたよ、算数の根底を覆す、ちゃぶ台返しのような質問が。先生はどう答えるつもりでしょう?
「うーん。困りましたねえ。」
 おやおや、先生、言葉ほど困っていませんね。何か余裕すら感じられます。これは何かありますね…。
 んっ、先生の目線が一瞬、教室の隅に向けられました。
「それじゃあ、わかりやすくするために、機材を使って実験しましょう。」
「やったー、だから先生の授業、好きなんだ。」
 生徒たちは大喜びです。まあ、教科書を使った授業よりは、実験のほうが楽しそうですものね。
 先生が教室の隅から、大きな袋と重そうな金属のタンクを運んできました。なるほど、さっき見ていたのはこれですか。あれっ?袋が動いています。何が入っているんでしょう?
「今日は、私たちの実験に付き合ってくれるという善意のお姉さんと…。」
 袋の中から猿轡を嵌められた裸の若い女性が現れました。眼鏡を掛けた知的な印象のする女性です。おや、大きな長方形を形作った鉄パイプに手足を縛られていますよ。先生はそのまま、お姉さんを壁に立てかけました。しかし、全裸に眼鏡は、ただの全裸よりも卑猥に感じますねえ。
「むーむーむー」
 お姉さん、猿轡のせいで何を言っているのかわかりませんが、涙目で先生を睨んでいるのは確かですね。あれあれ?先生、猿轡を取り外し始めました。
『ちょっと、なによこれ?何で裸なのよ?私が何をしたっていうのよ?』
 口が自由になった途端、文句を言い始めましたよ。ねえ、先生?これって、本当に善意…。
 バシーン!!
「勝手に喋るな!!黙ってろ!!また、『あれ』を喰らいたいのか?ああん?」
 ああ、びっくりした。いきなり、黒板を叩きつけるんですから。しかし、先生、キャラが変わっていますよ?確かにお姉さんはおとなしくなりましたけど…。それに『あれ』って何ですか?
「…それと、この液体窒素の詰まったタンクを使って実験します。では皆さん、よく見ていてくださいよ。」
「はーい。」
 何事もなかったように授業風景へと戻りました。生徒たちに怯えた様子は見えません。これも、いつものことなんでしょうか?
「お姉さん一人に対して、液体窒素の入ったタンクが一つあるのは分かりますね?液体窒素はチャプチャプいっていますが、とっても冷たいものです。」
「はーい。」
 タンクの横には『えきたいちっそ』と平仮名で書かれてあります。先生が自分で書いたようですね。文字が右下がりで、少し読みにくいです。
「今から、お姉さんにタンクの液体窒素を掛けますよ。どうなるのかな?」
「わー、どうなるんだろう?」
 先生は液体窒素のタンクにホース付きのノズルをつけて、その切っ先をお姉さんに向けました。
『やめて!!冗談でしょう?』
 お姉さんの静止の声も虚しく、先生がノズルの取っ手を握り締めると液体窒素が勢いよく飛び出しました。
『あがあああああああああ!!』
 お姉さんに液体窒素が掛けられていきます。白い冷気で様子がよく分かりませんが、かなり苦しんでいるようです。そりゃそうですよね。生きながら身体を凍らされているんですから。
 先生、悲鳴は完全に無視ですか?ノズルの向きを調整しながら、液体窒素をお姉さんの全身に満遍なく掛けているようです。
『あ…ああ…あ…。誰か…た…す…け…。………。』
 悲鳴が聞こえなくなりました。ちょうどタンクの液体窒素もなくなったようです。もうもうと巻き上がっていた冷気が、ゆっくりと降りてきて床に広がっていきます。お姉さんはどうなったんでしょうか?
「ほら、真っ白な氷の像が一体完成しました。」
 先生の視線の先には、先ほどまで悲鳴をあげていたお姉さんが、真っ白な氷像と化していました。体の表面が、きめ細かな霜状の氷に覆われています。苦痛のためでしょうか、何かを叫ぶように口が開かれたまま固められていますね。眼鏡のレンズには、霜がびっしりです。縛めを解こうと力を入れたんでしょうか、全身の筋肉を強張らせたまま凍りついています。開かれたまま固まる右手は、なにかを掴もうとしていたんでしょう?今となっては分かりません。かつては柔らかかったであろう乳房も下腹部もカチコチです。
 先生が、なにやらしきりに頷いています。あっ、顔がほころんできました。これが会心の笑みというやつでしょうか?
 確かに苦痛による身体の不自然なねじれが、白に染まることで芸術の域にまで昇華されています。素晴らしい氷像の完成です。
「つまり、1(お姉さん)に1(液体窒素)を掛けると1(美しい氷像)になるのです。」
「ほんとだー。」
 白い冷気をまとうお姉さんを、生徒たちはうっとりと見ています。
「太郎君、理解できたかな?」
「えっ?あっ、は、はい。ありがとうございました。」
 おやおや、太郎君が突然名指しされて慌てふためいています。自分が質問したことすら忘れていたようですね。まあ、これを見た後では仕方ありませんか。
「ねえ、先生?」
「何かな、次郎君?」
「1を2で割るとどうなるんですか?」
 おっ、これは便乗質問ですね。勇気のない生徒が、他者の質問で反応を窺い安全を確認してから質問する、ちょっと卑怯なやり方です。
「いい質問ですね。それでは実験してみましょう。」
「わーい。」
 おや、先生、今度は教卓の下から、大きな金槌を2つ取り出しましたよ。
「今出来たばかりの氷の像を、この2つの大きな金槌で…。」
 うーん、残念。お別れの時間が来ちゃいました。みんな、1×1=1を理解できたかな?それではまた会う日まで、シー・ユー・アゲイン。バイバーイ。
 
でっきたっかな、でっきたっかな、はてさて、ふふーん♪さて、ふふーん♪
ダバダバダバダバダバダバダバダバでっきーたっかーなー♪ できたかな?


おわり


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