Schap ACT.22 joker

作:幻影


 姉、ルイを固められたことに怒りを感じたユキは、感情の赴くまま、フブキを呼び出した。突然のスキャップの発動に、ますみも幻も動揺を見せていた。
「ユ、ユキちゃん、何を・・・まさか・・・!?」
 不安を感じたますみが眼を見開き、後ずさりする。ユキはそんな彼女を睨みつけ、右手を伸ばす。
「許さない・・・ますみ・・・」
 再び低い声音をもらして、クラウンに狙いを定めるユキ。
「私はあなたを、絶対許さない!」
 その叫びの直後、フブキがクラウンに向けて吹雪を放つ。虚を突かれながらも、クラウンは跳躍してこれをかわしていく。
「やめて、ユキちゃん!フブキ!」
 ますみが悲痛の叫びをかけるが、姉をやられた怒りを抑えきれないユキは聞こうとしない。間髪入れずにフブキがクラウンに向けて攻撃を仕掛けていく。
 見かねた幻が駆け出し、フブキを背後から腕をつかみ上げて取り押さえる。
「キャッ!」
「フブキ!」
 フブキが悲鳴を上げ、ユキが振り返る。幻が必死の思いでフブキの動きを押さえる。
「や、やめろ、ユキさん!フブキ!お前たちとますみとクラウンは友ではなかったのか!」
 幻も必死に説得しようとするが、姉を失ったユキの怒りは、そう簡単に治まらなかった。
「邪魔しないで、鳳くん!ますみは、私のお姉ちゃんを・・!」
(おのれ!やむなしか!)
 激情している今のユキに何を言ってもムダだと毒づき、幻は困惑しているますみに視線を向ける。
「ますみ!ここはいったん退け!」
「幻ちゃん・・でも・・!」
 幻の呼びかけに対し、ますみはさらなる困惑に襲われる。自分が標的にされているとはいえ、ユキをこのままにしておくことはできない。
「お前はルイさんとの戦いの後で満身創痍だ!怒りに振り回されているユキを止める力は残っていない!」
 幻に言いとがめられて、ますみは考えあぐねた。ユキをこのまま放っておくことはできなかった。しかし自分がここでやられたら、それこそ彼女を助けることができなくなる。
「ゴメンね、ユキちゃん!」
 ますみは後ろめたさを感じながらも振り返り、クラウンとともにこの場から離れる。幻もひとまずフブキを放し、ますみの後を追った。
 ユキはフブキに気を取られていたため、ますみを見失ってしまう。憤りを抑えられないまま、彼女はこの場にたたずみ、金の像となったルイを見つめていた。
「お姉ちゃん・・・私は・・・!」
 悲痛の言葉をかけるユキだが、ルイは全く声を返してくれなかった。
(ユキ・・・)
 金の像となったままのルイが、胸中でユキを想っていた。この最悪の事態を避けようと、彼女はユキを引き離し、ますみに倒されようとしていた。
 ますみとルイの憎しみに染まった争い。最悪の事態を彼女は呪っていた。

 ASEのマスターが今まで探し求めていた大敵、リリス・フェレスであることを知らされたハル。驚愕のあまり、戦意さえも大きく揺らいでいた。
「驚いているようね。ムリもないかもしれないわね。あなたは今まで私を追いかけてきた。柚木町を石に変えた私を。」
 リリスが逆撫でするつもりで、ハルに語りかける。
「きっと必死になって、躍起になって探したでしょうに。それでもなかなか見つけられなかったのに、こうしてASEを指揮しているんだからね。」
 挑発とも取れるリリスの言葉に、ハルはいきり立ってラビィに狙いを定めさせる。しかし恐怖に駆られてか、それより一歩が前に出なかった。
「怖いのね。予想していない状態で現れた私に。」
「ち、違う!私は、お前を・・!」
 リリスの言葉を必死に否定して、敵意を見せるハル。しかし見せる感情とは裏腹に、リリスに攻撃することさえできないでいた。
「大丈夫よ。今は戦ったりしないわ。挨拶しに来ただけよ。」
「挨拶、だと・・!?」
「私はさっき、霜月学園の理事を受け持ったの。その学園を中心に、私たちASEが支配を広げて、スキャップの世界を創るのよ。」
「霜月学園を・・貴様、私たちの学校まで・・!」
 リリスの口から語られる事実に、ハルはさらなる驚愕を見せる。
「理事長は石になってもらったわ。前理事長の彫像として飾っておくつもりよ。」
「貴様!」
 ハルがついにいきり立って、その激情を受けたラビィが、耳から人形化の光線をリリスに向けて放つ。スキャップ能力者にその効果は効かないのだが、ハルは気に留めてはいなかった。
 だが光線が命中する直前、リリスの姿が突然消える。
「何っ!?」
 ハルがこの一瞬に眼を疑った。消えたリリスの姿を探して視線を巡らせる。
「抵抗しなければ放っておく。してきたら固めてあげる。」
 すると突然背後から声が聞こえ、ハルが眼を見開いて振り向く。そこにはリリスと、彼女のスキャップ、メフィストが立っていた。メフィストがリリスをここまで移動させてきたのである。
「バカな・・リリスを抱えて、いつの間に後ろに回りこんで・・・!?」
 愕然となるハルを前にして、リリスが淡々と続ける。
「まぁもし固めてほしい人がいたら、聞き入れないこともないけどね。町ごと固めるのも面白いかも。柚木町みたいにね。」
 リリスは妖しい微笑みをこぼしながら、メフィストとともに姿を消した。
(リリス・フェレス・・・ヤツがASEのマスターとして私の前に現れるとは・・・!)
 その消えた場所を、ハルはただ見つめるだけだった。
 そのとき、近くで物音が聞こえ、ハルがゆっくりと振り返る。その先にはますみが慌しい様子で駆け込んできた。後から幻も呼吸を荒くしながら追いかけてきた。
「ますみ、幻、どうしたんだ・・・!?」
 ハルが我に返りながら、座り込むますみに歩み寄る。ますみが呼吸を整えながら、ハルに顔を向ける。
「あ、ハルちゃん・・・実は・・・実は・・・」
 何とかハルに話をしようとするが、悲惨な出来事がよみがえり、ますみの眼から涙があふれてくる。
 彼女の気持ちを察して、幻がますみとハルに詰め寄る。
「とにかく、場所を変えよう。ますみは今、ひどく心を痛めている・・」
 幻の沈痛の面持ちに、ハルは無言で頷いた。

 ますみは幻とハルに連れられて、彼の実家である鳳家の道場にやってきた。ますみがユキがいるかもしれない女子寮に戻りたくないという言葉を尊重して、またこの道場が街からさほど離れていなかったため、ここにやってきていたのだ。
「突然の来客と帰宅だったからのう。あまり良いお茶と菓子が用意できぬが、我慢してくれよ。」
「あぁ・・すみません、師匠・・」
 お茶と和菓子を持ってきた師匠に、幻が一礼を送る。すると師匠が足を止めて彼に振り向く。
 白く伸びたひげ。薄くなった頭。幻が師匠と呼んでいるが、この初老の老人こそが彼の父、鳳正平(おおとりしょうへい)である。
「稽古をしていないときは、父さんとかオヤジとか呼んでもええんじゃよ。」
「オレの師匠であることに違いはないでしょう。」
「こやつめ、生意気な口を叩きおって。」
 言葉を返す幻に、正平が気さくな笑みを見せ、再び廊下を歩き出した。
「ずい分と気さくな父さんだな。」
「お前もおかしいと思うか。だがあれでも鳳式空手の師範。オレが全く白星を取っていないのは、上級生と師匠であるオヤジだけだろう。」
 からかうように言いかけるハルに、幻が苦笑いを見せる。様々な困惑の消えないまま、ますみが出された和菓子を口に運ぶ。
「おいしい・・おいしいよ、幻ちゃん・・」
 ますみがおぼろげに感想を呟く。まだユキのことを考えていると思い、幻も笑みを見せるが素直には喜べなかった。
「ますみ、ここで待っててくれ。」
「う、うん・・」
 幻が立ち上がって告げると、ますみは和菓子をつつきながら小さく頷いた。目線だけでハルを呼び、彼女も立ち上がってついていく。
「ますみは食べているときが1番大人しいんだ。特に今はユキさんのことで少しやけ食い気味になっているからな。」
 廊下を歩きながら、幻がハルに語りかける。彼女は少しきょとんとなるが、すぐに真面目に聞き耳を立てる。
「そろそろ話したらどうだ?いったい何があったんだ?ユキはどうしたんだ?」
 ハルが問いかけると、幻はますみが聞こえないところを見計らって立ち止まる。
 そして先程起こった悲惨な出来事の一部始終を彼は話した。ますみがルイを倒したところを目撃し、ユキが怒りに駆られてますみを攻撃したのである。クラスメイトや親友であることすら忘れ、敵としか見ていなかったのである。
「そうか・・そんなことが・・・」
 話を聞いたハルも困惑の面持ちを見せた。
「どうしたらいいのか、オレもますみも途方に暮れている。できればユキさんを説得したいとは思ってるが・・・」
 それから先は、幻はあえて言おうとしなかった。最悪の事態を認めるような言動は慎みたかった。
「実は私も話しておきたいことがあるんだ。それはお前だけじゃなく、ますみにも話しておきたいことなんだ。」
 今度はハルが話を切り出した。幻は頷いて、ますみの待っている居間に戻っていった。

 トランプメンバー貸切のカフェバー。その前の通りは何の変哲もない道と人通りのはずだった。
 しかし今は何もかもが灰色に変わっていた。行き交う人々は微動だにせず、完全にその場所の時間が停止していた。
 玄関のドアの開いたこのカフェバーでさえも、灰色の石に変わり果てていた。
 そのテーブルの1つにリリスとメフィストはいた。リリスはカップに注がれたハーブティーを、静まり返ったこのカフェバーの中で楽しんでいた。
「ここでのお茶も今日で終わりね。心残りもあるけど、しばらく来れなくなるから仕方ないわね。」
 リリスが口からカップを離して淡々と呟く。メフィストも悠然と笑みを浮かべるばかりだった。
 そこへピンクの髪の少女が入ってきた。桃城デュールである。
 デュールが近くにやってきたのに気付いて、リリスが石のテーブルにカップを置く。
「いらっしゃい。といっても、注文しても何も出ないけど。」
「別にお茶を飲みに来たわけじゃないだけど。」
 互いに茶化すような言葉をかけながら笑みを見せるリリスとデュール。
「みんな石にしちゃったんだね。これでこのバーともお別れかぁ。」
「そうね。でも私たちは、しばらくここに来てる時間もないしね。」
 がっかりするデュールにリリスが微笑む。
「それじゃ、そろそろ宣戦布告してきてよ。あの2人のスキャップに。」
「2人?」
 リリスの言葉に顔をしかめるデュールだが、思い出してすぐに笑顔を取り戻す。
「私はあの子に声をかけてくるから。多分、彼女は必ず私たちの味方になってくれるわよ。」
「うん、いい感じだね。それじゃ、また跡でね。」
 デュールがリリスに笑顔を向けてから、このカフェバーから飛び出した。
「さて、これからいろいろと楽しくなりそうね。メフィスト、あなたもそう思うでしょ?」
「もちろんよ、リリス。これからはスキャップの、あなたの世界がやってくるのよ。」
 リリスの歓喜にメフィストが同意して妖しい笑みを見せる。ASE、霜月学園を基点とした彼女たちの支配が始まろうとしていた。

 困惑の面持ちのまま、居間に戻ってきた幻とハル。ますみは既に自分の分の和菓子を食べ終えていた。
「ハル、ちょっと話を聞いてほしいんだが・・いいか?」
 ハルの問いかけに、ますみがきょとんとした面持ちで頷く。するとハルと幻が座る。
「ますみ、幻、私が今まで探し続けてきたスキャップ、リリス・フェレスとメフィストが見つかった。」
「えっ!?」
 その言葉にますみが驚く。幻も声を出さなかったが、驚きを隠せない様子だった。
「あのスキャップが・・・それで、リリスはどこにいるの?」
「おい、待て。どういうことなんだ?」
 ますみが問いかけようとしたところを、幻が口を挟む。ハルが彼に視線を向けて答える。
「お前にはまだ話してなかったな。そのスキャップが、私が昔住んでた町、柚木町を石の町に変えたんだ。」
「柚木町?・・確か1日にして一変したと聞いているが・・お前がその生き残りなのか・・!?」
「あぁ・・」
 幻の言葉にハルは頷いて、自分の手のひらを見つめる。
「もしもスキャップの力に目覚めていなかったら、ラビィを呼び出せていなかったら、私もトモや母さんと一緒に石にされたままだっただろう。」
 その手のひらを強く握り締める。
 リリスが引き起こした事件から、ハルは彼女を追い求めて走り続けてきた。そしてその苦労と苦悩を踏みにじるかのように、彼女は突然現れた。
 そしてリリスはハルに、自分がASEのマスターであることを告げてきた。現れた仇が、スキャップ暗殺部隊の、しかもトランプメンバー以外の組織内の人間にはその素顔を知られていないマスターとして身を置いていたのだ。
 少なからず、ハルは動揺を感じて仕方がなかった。
「それで、そのリリスはどこにいるの?」
「それは・・」
「リリスさんならちょっと用事で出かけてるけど?」
 ますみがハルに問いかけようとしたとき、庭のほうから声がかかってきた。3人が振り返ると、そこにはデュールの姿があった。
「やぁ、ますみん。久しぶりだね。」
「デュ、デュールちゃん!?」
 笑顔を見せるデュールに、ますみが驚きの顔を見せる。
「お前、病院で会ったな。そのリリスというヤツを知っているのか?」
「知っているはずだ。」
 幻の問いかけの直後、ハルが鋭い眼つきを見せながら立ち上がる。デュールは以前、笑みを見せているままだ。
「ASEの上位に君臨しているトランプメンバー。それぞれがトランプのマークをトランプネームとしている。だが、トランプメンバーには、ヤツら4人とマスターしか存在さえも知らない、5人目のメンバーが存在したんだ。
「5人目・・!?」
 語りかけるハルに、ますみが驚きの声を上げる。
「そう。5人目・・ASEの査察役としてマスターに付き添っていたトランプメンバー、ジョーカー。」
 ハルはデュールに向けて一歩勇み足を出す。
「桃城デュール、お前が5人目のトランプメンバー、ジョーカーだ。」
 言い放つハルに、ますみと幻がデュールに振り返って眼を疑う。するとデュールは、普段ますみに向けているような無邪気な笑みを見せる。
「もう知ってるのはリリスだけだと思ってたんだけどね。そうだよ。私はトランプメンバーのジョーカー、桃城デュールだよ。」
 彼女の言葉に、ますみたちは息をのんだ。彼女たちに、デュールがトランプメンバーのジョーカーとして立ちふさがるのだった。

 その頃、ユキは女子寮の自分の部屋に戻っていた。金の像となったルイを連れ込み、部屋に閉じこもって泣きじゃくっていた。
 アリスを破壊された姉、ルイはもう語りかけてくれない。気さくでぶっきらぼうな態度を見せる彼女の言動を見ることはもうない。どんなに願ってもそれは叶わない。
 ユキはひたすら悲しんでいた。同時に怒りも感じていた。
 姉を奪ったますみが憎くて仕方がない。ユキは彼女をどうしても許すことができなかった。
 そんな彼女の前に、フブキが姿を現した。フブキはユキの姿を見て戸惑いを隠せなかった。
「ユキ・・・」
 フブキがおもむろにユキに手を伸ばす。
「お姉ちゃんを失って悲しいのは分かるよ。でもますみを憎んじゃ・・」
「うるさい!」
 戸惑いながらもかけたフブキの声を、ユキは声を荒げて突き放す。
「あなたに何が分かるの!今までずっとお姉ちゃんを信じてきた、私の気持ちを!」
 涙ながらに叫ぶユキに、フブキが唖然となる。それを見てユキが我に返り、沈痛の面持ちを見せる。
「ゴメン・・・フブキは何も悪くないのに・・・」
「ユキ・・・」
 ユキの謝罪の言葉に、フブキはさらに辛さを感じてしまう。
(違うの・・・そんなんじゃ・・・)
 ますみとは恨み言を持ちかけず、手を取り合ってほしい。そんな切実な願いを胸に秘めながらも、それがユキに伝わっていないことに、フブキは心を痛めていた。
「あらあら。いけないわね。自分のスキャップにこんなこと言っちゃ。」
 そこへ妖しい笑みと声がかかり、フブキが振り返りユキが顔を上げる。その先の窓側に1人の女性が立っていた。リリス・フェレスである。
「あなたは誰!?どうやってここに・・!?」
 ユキが立ち上がり身構える。しかしリリスは笑みを消さない。
「私のスキャップには、石化以外に特殊な能力を備えているの。それは自分も含め、触れている生き物と一緒に瞬間移動することができるの。」
 リリスは振り返り、窓越しから外を眺める。外は雲のほとんどない澄んだ空をしていた。
「でもこれはスキャップかその能力者のいる場所じゃないとできないのよね。それでも十分重宝してるのよ。」
 淡々と語りかけるリリスに、ユキもフブキも返す言葉がなかった。
「あなた、大切な人を失くして、とっても悲しんでるのね。しかもその中で、とてつもない怒りを感じてる。」
「それは・・・」
 リリスの指摘にユキが弁解しようとする。そこへリリスがユキを優しく抱きとめ、ユキがさらなる困惑を感じて押し黙ってしまう。
「いいわ。泣きなさい・・・あなたには、私がついてるから・・・」
 リリスの言葉を受けて、ユキが不思議と安心感を覚えていく。
 フブキは完全に当惑してしまい、どうしたらいいのか分からず、この場に立ち尽くすしかなかった。
「一緒に来る・・・?」
 リリスの甘い誘惑に、ユキは無言で頷いた。ユキは眼の前の女性が、柚木町を石化し、ASEのマスターに君臨している人物だとは気付いていなかった。
 リリスの支配が、着々と進行しつつあった。

つづく

Schap キャラ紹介22:鳳 正平
名前:鳳 正平
よみがな:おおとり しょうへい

年齢:50
血液型:AB
誕生日:1/3

Q:好きなことは?
「将棋、囲碁かのう。相手がいればいいんじゃが。」
Q:苦手なことは?
「軟弱者は気が滅入るわい。」
Q:好きな食べ物は?
「アンコが入ってるもんなら何でも食えるぞい。」
Q:好きな言葉は?
「真の敵は己の中にあり。鳳式空手の心得じゃよ。」
Q:好きな色は?
「緑じゃ。心が落ち着く。」


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