ガルヴォルスinデビルマンレディー 第17話「復讐」

作:幻影


 たくみへの復讐を生き甲斐とする蓮。心を揺らせながら、戦いに赴くたくみ。
「さぁ、早く悪魔になれよ。全力の貴様を、オレが完膚なきまでに叩き潰してやる。」
 不敵な笑みを浮かべて挑発する蓮。それに乗るように、顔に紋様を浮かべていたたくみが、悪魔に姿を変える。
「そうだ。その姿の貴様を、オレが始末してやるそれでオレの復讐にピリオドが打たれるんだ!」
 蓮も悪魔の姿をした獣に変身し、たくみに向かって飛びかかった。たくみは飛び上がってそれをかわし、剣を出現させて蓮を迎え撃つ。
「蓮、アンタのオレへの憎しみは、オレを倒さないと晴れないのか!?」
「フンッ!分かりきったことを聞くんだな!」
 蓮が笑みを浮かべて追い打ちをかける。振り上げられた爪を剣で受け止めるたくみ。
 しかし、憎悪に駆り立てられている蓮の猛攻に、たくみは圧されていた。たくみは蓮に対して、敵意を向けきれないでいた。
「貴様さえ・・貴様さえいなければ!」
 蓮が力強く爪を尖らせた右手を振り下ろした。剣でそれを受け止めるものの、その勢いに負けてたくみは地上に叩き落される。
「ぐあっ!」
 地面に叩きつけられて、たくみがうめく。砂煙をまき散らすこの場所で、彼は激痛を感じて顔を歪める。
 傷ついた彼に蓮が飛び込み、獣の足で踏みつけてきた。
「がはっ!」
「そうだ!もっと苦しめ!貴様の苦しみが、オレの心を満たしてくれる!」
 哄笑を上げる蓮がたくみの首をつかみ、体を持ち上げる。首を絞められ、たくみがさらにうめく。
 蓮は彼の腹部に拳を叩き込む。紅い吐血をかけられながらも、首を絞めていた手でその体を放り投げる。
「あぐっ!」
 傷ついた体に鞭が打たれるような衝撃を受けて、地面に倒れたたくみがうめく。その姿が悪魔から人間に戻る。
 窮地に追い込まれた彼の姿を見下ろして、蓮が不敵な笑みを浮かべた。

 草花が風に揺られる楽園。アスカが張り付けにされている和美に近づいていく。
「罪深き悪魔の末路。それは十字架に自由を奪われた状態での死刑ではない。」
 困惑する和美に向けて、アスカが右手を伸ばす。
「その体にあるけがれを、神の力で取り除かれるという至福を与えられるのよ。」
 その手が神々しく光り出す。

    ドクンッ

 その瞬間、和美に強い胸の高鳴りが襲った。一瞬息の詰まるような衝動に襲われ、彼女は眼を見開く。
「タッキー!」
 同様に十字架に張り付けにされている和海が叫ぶ。
「な、何なの、今の衝撃は・・・!?」
 胸の衝動に困惑する和美。その反応を見て、アスカが妖しく微笑む。
「これであなたの中の、悪魔としてのけがれが取り除かれる。」
「アンタ、何を・・!?」
  ピキッ ピキッ ピキッ
 そのとき、和美の体が石化し始めた。白いヴェールが引き裂かれ、胸とその周りが白く固まってしまった。
「ア、アンタ・・私に何を・・・!?」
「これはあなたのけがれを取り除く神の力。これを受けたあなたは次第に快楽を感じ、憎しみも悲しみも全て洗い流せるでしょう。」
 困惑する和美に、アスカは微笑みながら近づいていく。
「同じ・・・あの石化と同じだよ・・・」
 和海も同様の困惑を見せていた。かつて神の力を欲していた女性、あずみにかけられた石化と同じだった。
 アスカが石になった和美の胸に手を当てる。
「ぁぁ・・・あはぁ・・・」
 胸を撫でられている和美が、顔を紅潮させてあえぐ。しかし石化と張り付けによる拘束によって、自由に動くことができない。
「そう。その高まりよ。欲望と感情の解放こそが、その人を楽園へと導くのよ。」
「まさか、こんなことを・・ジュンちゃんにも・・・」
「ええ。あなたが1度死んで、彼女が闇に堕ちる少し前だったかしら?」
 アスカの言葉を受けて憤りを感じ始める和美。しかし胸を撫で回される快楽と拘束によって、その怒りを眼前の女性にぶつけることができない。」
 さらにアスカは和美の胸の谷間に顔をうずめてきた。彼女のあたたかさと吐息が、和美にさらなる刺激をもたらす。
「やめて・・イヤァ!・・私に触ってこないで・・・!」
 顔を歪めて抗議する和美。しかしアスカはこれを聞こうとしない。
「長田和海さん、この石化は、元々は不二あずみという人の使っていた能力・・」
 アスカが困惑したままの和海に視線を向ける。
「私はかつて1度死んだ。ジュンによって・・でも、そのあずみの魂が入り込んだことによって、私は生き返ることができた。つまり、私はアスカ蘭でありながら、不二あずみであるとも言えるのよ。」
「そんな・・そんなことって・・・!?」
 アスカの語られた言葉に愕然となる和海。アスカの中にたくみたちを脅かしたあずみが存在していた。

 追い詰められて傷ついたたくみがゆっくりと立ち上がる。そんな彼を見据えながら、蓮が右手の爪を立てる。
「こんなあっけない幕切れになるとはな。それほどオレの力と怒りが高まっていたということか。」
 不敵な笑みを浮かべて、目前の勝利に酔う蓮。
「蓮、オレを倒せることがそんなに嬉しいか?」
「何?」
 たくみが振り絞った声に蓮は笑みを消す。
「オレを倒したとして、それからアンタはどうするつもりなんだ?」
「それから?オレに“それから”なんてものはもうない。貴様に打ち砕かれてしまったからな。」
 たくみの問いかけをあざ笑う蓮。たくみの表情に苛立ちが浮かび上がる。
「この先どうなろうと、オレにはもはや関係のないことだ。ただ、今ここで貴様を潰すことが、オレの全てだ!」
 不敵な笑みを浮かべて高らかと哄笑を上げる蓮。
「本気でそう思ってるのか・・・空しいな・・」
「何!?」
 悲痛の言葉を投げかけるたくみ。蓮の笑みが憤慨に変わる。
「アンタの考えには、未来が全く感じられない。そんなんで人として、生きてることになるのか・・?」
「その未来を奪ったのは貴様だ!貴様に人としての生を奪われたんだ!貴様もオレももはや人ではない!人を傷つける悪魔なんだ!」
 蓮が再び怒りを爆発させる。たくみはその沈痛の表情を変えない。
「確かにオレはガルヴォルス、悪魔だ。だが、それでもオレは人として生きる。生きたいんだ。」
 自分の中にある決意を言葉にするたくみ。しかし復讐心に駆られた蓮には伝わらない。
「きれい事は後でたっぷりほざくんだな。悪魔の棲むにふさわしい地獄でな。」
 蓮が満面の笑みを浮かべて、たくみに向けて爪を立てる。
(これで・・これでオレは!・・・むっ!?)
 そのとき、勝利を確信した蓮の腕に爆発が発生する。
「これは・・あっ!」
 困惑するたくみが振り向くと、そこには夏子の姿があった。グレネードランチャーを手にしている彼女が、蓮にその弾丸を放ったのだった。
「な、なっちゃん・・!?」
「なんて顔してるのよ。こんなところでグズグズしている場合じゃないんでしょ?」
 たくみは困惑を拭えないでいた。そんな彼に半ば呆れたように見せる夏子。
「なっちゃん、どうしてここに・・・和海たちのサポートをしてたんだろ?」
「こんな事態に黙ってるわけにはいかないでしょ?ビースト計測器に反応があったんで駆けつけたら、アンタが戦ってたからね。援護させてもらったわ。」
「ヘッ・・思ってた以上に大胆不敵だな、警察は。」
「いいえ、もう私は警部じゃないわ。」
「警部じゃないって、おい・・・」
 小さく微笑む夏子に、たくみは眉をひそめる。
「実はこれは上司の命令じゃなく、私の独断で来たの。後で辞表も出すつもりよ。だから今は、ただの秋夏子よ。」
「アンタ・・・」
 たくみたちを助けるために、今まで就いていた職務を放棄してきた夏子。彼女の決意に、たくみは戸惑いを隠せなかった。
「なにオレの邪魔してんだよ、貴様・・・!」
 そんな彼女たちに向けてうめき声が響く。彼女たちが振り向くと、蓮が腕にまとわりついている煙をはたきながら苛立っていた。
「不動たくみを倒すのがオレの全てだ。そいつはもちろん、邪魔をするヤツも容赦なく殺す。」
「勝手な言い草ね。そんな身勝手な考えが通ると思ってるの?」
 夏子が視線を鋭くして、手に握り締めているグレネードランチャーを構える。蓮はこみ上げる怒りをそのままに、不敵な笑みを見せる。
「通らなくても通すさ。言ったはずだ。オレを邪魔するヤツは殺すと!」
 蓮が激昂しながら飛びかかる。夏子がランチャーを構えて迎撃しようとするが、蓮の悪魔の爪に弾き飛ばされる。
「なっちゃん!」
 叫ぶたくみが激昂し、再び悪魔に姿を変える。そして不敵に笑ってみせる蓮につかみかかる。
 そこへ腹部に拳を叩き込まれるたくみ。怯んだところを蓮に背後からつかまれ、そのまま上空に飛行される。
「まだオレに向かってくる力があったか!だが今度こそ終わりだ!貴様をこのまま奈落の底に叩き落してやる!」
 蓮が不敵に笑いながら、逆さまになって急降下を始める。たくみをそのまま地面に叩きつけるつもりだ。
「うぐっ・・た、たくみ!」
 傷ついた体を起こしながら顔を上げた夏子が叫ぶ。彼女の眼には、落下する2人の悪魔の姿が映っていた。
(こ、このままじゃ確実にやられる!けど、ヤツの力を振り払うことができない・・・!)
 力強い蓮の腕を振りほどけないたくみ。落下によって徐々に地上へと接近してくる。
(このままじゃ・・・!)
 危機感が彼の中に広がっていく。同時に彼の眼が紅く染まり出す。
 悪魔としての狂気が、彼の体を駆り立てる。両手を振り抜き、落下の衝突を受け止める。そしてその衝撃を両手だけで受け止める。
「な、何だと!?オレの力を受け止めただと!?」
 驚愕を見せる蓮を、たくみは体を回転させて振りほどく。体勢を整えて着地し、再び互いを見据える2人。
 たくみの眼には不気味な紅い眼光が灯っていた。完全に蓮に対する殺気に囚われていた。
「オレは死ねない・・ここで朽ち果てるわけにはいかないんだ。」
 爪を尖らせ、牙を光らせる。
「オレには未来がある。守るべきものがある。そうだ・・」
 眼を見開いて飛び出すたくみ。同時に蓮も飛びかかる。
「オレにはアンタにはない、大事なものがあるんだ!」
 2人の爪が交差し、互いの体に突き刺さる。蓮の爪はたくみの左肩に、たくみの爪は蓮の腹部に突き立てられていた。
 刺された部分から鮮血があふれ、2人の間にはおびただしい血がこぼれ落ちる。蓮が腹部を押さえてひざをつきうずくまる。
 ふらつきながらも倒れずに見下ろしてくるたくみと、見下されて苛立つ蓮。
「なぜだ・・・なぜオレは貴様に・・・!」
「言ったはずだ。オレにはアンタが捨てているものがあるってな。」
「何!?」
「オレには守りたいものがある。進みたい未来がある。もしもそれが罪だというなら、戦うことが罪なら、オレが背負ってやる。」
「罪を背負うだと?オレは悪魔。貴様もまがいものとはいえ悪魔だ。全ての罪が悪魔の存在理由だというのに・・」
「オレは人間だ。アンタも人間。オレたちは悪魔の皮を被っただけの人なんだ。」
「ケッ!オレは悪魔だ!人としてのものは全て捨てた!貴様に踏みにじられたからな!」
「いや、アンタはまだ人としてのものを、オレに対する怒りが残ってるじゃないか。」
 たくみのその一言に、蓮は愕然となる。
「悪魔なら、そんな感情的にもならないだろ・・」
 人間の姿に戻り、物悲しい視線を向けるたくみ。同情されていると思った蓮は、さらなる苛立ちを募らせていた。
 しかし悪魔ではなく人間であるということを肯定するとも思え、蓮はその憎悪をむき出しにすることができなかった。
「いいや・・オレは悪魔・・不動たくみ、お前に復讐するために、人の全てを捨てた・・・貴様にこんな哀れみを受けるくらいなら・・・!」
 蓮は眼を見開き、悪魔の爪を立てた。そしてその爪を、自分の腹部の傷口に刺し込む。
「お、おいっ!何を・・!?」
 たくみが驚愕して手を伸ばす。その先の蓮が人間に姿を戻す。彼の顔には不気味な笑みが浮かび上がっていた。
「オレは・・死を選ぶ・・・」
 蓮は微笑を浮かべたまま、前のめりに倒れる。たくみが蓮に駆け寄り手を差し出すが、蓮は色をなくして固まり、触れた瞬間に砂のように崩れ去った。
「蓮!」
 たくみは砂のついた自分の手を見つめながら叫ぶ。復讐に駆られた悪魔は影も形もなくなった。
「くそっ!このバカヤローが!なんで生きていこうとしないんだ!生きていくことが、戦いだっていうのに・・・!」
 砂の山に拳を叩きつけ、怒りと悲痛をあらわにするたくみ。彼の眼には大粒の涙がこぼれ、砂に落ちる。
 そんな彼を、夏子は沈痛の面持ちで黙って見守るしかなかった。
 たくみは涙を拭い、ゆっくりと立ち上がる。
「なっちゃん、オレは今から和海たちを助けに行く。」
「それなら私も行くわ。私は、そのためにここに来たんだから。」
 悲しみに満たされているであろうたくみの気持ちを察しながら、何とか笑みを作る夏子。たくみが太陽が雲に隠れていく空を見上げる
「・・ジュンさんが傷ついている。和海が助けに行ったけど、誰かに捕まったらしい。」
「どうして、そんなことまで・・?」
「感じるんだ、和海たちの気配が・・タッキーと合流してたみたいだけど、2人とも施設から離れている。ジュンはまだいるのに・・誰かに連れて行かれたんだ。多分、あのアスカ蘭って女に・・」
「アスカさんが・・・!?」
「知ってるのか?」
 驚きを見せる夏子に振り向くたくみ。
「私の上司よ。ビースト対策本部設立の際、私にいろいろと助力を与えてくれた人よ。」
「なっちゃん・・・」
「あの人は私の恩人なのよ。できることなら、対立したくなかった・・」
「けど、迷ってる場合でもねぇ。たとえアイツが傷つくことになるとしても、オレは和海たちを助けなきゃならないんだ。」
 たくみの心は揺るぎなかった。たとえ相手が自分の知り合いの上司や恩人であろうと、大切なもののために対立することもいとわない。
 しかし、夏子の不安はそれだけではなかった。
「でもその体で助けに行くつもりなの?ダメよ!そんな体で行っても・・」
 手を伸ばして呼び止めようとした夏子だが、たくみに手で制される。
「オレの体を気にしている場合じゃないんだ・・たとえボロボロになっていても、和海を助けに行かなくちゃなんないんだ!」
「たくみ・・・」
「頼む・・行かせてくれ・・・」
 必死の思いを投げかけるたくみの顔に紋様が浮かぶ。悪魔に変身し、その翼を大きく羽ばたかせる。
「分かったわ。もう止めない。でも、絶対に生きていてよ。」
「ああ。分かってる・・・」
 夏子にジュンを任せたたくみは小さく頷き、翼を広げて飛び上がった。和海たちを助けるため、彼は満身創痍のままアスカに挑むのだった。


次回予告
第18話「天使」

アスカに捕らわれた和海。
魔性の女神の抱擁に、和海の心は侵されていく。
その偽りの楽園に飛び込んできたたくみ。
そこで待ち受けていたのは、恐るべき死の罠だった。
悪魔と天使、2人の運命は?

「そんな血みどろの悪魔は、この楽園にはふさわしくないわ。」

つづく


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