作:幻影
イラスト:カモノハシ
世の中には、開けてはいけない扉がある。
もしも開けてしまったら、自分の命さえ危険に陥る事になるかもしれない・・・
天宮エリ、16歳。学校新聞同好会に所属し、学校内で噂されていると思われる生徒・先生への取材に奮闘していた。
ちなみに、同好会のメンバーは彼女1人である。
「はい、ありがとうございました。」
今日も、とある生徒への半ば強引な取材を終えたエリ。
「さてと、次は・・・」
雑誌記者である父の影響もあってか、他人のプライバシーによく首を突っ込む。おまけに楽天的な性格で、反省はしてもすぐに忘れてしまう。
エリはメモ帳をめくり、次にインタビューする相手を探す。
「よし!日比谷周助くん、今度こそ取材させてもらいますよ!」
次の取材相手を決めて、エリは教室を飛び出した。
日比谷周助、17歳。有名会社の社長の息子で、勉強・スポーツ共に優秀な成績を修めている。
にも関わらず、部活や生徒会の誘いを断り続けている。キャーキャー騒ぐ周助目当ての女子生徒も後を絶たないのだが、周助には恋愛には関心がなく、特にキスは断固として拒否していた。
当然エリの取材も断っているのだが、あきらめる事を知らないエリは周助に取材を求めては断られていた。
周助への取材は今回で5度目だった。
直接行っても取り合ってくれないので、周助の自宅までついていく事にした。とりあえず学校の荷物は自宅に置き、小物と取材道具だけを持って出ていった。
授業以外で唯一やっているアルバイトを終えた周助を確認して、エリも歩き出した。自慢(と本人は思っている)の尾行を続け、エリはついに周助の自宅へとたどり着いた。
周助の自宅は立派な豪邸だったが、大金持ちの家としてはそれほどではなかった。
事故で両親を亡くし、今はここで1人暮らしをしているはずだった。
「いくら小さいとは言っても、こんな家に1人では広すぎるんじゃないかなあ?」
そうつぶやいて、エリは断りもなく家の門をくぐっていった。
庭の木陰から家の中の様子を伺うエリ。小型の双眼鏡に周助の姿が映る。
周助は壁に何かしていた。その壁には11個のボタンがあり、0〜9とエンターキーのようだった。周助がボタンを叩くと、なんと壁が扉のように開いた。
周助はその扉に入っていった。そしてしばらく時間がたつと、周助が出てきてそのまま扉を閉めて立ち去った。
「ん〜ん、あの奥に秘密があるみたいね。」
周助が行った事を確認して、エリは近くの裏口から入った。そして、あの壁のボタンを押し始めた。
「記憶力はバツグンにいいんだよねえ。」
1人自慢しながらも、パスワードを正確に打っていく。エンターキーを押して、隠し扉を開けてしまう。
「さあって、拝見させてもらいますよ。」
扉の先は地下に通じる階段になっていていた。やがて階段を下りたエリ。
その先は広い空間になっていたようだが、暗くて周りが見えない。
明かりのスイッチを入れようとエリは手で壁を探ってみる。すると、壁とは違う何かに触る。
気になったエリはペンライトを取り出し、照らしてみる。
「な、何コレ・・?」
それは女性だった。一糸まとわぬ全裸の女性の石像だった。
それも1体だけではなかった。この空間には、何体もの石像で埋め尽くされていた。
「ちょっと・・日比谷くん、こんな趣味があったの・・・?」
この光景を見たエリは困惑していた。
すると突然、空間に明かりが灯る。はっとしてエリは後ろを振り返った。
その途端、エリは口付けをされた。いきなりの大きな出来事に、エリは心臓が破裂しそうな面持ちだった。
その前には周助がいた。キスを絶対にしなかった周助が、エリの唇にキスをしたのだ。
「ひ、日比谷くん・・?」
「君もしつこいねえ。ここまで入り込んでくるなんて。」
そこにいたのは、いつもの周助ではなかった。いつも無口で無表情。少なくてもこんな感情的な態度をとる人ではなかった。
「人の家に勝手に上がるなんて、礼儀がなってないねえ。お仕置きしないといけないねえ。」
「あっ!?」
そのとき、エリの両足が変色し、亀裂が生じた。そしてその変化に巻き込まれて靴が壊れ、制服、スカートがボロボロに破損する。
「何、コレ!?足が動かない!」
「教えてあげるよ。僕に唇を奪われた人の体は、徐々に石になっていくんだよ。」
「それじゃ、キスを断固としてしなかったのは・・」
「人前で石化させるわけにはいかないからねえ。常に気を遣って避けてきたんだよ。」
「まさか、ここにあるのは・・」
「そうだよ。みんな人間の女性だったんだ。僕はこの力で美しい女性を手に入れていく。これまでも、これからも!」
恐怖を隠せなくなるエリ。周助の豹変ぶりと変わりゆく自分の姿に、今起こっている現実を受け止められずにいた。
「これが、君の探していた真実だよ。」
周助が呆れ顔でエリを見る。
「他人のプライバシーにむやみに関わるものじゃないよ。下手をしたら、死ぬことだってあるんだからねえ。」
エリにかけられた石化が体に広がり、着ていた制服が全て剥がれ落ちた。
恐怖が限界に達したのか、石化による不自由が苦痛を与えているのか、エリの眼に涙が浮かんでいた。
「イヤ、お願い、助けて!このまま石像になんてなりたくない!誰にもこの事は言わないから、元に戻して!」
必死に訴えるエリを、周助は笑みを浮かべて見つめる。
「それはできないねえ。だって、君がバラさない保証なんてどこにもない。」
笑みを消さないまま、周助はなんと石化して固まったエリの胸を触れ始めた。
「あ、ああ・・・」
まだ完全に石化していないので、エリの感覚は失われていなかった。今まで感じたことのない気分に襲われた。
「君は、見てはいけないものを見たという罪を犯した。これは、そんな君への罰なんだよ。文句を言わずに受けることだねえ。」
「・・イヤ・・・イヤ・・・」
胸を撫でていた右手を、周助は今度はエリの左頬に当てる。
「君もよく見るとかわいいねえ。きれいな肌をしてるし、強引過ぎなければいい男の1人や2人、寄って来たかもねえ。」
「・・止めて・・止めてよ・・・」
顔を涙で濡らし、動揺を隠せずに混乱するエリ。しかし周助は、自然な振る舞いのような態度でエリに接していた。
しばらくして、周助はエリの頬に触れていた右手を引いた。その直後、エリの頬までもひび割れ始める。その反動で涙の雫が弾け、その流れをさえぎる。
「日比谷くん・・・ひび・・や・・・く・・ん・・・」
何かを訴えかける表情のまま、エリの唇が固まる。周助をみつめる瞳も、あふれる涙と石化の影響でぼやけてくる。
「美しい女性は全て僕が頂く。その姿を君も見続けてるといいよ。これからずっとねえ。」
変わりゆくエリを不敵な笑みで見続ける周助。
(・・・ダメだよ・・日比谷くん・・・・)
最後に瞳が石に変わり、エリの意識もそこで途切れた。眼に溜まっていた涙が、ヒビの入ったエリの頬を伝って流れ落ちた。
「こういうかわいい女の子も悪くないねえ。思わず惹かれてしまいそうだよ。」
そう言いながら、周助は一糸まとわぬエリの体を抱くように触れだす。完全な石像となったエリは、周助のこの行為に抵抗することも反論することもなかった。
「これで君はもう僕のものだよ。罪人である君は、僕に全てを差し出すこととなった。君の荷物は没収させてもらうよ。また綺麗な女性を手に入れてくるけど、君のことも忘れないよ。」
エリの取材道具の入ったバッグを手に持ち、周助は部屋を出て行った。
何かを言おうとするような表情で、エリは全裸でその場に佇んでいるままだった。
開けてはいけない扉を開けてしまったら、どんなことが自分に襲いかかるか分からない。
エリのように、誰かに全てを奪われることもあるかもしれない・・・