Blood -Chrono Heaven- File.5 月の夜

作:幻影


「そんなことがあったなんて・・・」
 しずくと健人の過去を知った早人とあおいは戸惑いを隠せなかった。
 弟を助けるため、自らブラッドの力を受け入れることを望んだしずく。健人の姉である麻衣に血を吸われたシュンと同様、しずくもその忌まわしき力を手にしたのである。
 しかし、未だにシュンの行方も、それにつながる手がかりさえ見つかっていない。早人の情報網でも、彼を探し出すに至っていなかった。
 しずくは物悲しい笑みを漏らして、真っ白に固まったままの佐奈の肩に溜まったほこりを落とす。
 あの出来事が起こった3年前から、この島は何ひとつ変わってはいない。シュンの暴走した力によって、島の時間は止まったままである。シュンが自ら力を解くか、彼が死ぬ以外にこの時間凍結は解けない。
 そしてしずくとシュン、健人の絆は、この凍てついた島に置き去られたままである。
「あのときもいろいろ大変だったんだよなぁ・・・その後も・・・」
 しずくは再び思い返していた。行方不明になったシュンを追い求めて、島を出てからのことを。

 島を抜け出し、シュンを探す旅を始めた健人としずくを待っていたのは、彼らと同じブラッドからの襲撃だった。
 健人を裏切り者として認識していたブラッドたちは、彼らに対して必要以上の追撃を迫ってきていた。
 この過酷な日々が1週間続き、健人たちの疲労は肉体的にも精神的にも極致に達していた。これまで追手を撃退することに成功してきたが、次も同じようにうまくいくという確信は持てなかった。
「もう・・・イヤだよ、こんなの・・・これじゃシュンを探すどころか、私たちのほうがどうにかなっちゃいそうだよ・・・」
 打ちひしがれたしずくが悲痛の呟きを漏らす。ブラッドの力を手にしても、未だに何もできずにいる自分たちに苛立ちを感じていた。
 島が凍てついてから、シュンのブラッドとしての力は全く感じ取ることができなかった。健人の姉である麻衣の気配も。
「あきらめるな。まだ可能性が消えたわけじゃない。どこかにシュンくんは必ずいるはずだ。どこかに・・・」
 しずくを慰める健人から自信がなくなっていく。彼自身、何もできない自分を責めていた。
 彼女に力を与えておきながら、逆に彼女を不幸に陥れている。傷つけていると責任を感じ、健人は錯乱しそうな気持ちを抑えるのに必死だった。
「まだこんなところにいたんだ。」
 悲痛に暮れている健人たちに向けて、突然声がかかった。健人は立ち上がり、声のしたほうを振り向く。
「・・姉さん・・!?」
 驚愕する健人の前に現れたのは、彼の姉の麻衣だった。彼女は妖しい笑みを浮かべて、困惑する健人としずくを見つめていた。
「何しに現れた!?シュンくんはどこなんだ!?」
「フッフッフ、そう興奮しないで。」
 声を荒げる健人に麻衣が哄笑を上げる。
「あの子なら私たちが保護しているわ。でも、今は返すわけにはいかないわ。」
「私たち!?」
 健人が疑問の声を上げた直後、彼らの周囲に、数人の人影が現れた。体格の大きい大男に、細身の体をした男、そして長身の男である。
「こ、こいつらは・・!?」
 健人が身構えて周囲を取り囲む男たちを見やる。しずくが動揺して健人にすがりつく。
 すると麻衣の横に立っていた長身の男が、不敵な笑みを見せながら前に出る。
「オレたちはお前たちと同じブラッドだ。神の報復からこの世界を守るために、あのシュンという少年の力が必要なんだ。」
「何だと・・!?」
 健人の驚愕を聞き流し、男はさらに話を続けた。
「とりあえず自己紹介しておこう。オレは不動全(ふどうぜん)。そこの大男が三浦冬也(みうらとうや)、細いのが滝祐二(たきゆうじ)だ。
 全が紹介していく中、祐二が不服そうに舌打ちする。
「椎名健人、お前のことは麻衣から聞いている。シュン同様、お前もオレたちに力を貸すんだ。」
 そう言って全が右手を健人に差し出した。しかし健人はその手をはたいて、全の誘いを拒否する。
「ふざけるな!何をたくらんでいるのか知らないが、お前たちに協力するつもりはない!シュンくんはどこにいる!?今すぐ返せ!」
 全はいきり立つ健人から、困惑したままのしずくに視線を移した。
「お前はどうなんだ、真夏しずく?オレたちについてくれば、会いたがってた弟に会えるんだ。」
 全の誘惑にしずくの心が揺れる。おぼろげに前に進もうとした彼女を、健人が力を込めて押さえる。
「騙されるな、しずく!こいつらについていったって、シュンくんが無事に帰ってくる保障はどこにもないんだぞ!」
 健人の必死の説得。それでもしずくの心はシュンに向かっていた。
「シュンくんはオレが助ける!こいつらがシュンくんを連れ去ったって言うなら、こいつらを倒してでもシュンくんを・・!」
 健人のこの言葉を聞いて、麻衣以外の全たち3人が哄笑を上げる。
「聞いたか?オレたちを倒すってよ!」
「寝言を言うにも程があるってもんだぜ!」
 大笑いする冬也と祐二。不敵な笑みを強める全。
「今のお前たちの力では、オレたちには敵わない。わざわざ命を粗末にすることはない。オレたちのもとに来い。丁重に歓迎してやるよ。」
「オレたちはお前たちに従わない!何度も言わせるな!」
 全の誘いを拒み、健人は紅い剣を出現させた。敵対の意思を全たちに見せる。
「お願い、健人!これ以上私たちを敵にするのはやめて!でないとあなたは・・・」
 麻衣が悲痛の叫びを上げる。しかし彼女の思いを、健人も全も受け取ろうとはしなかった。
「ムダだ、麻衣。もはやこいつはお前の弟ではない。弟がお前に牙を向けると思うか?」
 全の言葉に麻衣は返す言葉が浮かばなかった。健人が姉弟の絆を断ち切っているという全の言葉を、麻衣は受け入れることができなかった。
「オレたちに敵対するなら仕方がない。この場でお前の息の根を止めてやる。」
 全も紅い剣を出現させる。通常の形状である健人の剣に比べ、全の剣は刀身の先端がえん曲になっている大刀をかたどっている。
「オレの剣よりも大きく、力もある!」
 全の力に圧倒される健人が動揺する。
「それでけではないぞ!」
 全が飛び出し、困惑する健人に向けて剣を振り下ろす。健人はとっさに剣で受け止める。
 しかし、全の力が健人を圧倒し、振りかざした大刀が剣ごと健人を弾き飛ばした。
「健人!」
「まだだぞ。」
 叫ぶしずくの眼の前で、全が健人を左手の指から放った光の鞭で縛り上げる。強く締め付けるその鞭に、健人は激痛のあまりに手から剣を落とす。
 全は剣を地面に突き刺し、空いた右手から光の弾を発射して、健人に追い討ちをかける。
「健人!やめて!」
 しずくが健人を助けようと、全に向かって飛びかかった。全はそれに気付き、左手の光を消した。
 束縛を解かれた健人がそのまま地面に倒れる。しずくが全を突き飛ばそうとするが、逆に全に首根っこを掴まれる。
「キャッ!イヤッ!」
 あえぎ声を上げるしずくの顔を眼前に近づける全が不敵に笑う。
「お前は来てくれるのだろ?そうすればお前は弟に会えるんだ。」
 誘惑する全に戸惑うしずく。そんな彼女の心に、健人の声が響き渡る。
“シュンはオレが助ける!”
 彼の決意は、しずくの心からの願いと重なっていた。
「私は、私たちの力でシュンを助け出す。あなたたちがシュンを連れ去ったのなら、私はあなたたちと戦う!」
 真剣な眼差しを向けるしずく。改めてシュンを助ける決意を固める。
 全はそんな彼女を見て再び不敵に笑う。
「勇敢だな。その勇気には感服する。だが・・」
 全はしずくの首筋を掴む左手を放し、彼女の腹部の右手を当てた。
「それ以上に、愚かだ。」
 全は右手から衝撃波を放ち、しずくを吹き飛ばした。痛烈な衝撃を受けて、しずくが吐血して地面を転げまわる。
 彼女が動かなくなったのを確認して、全が剣を引き抜いて、ふらつきながら立ち上がる健人に振り返る。
「シュンのためだ。あの娘は殺さないでおく。だが、お前はここで始末をつけておくぞ。」
 息を荒げる健人に向かって、全が足を進める。ダメージと力の使用によって、防御のための力を発動させることさえ、今の健人にはできなかった。
 全は不敵な笑みを見せて、大刀の切っ先を突き立てた。剣は健人の体を貫き、鮮血が飛び散った。
 体からあふれる血が、全の大刀の刀身に流れ伝う。全は健人を突き刺したまま、崖の端まで足を進める。その様子を、哄笑を上げながら見つめる冬也と祐二、不安になりながら見守る麻衣。
 健人を助けたいと思いながらも、全の言葉に逆らえなかった。
「この程度なら、ブラッドであるお前なら生き残ることができる。だが、これで終わりだ。この崖から突き落とせば、さすがに生きてはいられないだろ。」
 全は大刀を引き抜き、健人を崖から突き落とした。血みどろになった体が、力なく崖の底の海に落ちて消えていく。
 振り返り、冬也たちに笑みを見せる全は、健人を傷つけた紅い剣を消失させる。
「戻るぞ。収穫はなかったが、危険分子は排除した。」
 全は倒れたまま動かないしずくに眼をやってから、冬也たちに続いて、その場から姿を消した。
 しずくはその草原で意識を失っていた。月の光が照らす夜のことだった。

「健人もしずくも、いろいろあったんだね・・・」
 健人の話を聞いたあおいが物悲しい笑みを浮かべる。
 何としてでも、弟を助けたい。そんな姉の思いを、父親を失ったあおいには痛いほど分かっていた。
「あれから、シュンの行方を追いながらも、離れ離れになった健人のことも考えたよ。きっとどっかで生きてるって信じてね。そしたら、あおいちゃんのいた豪邸で会っちゃうんだから、びっくりしちゃったよ。髪の色が真っ白になってたのも驚いちゃったけど。」
 しずくが健人に笑顔を見せる。
 全に敗れ、崖から海に落とされ、死の恐怖を体感した健人は、黒かった髪の色は真っ白になっていた。仮面舞踏会で声色や口調に気付かなかったら、しずくはこのまま彼を素通りしていただろう。
 健人の喜びの笑みが次第に消えていく。
「とにかく、今分かっていることは、オレの姉さんや全が、シュンを捕らえていること。そしてヤツらは、何かとてつもないことをやろうとしていることだ。」
「けど、そいつらがどこにいるのかは分かってないんだろ?オレでもそんなヤツらの情報は掴んでいない。」
 早人が首を押さえて参った様子を見せる。
「結局、ヤツらがこっちに現れてくれるしか道はないということなのか・・・」
 早人のこの言葉に、全員気落ちするしかなかった。シュンがどこにいるのか、シュンを救出する打開策さえも見出せずにいた。
「それでも、オレたちは立ち止まれない。こうして今まで探し回って、少しだけど確実にシュンに近づいている。だから、オレたちのやっていることは、決してムダじゃないってことだけは確かだ。」
 自信に満ちた健人に、しずくに元気が戻る。なかなかたどり着けなかった場所に近づいているという成果に、重く沈んでいた彼女の心に再び光が差し込んできていた。
 そのとき、しずくと健人はただならぬ気配を感じ、一瞬硬直する。ブラッドとしての感性が、その気配を捉えたのだ。
「この力は・・・シュン!」
 しずくはきびすを返して一目散に飛び出した。
「しずく!」
 健人もその後を追う。何事か分からないまま、あおいと早人も健人たちに続いて駆け出した。

 島の先端にある海岸。
 雲の流れる青空が見渡せるその海辺に、しずくと健人はたどりついた。
 そこには波の漂う海を眺めている1人の青年が立っていた。髪の色が健人と同じように白かったが、しずくはその青年に見覚えがあった。
 いつも自分のそばで元気な姿を振舞って見せていた弟の姿。
「シュン・・・」
 しずくの歓喜の涙を浮かべながらの言葉に、青年は気付いて振り返った。
「こんなところにいたんだ・・・シュン・・・」
 しずくが笑顔を作って青年に近づく。しかし青年はきょとんとした様子を見せていて、健人はそれに疑問を抱いた。
「だ・・誰ですか・・・?」
「えっ・・・?」
 突然の青年の声に、しずくがきょとんとなる。
「な、何を言ってるの、シュン・・・?」
「確かにオレの名前はシュンだけど・・・あなたは、いったい・・・?」
 複雑な面持ちを見せる青年に、しずくの困惑は広がるばかりだった。
「どうなってるんだ・・・シュンとしずく・・・2人は姉弟であり、同じブラッドなはずなのに・・・!?」
 健人はシュンの様子に疑問を抱いた。ブラッドとしての気配と姉弟の面影で、互いを知らないはずはない。
 しかし、シュンはしずくのことを初対面のように感じ取っている。互いを支えあってきた2人のはずなのに。
「彼には、記憶がないのよ。」
 背後から突然かかった声に健人は振り返った。彼の姉、麻衣が物悲しい笑みを浮かべて語りかけてきた。
「姉さん・・・!?」
 健人の中に困惑と苛立ちが込みあがってきた。
「姉さん・・シュンに何をしたんだ!?どうしたんだ!?」
 声を荒げる健人に、麻衣は悲しい眼差しを向けて答える。
「ここの人たちを時間凍結した際、シュンは力を暴走させてしまい、その衝動で自分の名前以外、全ての記憶を失ってしまったのよ。今のあの子には、もうお姉さんの思い出はないわ。」
「記憶が、ない、だと・・・!?」
 健人は麻衣の言ったことを信じられなかった。
 白髪となったシュンは、Sブラッドにまで膨れ上がった力を暴走させ、島の時間を凍てつかせ、シュン自身も記憶を失った。
 そこにいる彼に、姉との絆を持ち合わせてはいなかった。
「私にも予想外なことだったわ。あの子の力がSブラッドにまで発展し、暴走を引き起こすなんて・・」
「だが、結果として姉さんのしたこの行為が、この島の時間を止めてしまったのは事実なんだ!」
 顔を背ける麻衣に、健人は憤慨する。
「実に、残念なことだな。」
 別方向から聞こえてきた声に、健人はいきり立って振り返った。かつて自分を危めた長髪の男、全が不敵な笑みを見せていた。
「やはり、お前たちの仕業だったのか、全!」
 即座に紅い剣を出現させて身構える健人に、全と、その背後にいた冬也と祐二が哄笑を上げる。
「そう慌てるなよ。オレたちはお前を殺すために来たんじゃない。第一、お前が生きてたなんて意外だと思ってたんだからよ。」
「何だと!?」
 苛立つ健人と悠然とした態度をとる全。2人の様子を、困惑を隠せないしずくと、些細なことのように見ているシュンが見つめる。
「健人!しずく!」
 そのとき、健人を追いかけてきた早人とあおいが、全たちの背後に姿を現した。全たちが一瞬後ろに視線を向けるが、気にせず話を続ける。
「オレたちがここにやってきたのは、ちゃんとした目的があってのことだ。それは、オレたちの悲願の鍵を握っている1人の少女を捕らえることだ。」
「少女?」
「そうだ。生まれながらに人知を超えた力を所持し、凍てついた人々の心を癒してきた存在。悪魔種族のディアス以外でこの強大な力を持っているのは、この世界で1人しかいない。」
 そう言って全が再び視線を背後に向ける。
「それは、ディアスのまさに天敵である神。それに仕える天使だ。」
「天使・・」
「この世界でたったひとり、神のもとを離れて生き続けている天使。それがお前だ、白鳥あおい!」
 全があおいを指差す。自分が天使と言われて戸惑うあおいが、呆然と全を見つめるあおい。
「私が、天使・・・?」
 困惑しながら呟くあおいの肩を早人が掴む。
「あおいちゃんが・・天使だって・・・」
「オレたちの計画には、あおいの持つ天使の力が必要不可欠なのだ。」
 動揺の呟きを漏らす早人に、冬也と祐二が不気味な笑みを浮かべながら振り返った。
「早人、あおいちゃんを連れて逃げろ!」
 早人に叫ぶ健人に、鋭い斬撃が飛び込んだ。全がブラッドの力を発動させて剣を作り、それを振りかざして健人を阻んだのである。
「今度こそお前にとどめを刺しておくぞ。」
 全が不敵な笑みを見せて剣を構える。健人も剣を構えて、しずくに視線を送る。彼女は変わり果てた弟に困惑しながら、健人たちのやり取りを見つめていた。
「しずく、早人たちと一緒に逃げろ!あいつらを守ってやれるのは、君しかいないんだ!」
 健人が必死に叫ぶが、しずくは未だに戸惑ったままでその場から動こうとしない。
「しずく!うくっ・・・」
 しずくの姿に焦る健人が、再び早人に振り向く。
「早人、あおい、君たちだけでも逃げるんだ!こいつらはオレが・・!」
 歯軋りする健人の言葉に、全たちが哄笑を上げる。
「オレたちを止めるってか!?笑わせんなよ!」
「てめえなんか、全だけで十分だぜ!なぁ、全!?」
 冬也、祐二が健人をあざける。早人があおいを連れてその場から逃げ出そうとしたところを、冬也たちが振り返る。
 そこに、健人が紅い剣を振りかざしてかまいたちを放ち、冬也たちの進行を阻んだ。
「てめえ!」
「今だ、早人!」
 健人の助力を得て早人は戸惑うあおいを引っ張ってその場から逃げようとする。
「早く!今のうちだ!あお・・い・・ちゃ・・・」
 あおいを引っ張る腕が急に重くなったことに不審を抱く早人。振り返ると彼は驚愕を覚えた。
 彼女は早人に引っ張られた体勢のまま、真っ白になって固まっていた。揺らいでいた瞳が消え、逃げ出そうとする動作のままその場に停止していた。
「あおいちゃん・・・ぐわっ!」
 動揺する早人に、強烈な衝撃波が襲う。硬直したあおいに手を伸ばそうとした彼が吹き飛ばされて仰向けに倒れる。
 早人が顔を上げると、あおいの前にしずくのそばにいたはずのシュンが立ちはだかっていた。
「お前か・・あおいちゃんにこんなことしたのは!」
 声を荒げる早人に、シュンは無表情で答える。
「この子の時間はオレが止めた。オレが力を解かない限り、誰もこの子を動かすことはできないよ。」
 あおいを束縛するシュンに、早人はポケットに入れていた銃を取り出して銃口を向ける。
「このヤロー・・ブラッド撃退用のこのKB−300でお前を始末して・・!」
「ダメ、早人!」
 引き金を引こうとした早人を呼び止めたのはしずくだった。彼女の悲痛の叫びに早人は発砲することを躊躇した。
「しずく・・どうして・・!?」
 苛立ちの広がる早人に、しずくは戸惑いながら答えた。
「その子は・・シュンなの・・私の弟なのよ!」
 しずくの叫んだ事実に早人は驚愕する。シュンと固められたあおいの前に、祐二が勝ち誇ったような哄笑を上げながら立ちはだかった。
「早人!あおいちゃん!」
 早人に駆け寄ろうとした健人の前に、全と冬也が立ちふさがる。
「貴様の相手はこのオレだ。全にはやらなきゃならねぇことがあるからよ。」
 剣を構える健人の前に、体を高揚感で震わせている冬也が進み出てきた。

つづく


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