Schap ACT.17 play

作:幻影


 3人のトランプメンバーと対峙するますみ、ハル、ユキ。彼女たちは各々のスキャップを呼び出し、臨戦態勢に入っていた。
 先に飛び出したのはハルのラビィだった。軽やかな動きで、徐々にガードナーとの距離を詰めていく。
「こいつ!」
 苛立っているレオナがガードナーを発射させる。しかしその砲撃をラビィにかわされる。
 ラビィは飛び上がり、両耳から光を発射する。その光がガードナーに命中する。
「しまった!」
 驚愕するレオナ。ガードナーは徐々に縮小され、ぬいぐるみとなって地面に落ちる。
 その頃、クラウンはアインスと、フブキはダイヤと争っていた。
 チェリッシュ・エナジーの放つ光線を回避しながら、吹雪を放つフブキ。ダイヤはそれを走りながらかわしていく。
 クラウンもアインスの動きを見ながら、氷月の刃と冷気をかわしていく。その隙を突いて、石化の波動を放つが、アインスも素早い身のこなしでかわしていく。
「ムダよ。あなたの動きでは私を捉えられない。体力がなくなったところを凍らせ、今度こそ破壊してやるわ。」
 氷の刃を構えて、アインスがクラウンに飛びかかる。打つ手が見出せないますみとクラウンは、彼女の攻撃に対して身構えるしかできなかった。
 そこへアインスに向けて幻が突っ込んできた。
「何っ!?」
 虚を突かれたアインスが、体勢を崩して横転する。
「ますみ!今だ、やれ!」
 地面に倒れながらも、幻がすぐに起き上がってますみに言い放つ。それを受けて、ますみが頷いてクラウンに意識を傾ける。
 クラウンは瞬時に両手をかざす。石化の波動が、起き上がったアインスに降り注ぐ。強い衝撃に押されまいと力を入れる。
 スキャップの能力者は、他のスキャップの効果を受けない。しかしアインスの持っている氷月が、灰色の石になって、ピキピキと音を立てて固まっていく。
 石化と強い衝動によって、氷月の刀身が真っ二つに折れて弾かれる。その刃が空中で回転し、ぬいぐるみとなったガードナーに突き刺さる。
「ちゃんと見切れたね。でも見切ったのは幻ちゃんだけどね。」
「全くだな。だがお前の場合、結果オーライで済みそうだな。」
 満面の笑みを見せるますみに、ハルが呆れた顔をする。幻も同様に呆れ顔をするも、すぐに困惑しているアインスに振り返る。
 スキャップを破壊された彼女とレオナの体が、各々のスキャップの効果に襲われていた。アインスは凍結、レオナは炭素凍結の電撃に包まれていた。
「こ、こんなことがぁぁーー!!」
 絶叫を上げるレオナの体がわずかに宙に浮かび、取り込むように壁が出現する。その壁に埋め込まれるようにして、彼女は完全に固まった。
「お前のようなヤツには決して負けない。私も、扇も・・・」
 彼女をねめつけるように、ハルが鋭く言い放つ。そして金属になった扇に視線を移し、困惑の面持ちを浮かべる。
(扇、ヤツを倒したのは私ではなく、お前の強い意地だ・・・)
 妹のため、自分の思うままに戦った青年を見て、彼女は悲しみとともに少し誇らしく思えた。
 そしてアインスの体も、足から徐々に白く凍てつきはじめていた。体温の低下を感じて苦悶の表情を浮かべながらも、彼女は困惑の眼差しを向けている幻を見つめる。
「フフフ・・やっと迷いを消したようね。でもこれであなたも逃げられない。ますみさんとあなたが、このスキャップの戦いにどこまで生き延びられるか・・」
「見くびるな。ますみはもう迷わないし、これ以上迷うような軟弱者でもない。オレはそう信じている。それに、オレはこれから何が起ころうと屈服しない。アイツのために、オレはこの拳を振るう。」
 妖しい笑みを見せるアインスに、幻は決意を見せる。
 もう動じたりしない。眼の前に広がるもの全てが現実となるから。
「その覚悟がどこまで続くか。見届けてあげることができないのが心残りね・・・」
 凍てつく体に激痛を覚えていたアインスは、もうろうとした意識の中で微笑を浮かべる。そんな彼女の姿を、ますみと幻は困惑の面持ちで見つめる。
(あなたたちの可能性がどれほどのものか・・・私は信じてる・・・)
 アインスは強い男が好きだった。強い幻に惹かれていた。
 しかし彼とますみの姿を見ているうち、本当の強さが何なのか、彼女は分かったような気がしていた。力やスキャップを超えた、心の強さを知ったような気がしていた。
 2人なら、スキャップの戦いの中で希望を見出してくれる。それを信じて、アインスは静かに瞳を閉じた。
 そのまぶたが、スキャップの効果を受けて白く固まっていく。アインスは白い氷像をなって動かなくなった。
 ASEの脅威の4人のスキャップ、トランプメンバーのうち2人が倒された。それを見たダイヤは、身構えるユキとフブキ、振り向いてくるますみ、クラウン、幻、ハル、ラビィを見渡す。
「ハートもクローバーもやられちゃったね。あとは私とスペード・・」
 仲間を失ってすねるダイヤ。チェリッシュ・エナジーを消して、ますみたちに背中を見せる。
「特別に教えてあげるね。あたしの本当の名前は春野(はるの)ひなた。また遊んでね、お姉ちゃんたち。」
 そういってひなたは川原から駆け出した。少女の走り去る姿を、ますみたちは呆然と見送っていた。
 しばしの沈黙の後、幻がますみに振り向いて言葉を切り出す。
「ますみ、オレはお前の姿を真っ直ぐに見つめようと思う。お前自身も、お前の中にあるものも。」
「幻ちゃん・・・」
 幻の真剣な面持ちに、ますみは戸惑いを見せる。
「元気なところ、活発なところ、バカげたところなどな。」
「バカ・・・ああーーーっ!!バカっていったー!バカって言うほうがバカなんだぞー!」
 幻に言われて、ますみが子供のように怒り出す。屈託のないおいかけっこが始まって、それを見たユキとフブキ、クラウンが笑い、ハルも笑みをこぼす。
 しばらく走り回った後、幻は足を止めてますみに振り返り笑みを見せる。
「お前はやはり、そんなふうに振舞っていないとな。」
 幻にそういわれて、ますみは少し照れる。そんな中で、彼とならなんとかなるという気持ちを、彼女は感じ取っていた。

 ますみたちから姿を消したひなた。しかし彼女は当初の目的を忘れていたわけではなかった。
 彼女の目的は、スキャップであるカナデと遊ぶこと。アインスとレオナを失ったひなたには、遊び相手がほしいという願望がさらに強まっていた。
「本当はスペードと相談したほうがいいんだけど、今戻ったらマスターに怒られちゃうね。」
 そう呟いて、ひなたはカナデが入院している病院へと向かった。

 和解を終えたますみと幻。その翌日、ユキの話を聞いた彼らは、彼女とともに病院に向かっていた。
「えっと・・確か名前は、片桐カナデちゃん。ユキちゃんの親戚なんだよね?」
 ますみが名前を確認すると、ユキが笑顔で頷く。
「でも私が来るたびに病室から飛び出して逃げたしてくるの。病人じゃないって思えるくらい・・・」
 しかし彼女の笑みに悲しみが宿る。
 彼女は全てを知っていた。カナデが心臓の病気であることを。長い入院生活のため、外に出たがっていることも。
 カナデが病室を抜け出そうとするのも、その願望ゆえだった。
「それにしても、こんな花でいいのか?桃や桜のほうが見舞いの花には合うと思うが。」
 ますみの持つ雛菊の花束を見て、幻が口を挟む。するとますみが自慢げな顔を見せる。
「ダメだよ、それじゃ。まぁ、幻ちゃんは男だから、花言葉とか知らないのもムリはないけどね。」
「雛菊の花言葉は無邪気。カナデちゃんにピッタリだよ。」
 ユキも笑顔で頷く。幻は腑に落ちない面持ちを見せていた。
「それで、この角を曲がれば、カナデちゃんがいつものように・・」
 一抹の期待を秘めて。ユキが廊下を曲がる。しかし、その先の廊下にカナデの姿はなかった。
「あれ?いないけど・・?」
 きょとんとするますみ。
「おかしいなぁ。もしかしたら、もう今日の脱走は終わっちゃったかな?」
 少しがっかりした顔をするユキ。
 3人は気にせず、そのままカナデの病室に向かった。
「カナデちゃーん。」
 ノックをしてユキが呼びかけ、ゆっくりとドアを開ける。寝ているのではないかと思っていたが、カナデは上半身だけを起こして窓から外を眺めていた。
「カナデちゃん?」
 ユキが再び声をかけると、カナデが彼女たちに気付く。
「やぁ、カナデちゃん、今日はもう脱走挑戦しちゃったのかな?」
 ユキがからかうように言うと、カナデがムッとする。その反応にますみと幻が笑みをこぼす。
「はじめまして、カナデちゃん。あたし、飛鳥ますみ。よろしくね。」
「オレは鳳幻。よろしく。」
 2人が挨拶すると、カナデがきょとんとした面持ちを見せる。
「これ、カナデちゃんに。この花びんに挿しておくね。」
 ますみが棚の上にある花びんに、雛菊の花束を入れる。それを見て、カナデが小さく微笑んだ。
「ありがとう、ますみさん、幻さん。」
 2人に感謝するカナデが笑みを浮かべる。
「何かしこまっちゃってるの、カナデちゃん。いつもは子供みたいにはしゃいでるのに。」
「んもう、ユキちゃん、それを言わないでよぉ。」
 からかうユキに、カナデが再びムッとなる。
「ともかく、それほどはしゃぎまわれる気力があるなら、近いうちに外に出られるな。そのときは、オレが古風なものをいろいろ見せてやるぞ。」
 幻が励ましの言葉をかけるが、カナデは思いつめた面持ちを見せる。
「鳳くん、カナデちゃんは心臓が悪いの。医者の話だと、治療が難しいらしいって。」
 ユキが困惑を感じながら、幻に説明する。そこでますみが笑顔を作って彼に声をかける。
「あ、あ、幻ちゃんは女性を前にすると緊張しちゃうんだよね。と、とりあえず外に出ようね。」
 ユキとカナデに弁解しながら、彼女が幻を連れて部屋から出ようとする。
「ち、ちょっと、ますみ・・・!?」
 そのとき、ユキが驚きの声を上げ、ますみと幻が振り向く。窓に視線を向けたカナデが慌しい面持ちを見せ始める。
 その窓のそばには、水銀色の長髪をした少女が浮かんでいた。そわそわしているカナデの横で、ますみ、ユキ、幻が唖然となっていた。

「あうえう〜・・どうして出てきちゃうのよ、ヒナ。」
 完全に参ってしまったカナデが言い寄る。ヒナはすっかり落ち込んだ様子で、首から提げていたカメラを手にとって見つめていた。
「それにしても、カナデちゃんもスキャップだったなんて、驚きだよ〜・・」
 ユキがほっと胸をなでおろすように、安堵の言葉をもらす。
「ユキちゃんたちも私と同じなのが、不幸中の幸いだったよ。他の人だったら、もっとビックリさせちゃったよ〜・・」
 カナデが思わずほっとした面持ちを見せる。ますみと幻は未だに唖然としていた。
「あっ!そうだ、カナデちゃん・・」
 ユキが突然真剣な顔を見せて、カナデに声をかける。
「あなた今、悪い人たちに狙われてるの。」
「えっ?」
 彼女の言葉に、カナデとヒナだけでなく、ますみと幻が驚きの反応を見せる。
「ユキちゃん、それってどういうこと?まさか、あのASEっていうのが・・!?」
 ますみが不安の面持ちを見せると、ユキは真面目に頷いた。
「あのひなたって子が言ってたのよ。カナデちゃんと遊ぶんだって。だから、カナデちゃんを守ってあげたいって思ってるの。」
「勝手を言わないで!」
 そこへカナデが怒って、ユキに怒鳴りかける。
「私もヒナも、守ってもらわなくちゃいけないほど弱くはないよ!私たちだって、やればできるんだから!」
「でもカナデちゃん、その子はASEのトランプメンバーなんだよ!みんなで力を合わせないと!」
 ますみが心配の声をかけるが、カナデの憤慨は治まらない。
「私だってやればできるのよ!私はいつか、外で思いっきり遊ぶのよ!」
 カナデはたまらずベットから飛び降り、ますみと幻の横をすり抜けて、部屋を飛び出してしまった。
「カナデ!」
 ヒナも慌てて部屋を飛び出す。
「ヒナちゃん!」
 ユキが呼び止めるが、2人とも止まってはくれなかった。
「いったいどうしたというんだ、カナデさんは?まるで、自分の無力さを悔やんでいるような・・」
 幻が唐突にもらした言葉に、ユキが動揺を浮かべる。彼とますみに眼を合わせて、おもむろに答える。
「カナデちゃん、自分はやればできるって信じてるのよ。それで辛いことを切り抜けてきたの。でも、今回の心臓の病気の治療が難しいことに、すごく悩んでるの。」
「それじゃ、カナデちゃん・・・」
「うん・・誰かに守られる自分がイヤなのよ。これ以上、みんなに迷惑をかけたくないって思ってるの。」
 沈痛の声を上げるますみに、ユキが小さく頷く。そしてカナデとヒナを追って、彼女も部屋を出た。

 自分の無力を指摘されたカナデは、病院の屋上で1人でうずくまっていた。眼から大粒の涙を流しながら、干されているシーツたちが風に揺られるのを見つめていた。
 その涙を拭ったところで、彼女を追いかけてきたヒナがやってきた。ヒナはうずくまっているカナデを見て、困惑の面持ちを見せる。
「カナデ・・・」
 ヒナの沈痛の声をもらすと、カナデはゆっくりと立ち上がる。
「私、この病気は自分の力じゃどうにもならないって思うときがあったの。どうしてこんな理不尽なんだろうって。」
 自分の胸に手を当てて、笑みを作るカナデ。
「もし私とヒナみたいな人がいるって分かってたら、それがユキちゃんだって分かってたら、私を固めてもらって、病んでいる私を止めてもらおうと・・・ううん、ダメ。ヒナのいる私には、他の効果を受け付けなくなるんだよね。」
 諦めの気持ちを見せるカナデに、ヒナは否定も肯定も示さず、当惑するばかりだった。
「でもそのことでヒナを責めたりはしてないよ。だって、ヒナは私の代わりに外に出て、私のために写真を撮ってくれてる。」
「カナデ・・・」
「私は、とっても感謝してるよ・・・」
 涙を拭って微笑むカナデ。彼女の笑顔を見て、ヒナも笑みをこぼした。
 2人が今まで頑張ってこれたのは、互いが支えあったからだということを、2人は改めて感じたのだった。
「・・やっと見つけたよ。」
 そのとき、幼い少女の声がかかり、カナデとヒナが振り返る。そこには白髪の少女がきょとんとした顔を見せていた。
「君は・・?」
 カナデが少女に声をかける。
「あたしは春野ひなた。カナデお姉ちゃん、あたしと一緒に遊んで。」
 ひなたが微笑んで、透明なビー玉の形をしたスキャップ、チェリッシュ・エナジーを出現させる。その姿にカナデとヒナが驚きを見せた。

 人々が流れていく街の通り。その傍らの一角の壁にもたれかかる1人の女性がいた。
 長い黒髪、黒いTシャツと蒼のジーンズを着用して、かけているサングラスを額の辺りまで上げている。
 彼女は1枚の写真を見つめていた。水色の髪の幼い少女の写った写真である。
「ずい分と時間を空けてしまった。アイツ、心配してるだろうね。むしろ怒ってたりして。」
 誰が見ているわけでもないのに、気さくな態度で呟く女性。腕時計を見て時間を確認し、その写真をポケットにしまう。
「さて、そろそろ行くとしますか。アイツとだけは遊んでほしくなかったねぇ。」
 ぶっきらぼうな態度のまま、女性は人ごみに紛れながら歩き出した。

つづく

Schap キャラ紹介17:春野 ひなた
名前:春野 ひなた
よみがな:はるの ひなた

年齢:9
血液型:AB
誕生日:1/6

Q:好きなことは?
「水晶を見てるのが好き。」
Q:苦手なことは?
「遊んでくれない人は嫌い。」
Q:好きな食べ物は?
「チョコミントのアイス。」
Q:好きな言葉は?
「水晶、クリスタル。」
Q:好きな色は?
「色のない透明なのが好き。」


幻影さんの文章に戻る