ストリート・デュエリスト 2

作:幻影


  LP(ライフポイント)/ミナ:5700/進歩:2050

 ウィップテイル・ガーゴイルが進歩目がけて飛びかかった。
「リバースカード、オープン!聖なるバリア・ミラーフォース!」
「ミラーフォース!?」
 トラップカードの発動に、ミナの笑みが消える。
「相手が攻撃宣言したときに発動。相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する。」
 ウィップテイル・ガーゴイルの攻撃が見えない壁に阻まれ、それがミナのフィールドにはね返り2体のモンスターを破壊する。
(許してくれ、ブラック・マジシャン・・)
 進歩は悲痛の思いで、黒き魔術師の死を哀れんだ。
 フィールド上の全てのモンスターを失い、ミナが驚愕する。
「まさか、そんなカードを伏せてたなんて。」
「これでアンタの攻撃は、このターンにオレにとどめを刺すことができなくなった。言っただろ?見事に覆るって。」
 勝利をつかみ損ね落胆するミナに、進歩が不敵に笑う。
「私はこれでターンを終了します。」
「オレのターン!っと、カードをドローする前に、伏せカードをオープンするぜ!」
 進歩はフィールドに伏せていたカードを表示した。
 生命吸収装置。
 直前の自分のターンで消費したLPの半分を回復させるトラップカードである。
「このカードで、前のターンで黒魔術のカーテンで払ったLP、2050の半分の1025ポイントが回復するぜ。そしてドローカードと神の恵みの効果で、さらに500ポイントの回復だ。」
 進歩のデッキは、より少ないコストでより強力なモンスターを召喚するように構成されている。また、そのコストとして払うLPを補うために、LP回復カードを加えているのである。
「オレはワイルド・ラプター(攻撃力:1500/守備力:800)を召喚し、直接攻撃(ダイレクトアタック)する!」
 巨大な恐竜が、鋭い牙と爪でミナに襲いかかる。
 このデュエルディスクには、ダイレクトアタックでのプレイヤーの苦痛を体感できるようになっているが、その衝撃はごくわずかなものである。
「うっ・・」
 少しうめきながらも、ミナは再び進歩に視線を向ける。今の攻撃でも、彼女のLPはまだ4000を下回っていないため、石化の影響を受けない。
「ターンエンドだ。」
「私のターン。ドロー。」
 ミナがデッキからカードを引く。
「私はモンスターを守備表示で召喚。ターンエンドです。」
 ミナのフィールドにモンスターカードが裏側表示される。
「オレのターン。このターンのドローカードで、オレのLPが4075になり、オレにかけられた石化が解けるぜ。」
 進歩の石化が一時的に解け、灰色に染まっていた体が元の人間の色を取り戻す。
「ふう。やっぱ人間の体っていいぜ。いつもは感じなかったけど、今ではそれが痛く感じてくる。」
 進歩が安堵の吐息をつく。
「オレはワイバーンの戦士(攻:1500/守:1200)を召喚!これで壁モンスターを倒し、ワイルド・ラプターでダイレクトアタックだ。」
 トカゲ人間の剣士が、手に持った剣をミナのモンスターに振り下ろした。
 モンスターが正体を現した瞬間、進歩の2体のモンスターの体中に星マークが充満し、2体のモンスターが破壊される。
「何っ!?」
 驚愕する進歩に、ミナが妖しく笑う。
「今あなたが攻撃したモンスターは、死の4つ星てんとう虫(攻:800/守:1200)です。このカードが表になったとき、相手フィールド上のレベル4のモンスターを全て破壊します。」
 ミナのモンスターの効果で、進歩のモンスター2体が破壊されたのだった。ワイルド・ラプターもワイバーンの戦士も、レベル4のモンスターである。
「オレのターンはこれで終わりだ。」
 進歩はエンド宣言をし、ダイレクトアタックを覚悟した。
「私のターンです。」
 ミナはドローしたカード、ウィップテイル・ガーゴイルを召喚した。
「進歩さんにダイレクトアタックです。」
 悪魔の鋭い爪が進歩を切り裂いた。そのダメージで、進歩の下半身が再び灰色の石に変わっていく。
「ターンエンドです。」
 エンド宣言をするミナが、困惑する進歩を見つめる。
(くそっ!次のターン、せめてモンスターカードを引かないと確実に負ける。うまく出てきてくれよ。)
 進歩が胸中に毒づき、デッキからカードを引く。そのカードを確認した進歩の顔から、歓喜が浮かび上がる。
「オレはモンスターを守備表示で召喚し、ターンを終了する。」
「私のターン。私はモンスターを1体、守備表示で召喚し、ウィップテイル・ガーゴイルで守備モンスターを攻撃。」
 悪魔の爪がモンスターカードを切り裂いた。
「これはっ!?」
 ミナは進歩のモンスターの正体に驚愕する。
 進歩が伏せたモンスターは、サイバーポッド(攻:900/守:900)だった。
 このカードが表になった瞬間、フィールド上のモンスターを全て破壊する。その後プレイヤーはそれぞれデッキからカードを5枚引き、その中のレベル4以下のモンスターを任意表示形式でフィールド上に出すのである。
 サイバーポッドがフィールドにいる他の全てのモンスターを吸い込み、そのまま破壊した。
 2人はそれぞれデッキからカードを引き、進歩は神の恵みの効果でLPが回復し、石化が再び解ける。
 ミナはその中から首なし騎士(攻:1450/守:1700)と夢魔の亡霊(攻:1300/守:1800)を守備表示で召喚するが、進歩は召喚するモンスターがいなかった。
「せっかくの秘策も、徒労に終わりましたね。身を守るモンスターさえも出せないなんて。ここはモンスターを守備表示にしておきますわ。これでターン終了です。」
「オレのターン!」
 サイバーポッドの効果でもモンスターを召喚できなかった進歩だったが、彼は全く落胆していなかった。
「今、見せてやるよ!オレの最強のカードを!魔法カード、融合を発動!」
 進歩が手札から魔法カードを使用する。
「レッドアイズ・ブラックドラゴン(攻:2400/守:2000)とメテオドラゴン(攻:1800/守:2000)を手札融合!出て来い、熱き闘魂、メテオ・ブラック・ドラゴン(攻:3500/守:2000)!」
 進歩のフィールドに、炎のベールに身を包んだ真紅の龍が姿を現した。その威圧感にミナは押されるが、笑みを消していない。
「攻撃力3500は強力ですね。でも融合したターンは攻撃はできませんよ。」
 ミナの指摘通り、デュエル・モンスターズでは融合モンスターは融合したターンに攻撃することはできないルールになっている。
 しかし、進歩は笑みを消さない。
「しかし、このカードでそれも解消される。さらに手札からマジックカード、速攻を使用するぜ。」
「速攻!?」
 ミナが驚愕する中、進歩がさらに魔法カードを使用する。
「このカードで融合したターンでも攻撃が可能となる。夢魔の亡霊を攻撃だ!メテオ・ブレイク!」
 灼熱の炎をまとった龍が、口から火球を連発し、夢魔の亡霊を焼き払った。
「どうだ、オレのメテオ・ブラック・ドラゴンの強さは!これでターンエンドだ!」
 炎の龍のすごさに、進歩自身が歓喜に湧いていた。
「私のターン。そろそろそのライフ回復カードも消したほうがいいですね。ハーピィの羽根箒で消しておきます。」
 出現した羽根箒が、進歩のフィールドにある2枚の永続トラップカードを消し去っていく。
 ハーピィの羽根箒には、相手フィールドの全ての魔法・罠カードを破壊する効果がある。
「そして、首なし騎士を生贄にして、地獄詩人へルポエマー(攻:2000/守:1400)を攻撃表示で召喚します。」
 首のない鎧の騎士が消え、ミナのフィールドに不気味なモンスターが出現した。
 レベル5、6のモンスターを通常召喚するには、フィールド上のモンスターを1体を生贄にしなかればならない。レベル7以上は2体となる。
 ミナはへルポエマーの召喚のため、首なし騎士を生贄にしたのである。
「さらに伏せカードを1枚セットして、ターンを終了します。」
「オレのターン!」
 進歩は不審に感じていた。
 攻撃表示のモンスターに伏せカードが1枚。これは攻撃を誘い、罠にかける戦略のパターンである。
 しかし、相手のLPを削る絶好の機会を逃すわけにいかない。
「オレはメテオ・ブラック・ドラゴンで、へルポエマーを攻撃だ!」
「トラップカード、発動。守護霊のお守り。」
 ミナが伏せていたカードを表示した。
「このカードは対象のモンスターの攻撃力を、発動したターンだけ、墓地にいるモンスター1体につき、攻撃力を上げるカードです。」
「だが、アンタの墓地にいるモンスターは10体。攻撃力を1000上げて3000にしても、メテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃はへルポエマーを破壊する!」
 攻撃力を上げたにも関わらず、炎の龍の火球がへルポエマーさえも焼き払った。
 LPが初めて4000を下回り、ミナの足が灰色に変わっていく。
「どうだ!」
 進歩が勝ち誇るように拳を握り締める。しかし、ミナは口元に手を当てて笑っている。
「守護霊の守りはただの気安め。この瞬間、へルポエマーの特殊能力が発動しました。戦闘によって墓地に送られたことで発動。へルポエマーが墓地にいる限り、相手はターンエンドするごとにランダムに手札を捨てさせることになります。」
「何っ!?」
 進歩が驚き、ミナが妖しく笑う。
 これも彼女のデッキ破壊コンボの1つである。
 へルポエマーの特殊能力と、魔力の棘の併用で、相手は手札を捨てられるばかりか、LPまで削られる。
 過酷な状況に追い込まれ、進歩が焦りの色を見せる。
「オレのターンはまだ終わっていない。さらにロケット戦士(攻:1500/守:1300)を召喚!プレイヤーにダイレクトアタックだ!」
 ロケット戦士がロケット状に変形し、ミナに突っ込んだ。
 苦痛にうめき、石化が腰にまで及ぶ。
「これでターンエンドだ。」
 そのとき、進歩のデュエルディスクの墓地(セメタリー)から、不気味な半透明の手が伸び、彼の手札のカードを奪い去り、そのまま墓地へと姿を消した。
「な、何だ、今の手は!?」
「忘れましたか?へルポエマーの特殊能力によって、ターン終了時に手札を1枚ランダムで捨てさせたのです。」
 ミナがうっすらと笑みを見せる。
 へルポエマーの効果で、手札を捨てさせられ、魔力の棘の効果でLPまで減らされる。
 この痛烈なコンボに、進歩が毒づいた。
「私のターン。ドロー。」
 ミナがデッキからカードを引く。
「私のデッキ破壊コンボに焦りを隠せないようですが、本当の恐ろしさはこれからですよ。デビル・コック(攻:1800/守:1000)を攻撃表示で召喚。そして、マジックカード、呪魂の仮面をメテオ・ブラック・ドラゴンに装着します。」
 進歩の炎の龍の顔に、不気味な描写の仮面が取り付けられる。
「この仮面を装備されたモンスターは攻撃を封じられ、さらにあなたは自分のターンごとに500ポイントのダメージを受けます。」
「くっ!メテオ・ブラック・ドラゴンが!」
 進歩が状況悪化に焦りの声を上げる。
 最強のモンスターの攻撃を封じられ、さらに手札抹殺の効果が襲いかかってくるこのコンボが、進歩を精神的にも追い詰めていく。
「これで大ダメージはしばらく避けられそうです。デビル・コックでロケット戦士を攻撃です。」
 悪魔の調理師の長い包丁が、ロケット戦士を真っ二つに切り裂いて粉砕する。
「デビル・コックが相手にダメージを与えたとき、相手はデッキからカードを2枚ドローするのです。」
 進歩がデッキからカードを引く。
 へルポエマーの効果も、相手が手札を使用していけば、次第に手札を使い果たし捨てるカードがなくなる。手札抹殺の効果をさらに引き出すために、相手の手札を増強させる効果をもたらしたのだった。
「私のターンはこれで終わりです。」
「オレのターン!」
 呪魂の仮面の効果で、進歩のLPが500削られる。
 カードをドローした直後、進歩が不敵な笑みを見せた。
「引いたぜ。アンタのデッキ破壊コンボを打ち崩すカードがな。魂の解放を発動するぜ。」
「魂の解放?」
 進歩の態度にミナが疑問符を浮かべる。
「自分と相手の墓地にあるカードを、最大5枚までゲームから取り除くカードだ。これでまずへルポエマーをゲームから取り除くぜ。あとは適当に除外してくれ。」
 魂の解放によって、へルポエマーがゲームから取り除かれる。
 そのデッキ手札抹殺の効果は、墓地に置かれて発動するものである。墓地からゲーム除外を強いられたことで、手札抹殺を行うことができなくなった。
「そして、メテオ・ブラック・ドラゴンを生贄にして、ブラック・マジシャン・ガール(攻:2000/守:1700)を召喚!」
 炎の龍を召喚の生贄にして、黒魔術師の少女が進歩のフィールド上に姿を現した。
「初めてだったよ。カードのキャラに惚れ込んじまったのは。魅力的だ。思わず惹かれちまった!」
 進歩が顔を赤らめて胸の内を語りだした。
 いつもアイドルや美人役者にも感情をむき出しにしない彼だが、自分でもカードに魅了されるとは思いもよらなかった。
「さて、彼女の力を見せてやる!デビル・コックにブラック・バーニング!」
 魔術師の少女の持つ杖から炎の球が放たれ、悪魔の調理師を焼き払う。
「えっ!?」
 ミナは眼を疑った。
 戦闘によって減ったLPが多すぎると思ったからだ。
「どうして攻撃力2000でこんなにLPが・・」
「ブラック・マジシャン・ガールは、墓地にいるブラック・マジシャン1体につき、攻撃力が300ポイントアップするんだ。」
「それでもこのLPの減りようはあり得ませんわ。」
「オレのデッキにはブラック・マジシャンが3枚入ってるんだ。メタモルポッドの効果と手札抹殺によってそれぞれ1枚ずつ、さらにダークネクロフィアにとり付かれたブラック・マジシャンを、オレがミラーフォースで破壊している。よって、今のブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は、900上がって2900だ。」
 痛烈な戦闘ダメージを受け、ミナの体が灰色に変色する。
「さらに手札からサイクロンを使用し、フィールド上の魔力の棘を破壊して、ターンエンドだ。」
 相手フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊するサイクロンの効果で、フィールドに表示されていた魔力の棘が破壊される。
「私はカードを1枚伏せて、ターン終了です。」
 ミナはデッキから引いたカードをセットする。
「いいのかい?モンスターを召喚しなくて。」
 進歩がデッキからカードを引きながらミナに声をかける。しかし、彼女は妖しい笑みを見せたまま返事をしない。
「オレは処刑人マキュラ(攻:1600/守:1200)を召喚!プレイヤーへのダイレクトアタックで、このデュエル、オレの勝ちだ!」
 鋭いかぎ爪を両手にはめたモンスターが、ミナに向かって飛びかかった。
「トラップカード発動!化石化の呪縛!」
 ミナの伏せカードが表示された瞬間、攻撃しようとしていたマキュラが、足から徐々に灰色に変わり、やがて完全に灰色に包み込まれて動きを止める。
「処刑人マキュラが・・」
 突然のことに進歩が驚愕する。
「マキュラだけではありませんよ。」
「何っ!?・・・あっ!」
 ミナに促されて進歩が視線を移すと、ブラック・マジシャン・ガールの下半身も灰色に変わっていた。
 困惑する魔術師の少女の体が徐々に灰色に変色し、彼女も完全な灰色となって、虚ろな表情のまま動きを止めた。
「ブラック・マジシャン・ガール!」
 進歩が声を荒げる姿を、ミナが妖しく笑う。
「このトラップは相手モンスターがプレイヤーへの直接攻撃を行おうとした瞬間に発動可能。その攻撃を無効にし、相手フィールド上の全てのモンスターに石化の呪いをかけるのです。」
 化石化の呪縛によって、処刑人マキュラとブラック・マジシャン・ガールが灰色の石像に変えられたのだった。
「石化したモンスターは、攻撃も守備もできず、プレイヤーを守る壁となることもできません。また、発動ターンから3回目のターンを終了したとき、石化モンスターはゲームから取り除かれます。」
「何だとっ!?」
「さらに、この呪縛は他の魔法、トラップ、モンスターの効果で無効にすることはできません。」
 進歩の2体のモンスターにかけられた石化。他のカードでその効果を打ち消すことはできない。そして3ターン後にはゲームから除外されてしまう。
 進歩はさらに苦しい状況に追い込まれた。

  LP/ミナ:1100/進歩:4625

つづく


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