ガルヴォルスinデビルマンレディー 第24話「自由」

作:幻影


 アスカの死によって、石化されていた人々が元に戻った。白い石の殻が剥がれ落ち、その束縛から解放される。
「あれ?・・あたし・・・」
「元に戻った・・・元に戻ったんだよ!」
「アハハ、やったー!」
 石化から解放された人々が、歓喜や困惑など、いろいろな様子を見せていた。その中で、アスカの石化の影響で全裸にされていたため、恥ずかしくなって体を抱きしめる人もいた。
 その中には、和美、彩夏、美優、夏子の姿もあった。
「お姉ちゃん・・私たち・・・」
「うん・・元に戻れた・・・私たちの思いが、たくみさんたちに伝わったんだよ。」
 戸惑う美優に、彩夏が笑顔を見せる。手のひらには石の殻が握られていた。膜のように薄い白く固い殻は、砂のように崩壊して風に流れていった。

「ジュンちゃん!」
 同様に石化から解放された和美が、人間の姿に戻ったジュンに駆け寄る。ジュンは彼女を抱擁し、笑みを浮かべてそのぬくもりを確かめた。
「よかった・・・本当によかった・・・」
 和美を守れた。今度こそ守ることができた。
 大切なものを失わなかったことに、ジュンは心から喜んでいた。
「よかったな、和海。」
「うん・・よかったね、タッキー・・・」
 そんな2人を見つめて、たくみも和海も喜んで安堵する。和美が無事でいたことが、彼らにとっても何よりも嬉しいことだった。
「私もタッキーに声をかけてくるね。」
「あぁ・・・」
 和海が喜び勇んでジュンたちに向かって駆け出し、たくみもそれを笑顔で見送った。
 そのとき、草花にあふれたアスカの楽園が突然白く凍てつき始めた。
「な、何っ!?」
 和海が足を止めて、その変化に眼を疑う。その凍結に巻き込まれて、周囲にいた女性の何人かが白く固まっていく。
「この氷・・この力・・・まさか!?」
 驚愕を覚えたたくみが振り返る。その先には、不気味な笑みを浮かべていた桐也の姿があった。
「お前・・・!」
 たくみが眼を見開くと、桐也が彼に鋭い視線を向けてきた。ガルヴォルスの力を解放し、周囲を凍てつかせていたのだ。
「アスカ蘭を倒してくれたことには感謝してるよ。だから、僕がたっぷりと遊んであげるよ。」
 桐也の顔に紋様が浮かび上がり、直後に白い獣に姿が変わる。
「ここにいる人たちをみんな凍らせちゃうんだ。面白そうでしょ・・?」
 桐也が体を振動させて、空気中の冷気を収束させる。
「危ない!みんな、逃げろ!」
 たくみは危機感を覚えて、周囲に促す。放出された冷気が、桐也のそばにいた女性を数人、一瞬にして白く凍てつかせてしまう。
「キャアッ!」
 悲鳴が上がったのを皮切りに、女性たちが桐也から逃げ出していく。
「待ってよ。逃げないでよ。僕がみんな凍らせてあげるから。」
 歓喜を表す桐也が、さらに人々を凍てつかせようとする。
「やめろ!」
 そこへたくみが桐也の前に立ちはだかる。彼も顔に紋様を走らせて悪魔に姿を変える。
「たくみくん!」
 ジュンも和美もいきり立って、悪魔へと変身する。
 剣を握り締めて、桐也に向かっていくたくみ。桐也が彼に眼を向けて、放っている冷気を収束させて彼に放つ。
 たくみはとっさにこれをかわすが、左腕をわずかばかり凍結させられる。
「ぐっ・・!」
 そのわずかな凍結が、たくみに強い痛みを与える。
 微笑を見せる桐也に、ジュンと和美が飛びかかる。桐也は飛び上がってそれをかわして氷の刃の群れを作り出し、眼下にいる彼女たちに向けてそれを投下する。
 氷の雨を回避したため、ジュンと和美が分断される。桐也が氷の刃を握り締めて、ジュンに狙いを定める。
 一気に降下して一閃。回避したジュンに横なぎの追撃を入れる。
「ジュン!」
 叫ぶたくみの眼前で、防戦を強いられるジュン。足を取られ、仰向けに倒される。
「もらったよ。」
 桐也が歓喜に満ちた笑みを浮かべて、ジュンに向けて刃を振り上げる。ジュンはやられることを覚悟して、両腕を掲げて身構える。
「ジュンちゃん!」
 そこへ和美が、桐也を背後から爪を突き立てる。
「ギャアアッ!」
 桐也が激痛のあまりに絶叫を上げる。刺された背中からおびただしい鮮血があふれ出す。
「今だよ、ジュンさん、たくみ!」
 和海の呼びかけで、たくみとジュンが桐也に眼を向ける。そして剣を構え、爪を立て、白い獣に飛びかかる。
 爪と剣を突き立てられ、桐也がさらに絶叫を上げる。完全なとどめだった。ガルヴォルスとしての死によって、白い獣は固まった直後、砂のように崩れ去った。
「や・・やった・・・」
「アイツもアスカの石化にやられてたんだ。それが解けて、アイツは・・」
 ジュンが安堵の吐息をもらし、たくみがうめく。桐也の死によって、凍結されていた人々が白い霧を漂わせて解凍されていく。
「たくみ!」
 満身創痍のたくみに、和海が駆け寄ってくる。彼女に飛び込まれて、たくみがそのまま倒れ込む。
「おいおい、和海・・」
「よかった・・ホントによかった・・・」
 苦笑いを浮かべるたくみに、和海は喜び、涙を浮かべていた。2人の肌が互いに触れ合い、ぬくもりが伝わる。
「この体、このあたたかさ・・・間違いなくたくみだよ・・・」
「オレにも分かるよ。和海がここにいるんだって。」
 互いの存在を確かめて、たくみと和海が口付けを交わす。さらなる快感が2人の心に広がっていく。
 それを微笑んで見つめるジュンと和美。しかし体に力が入らなくなったジュンに引っ張られ、和美もそのまま倒される。
「ち、ちょっとジュンちゃん!?」
「ゴメンね、和美ちゃん。力が入らなくなっちゃって・・」
 戸惑う和美に笑みをこぼすジュン。すると和美も安堵して笑みを見せる。
「もう大丈夫だよ、ジュンちゃん。私はここにいるから。もうジュンちゃんから離れたりしないから。これからずっとジュンちゃんと一緒だから・・」
「和美ちゃん・・・」
 思いを告げる和美に心を打たれるジュン。そのあたたかさをさらに求めようと、彼女は和美の胸に手を当てていた。
「ジ、ジュンちゃん・・?」
 困惑の表情を見せる和美。しかしジュンに触れられるならそれでもいいと思い、彼女はその抱擁に身を委ねた。
「ジュンちゃん・・・今はジュンちゃんの好きにしていいよ・・・ジュンちゃん、私やみんなのために、傷だらけになって戦ったもんね・・・」
「・・ありがとう、和美ちゃん・・・私が戦えたのは、みんなが、和美ちゃんがいたおかげなのよ・・・」
 語り合い、抱擁を続けるジュンと和美。触れ合う2人の姿が、たくみと和海の眼にも映っていた。
 そして2人に触発されるかのように、たくみと和海も抱擁を始める。さらなる快楽が2人の心と体を駆け巡る。
 それを見て、ジュンと和美も笑みをこぼす。そしてジュンが左手を、和美が右手を2人に差し伸べる。
 するとたくみと和海も、それぞれ右手と左手を差し伸べる。4人の手が重なり、その思いとあたたかさが交錯する。
(そうだ・・オレたちは人間なんだ・・たとえ体は悪魔でも、人間でなくても、心は血とあたたかさを通わせている人間なんだ・・!)
 たくみは胸中で喜びを噛み締めていた。自分には信じられるものが、愛せるものが存在している。それが今の彼の、彼らの強い原動力になっていると悟った。
 その4人の姿を、彩夏と美優もあたたかく見守っていた。2人の後ろに夏子が立ち寄ってくる。
「子供が見るには少し早いかもね。」
 夏子が呟くと、彩夏がムッとして彼女を見る。
「もう、私は十分に大人ですよ。そうよね、美優?」
「もちろん、お姉ちゃん。」
 彩夏の言葉に美優が元気よく頷く。獣の姉妹の笑顔を見つめて、夏子も微笑んだ。
 そして2人の姉妹を、彼女は優しく抱きしめた。
「えっ?な、夏子さん・・?」
 彼女の抱擁に戸惑うも、彩夏と美優は笑みを浮かべて身を委ねた。
「今、メガネが壊れててよく見えないの。だから、ちゃんと見ておいてね。」
「・・・はい。」
 夏子の言葉に、彩夏と美優は頷いて、たくみたちを見守ることにした。

 それから、事件やわだかまりは沈静化の方向へと進んでいた。かつての夏子の部下の刑事たちが動き、たくみたちをはじめとしたアスカの被害者たちを保護したのだった。
 そしてたくみたちに捧げた彩夏の歌声が、人の進化に疑念を抱いていた人々の心を癒した。不安や恐怖でかたくなになっていた心を解かしたのだった。
 共存とまではいかないものの、人々の心はその方向に傾きつつあった。たくみたちの理想は、徐々に実現へと向かっていった。
 たくみたちも各々の道を進もうとしていた。たくみはバイク屋で、和海、ジュン、和美はモデルで人生を歩んでいこうとしていた。
 その中で、夏子は自分の思いと親友を助けるという決意から、本来務めていた職務を放棄した。アスカとの戦いの翌日、彼女は辞表を提出して刑事である自分を捨てた。
 それ以来、たくみたちは彼女の行方を知らない。そして彩夏も美優も。
 彼女たちのことを気に留めながら、たくみたちも決意を表そうとしていた。

「えっ?引っ越すのか?」
 ジュンと和美の告げた言葉に、たくみと和海が声を返す。
 戦いから1日がすぎて、ジュンたちが相談して決めたことだった。2人だけの時間を大切にしたいという双方の願いからだった。
「でも、タッキーとは全然会えなくなるわけじゃないから。落ち着いたら連絡先教えるからね。」
 和美が笑みを見せて弁解すると、たくみと和海は頷いて、ジュンと和美の決意を受け入れた。
「たまにはここに戻ってこいよな。オレたちもたまにはそっちに行くから。」
「ありがとう。」
 たくみの言葉に嬉しさの笑みを浮かべるジュン。
「ところで、ホントになっちゃんはどうしたんだろう?」
 唐突に和海が疑問を投げかける。
「私たちを助けに行くために、刑事の仕事まで辞めたって聞いたけど・・連絡取ろうと思っても取れないんだよね・・」
 眉をひそめてわだかまりを感じる和海。ジュンとたくみも沈痛の面持ちを見せていた。
「挨拶をしたかったんだけど・・いったいどこに・・」
「誰をお探しになってるのかな?」
 そこへかかった声に、たくみたちが振り返る。そこには夏子、彩夏、美優の姿があった。
 夏子は刑事のときの黒のレディーススーツではなく、少しラフな格好をしていた。
「なっちゃん・・・」
 和海が唖然となりながら呟く。すると夏子が苦笑いを浮かべる。
「何て顔をしてるのよ。私なら大丈夫よ。」
「でもなっちゃん、私たちを助けるために、刑事を辞めたって・・」
 沈痛の面持ちを見せる和海に、夏子は微笑んでみせる。
「確かに刑事は辞めたわ。でも、これからは私立探偵として、新しい人生を歩んでいこうと思ってるの。それで、彩夏ちゃんと美優ちゃんが、助手として頑張りたいって言われちゃって。」
 夏子が眼を向けると、彩夏と美優が笑みを見せる。
「うん。私たちは今まで、デビルビーストやガルヴォルスの力や、周りの人たちのことを怖がってた。でもたくみさんやジュンさんに会えたことで、それに負けない勇気を持つことができた。そのことには、みんなにとっても感謝してる。」
「彩夏ちゃん・・」
 語りかける彩夏に、たくみたちは笑みをこぼした。
「だから、私たちの持ってる力を生かして、精一杯生きてみたいと思ってるの。この力がみんなのためになるなら、いつかきっと、他の人たちにも受け入れてもらえるから。」
「そうか・・・オレたちも応援してるから。あと、また歌を聞かせてくれよな。」
 彩夏の決意を聞いて、たくみが気さくな態度で答える。すると彩夏と美優は頷いてみせる。
「ところで、早速なんだけど、なっちゃんに依頼したいことがあるんだけど・・?」
 そこで和海が頼み込むと、夏子は不敵な笑みを浮かべて、
「ご依頼の内容と報酬にもよりますが?」
 言ってのける夏子に、和海は一瞬たくみに視線を向けてから答える。
「これからも、友達でいてほしいんだけど・・」
 その言葉に夏子は一瞬きょとんとなる。心から信じあい、分かり合える親友がいたことを、改めて認識した。
「ありがとう、長田さん・・・これからも無事でいてちょうだい。これが“報酬”よ。」
 微笑む夏子に、和海も小さく頷いた。しばしの別れと友情を込めての握手を交わす。
「それじゃ、そろそろ事務所に戻らないと。依頼が入ってるかもしれないしね。」
「そうですか・・いろいろ、ありがとうございます、夏子さん。」
 ジュンが感謝の言葉をかける。夏子はそれを受けて、彼女と、そして和美と握手を交わす。
「あなたたちも、しっかり生きなさいよ。」
「大丈夫だよ。これからはずっとジュンちゃんと一緒だからね。」
 夏子の励ましの言葉を受けて、和美がジュンに寄り添って喜びを見せる。それを見て、夏子もたくみたちも笑みをこぼす。
「じゃ、またどこかで。」
「ああ。またな、なっちゃん、彩夏ちゃん、美優ちゃん。」
 笑みを見せて別れを告げる夏子、彩夏、美優を見送るたくみたち。
 そしてたくみと和海、ジュンと和美が顔をあわせる。ガルヴォルスとデビルビースト。2種の進化を遂げた彼らが、人として生きることを誓って向き合っている。
「オレたちはこの道を、精一杯に生きるんだ・・・みんなの理想、みんなの思いを心に秘めて、前に進んでいく・・・」
「いつかきっと、みんなと分かり合えるときが来る。そのときまで、ううん、それからも頑張っていきましょう。」
 互いに決意の言葉をかけ合うたくみとジュン。そして4人は振り返り、背を向け合う。
「強く生きていこう、タッキー。」
「うん。もう死んだりしないよ、おーちゃん。ジュンちゃんやおーちゃんに辛い思いをさせるのは、私もイヤだから。」
 4人は歩き出した。涙を見せず、振り返らずに。
 永遠の別れじゃないから。またどこかで会えるから。
 それが確信であることを彼らは分かっていた。
 彼らは歩き出す。彼らを信じてくれる人たちのため、彼らに全てを託した人たちのため、そして自分たちの心のために。

 人間として、今を生きる・・・

終わり


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