そして誰もいなくなった…

作:G5


そして誰もいなくなった

私はただの高校2年生。
普通に勉強して、普通に友達と買い物して、普通に恋して、そんな人生を送るはずだった…………

それはある日突然起こった。
その日私はいつものように学校帰りに寄り道をして、アーケードを歩いていた。
その日は少し憂鬱で、ブラブラとアーケードを歩きながらなにか面白いものはないかと見て回っていた。
ふとアーケードから外れた路地裏にきらりと光るものを見つけた。
それは水晶のように透明な星型のペンダントだった。
警察に届けようかと思ったが、その日はそんな気分にはなれず、そのまま家に帰った。
思えばこの時から異変はあったのかもしれない。
通り過ぎた猫が動きを止めてその場から動かなかった。
その時の私にはどうでもいいことだったが、後から考えると不自然だったような気がする。
暗がりでよく見えなかったが、猫は灰色だった。
たしかその猫は明るい茶色だった。
それに気付いていれば少しは違う結果を出せたかもしれない。

家に帰った私は疲れてそのまま部屋に直行した。
途中妹がすれ違いざまに何か言っていたようだが無視した。
我が家には母親がいない。私が小さいころに妹を産んで死んでしまったらしい。
父親は海外出張でしばらく前から留守にしていて、今は妹と二人暮らし。
私は制服も脱がずにベッドに倒れた。
妹の声は聞こえない、いつもなら無視するといつまでもガミガミ言ってくるのに……
疲れている私はいつしかまどろみの中に落ちていた。

どのくらい時間がたっただろう……
外はもう真っ暗で時計を見ると夜の8時を過ぎていた。
お腹が減った私は台所に行った。
家の中は真っ暗で物音ひとつしない。
今日は妹の食事当番のはずだから台所でなにか作っているはずだ。
だが、そんな物音はしない、あるのは暗く静まり返った我が家だけ。
妹を叱ろうと階段を降りる私は台所に着く前に妹を見つけた。
階段のすぐ横で2階を見上げながら、動かない。
私はふざけてるんだろうと妹の頭にデコピンをした。
しかし、返って来たのは痛がる妹の顔ではなく、硬いその表面を弾いて赤くなった私の指だった。
異変に気付いた私は急いで家の電気をつけた。
電気を点けて私はその異常さに私は目を疑った。
妹は石になっていた。
中学の制服の上からエプロンをつけて、私が帰ってきたその時の服装のままで、顔は私に怒鳴ったその時のままだ。階段の淵に片手をかけて2階を覗きながら怒っている妹は生きているようだった。
だが、妹は動かない。
私はこうなった原因を探したが、冷静さを欠いた頭では空回りするばかりだった。
ひとまず妹をおいて、外に出てみた私はさらに驚いた。
私が今日帰ってきた方の道にはズラ〜とたくさんの石像が並んでいた。
学校帰りの中学生や母と一緒に買い物袋をさげた親子、他野郎どもが並んでいる。
だが、それにも驚いたが、それ以前に通行人がそれに気付いていない。
いや、気付いてはいるのだろう、実際石像を避けて歩いているのだから。
私は石像に近づく。
やはり妹のように全く動かない、唖然とする私の横を自転車に乗った女子高生が通り過ぎる。
私なんて目にはいっていないように過ぎ去る彼女の自転車をこぐ音は、すぐに消えた。
ガシャンッ
大きな音がしたので後ろを振り向くと、今通り過ぎたばかりの少女が石になっていた。
自転車にまたがったまま石になった彼女はバランスが取れなくなってそのまま転んでしまったようだ。
今になって気付く。
この異常の中心にいるのは私ではないか…………
私の横を通り過ぎた少女は今石になった。
私が通り過ぎた妹は石になった。
私は怖くなって、そのまま街へ走り出していた。


どのくらい走って、どのくらい時間がたったのだろうか…………
すでに太陽はてっぺんを超えて傾きつつある。
肩で息をしながら私はいつのまにか学校に来ていた。
どうやって来たのかは分からない。
ただここにくれば安心出来ると思った。
すれ違う人がみんな石になる。そんな恐怖が私を蝕んだ。
今日は土曜で学校は休み、ここならあまり人とすれ違わなくて済む。
そう思った。
だが私はやはり冷静でなかったと思う。
休みだろうと部活をしに何百という生徒がここに集まる。
それに気付いた時には学校の生徒を半分ほど石にした後だった。
私はまた怖くなって走り出した。
どうして私はこんなことになってしまったんだろう。
どうしてみんな石になってしまうんだろう。
私がおかしくなったんだろうか。
それとも世界がおかしくなったんだろうか…………
どうしてこんなに苦しまわなくちゃいけないの……?

…………そうだ……みんな石になればいいんだ…………
……そうすれば……苦しまなくていいじゃないか………………

少女の中の何かが…………壊れた……


それから少女は歩いた、ひたすら歩いた。街中をくまなく歩いた。
買い物帰りの主婦も、レジを打つバイトの学生も、走りまわっている小学生も、公園で遊んでいた子供たちも、みんな石になった。
少女の他に動くものは居なかった。
少女はやっと安息を手に入れた。
石に恐怖から解放された彼女は道の真ん中に座り込み、ゆっくり目をつぶった。
パキパキと乾いた音が静かな街に響く。
少女の足元から灰色の波が押し寄せる。
だが少女にはそんなことは関係なかった。
ただ少女は休みたかった。
休めるのなら石になるのも悪くわない。
パキッ
最後に閉じた瞳が永遠に開かなくなり……そして誰もいなくなった…………


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