カタ迷路 第3章 「雫」

作:G5


玲が蝋人形にされてから、数ヶ月がたった。
また一人この迷宮に迷い込んだ少女が一人・・・

「あっ、あった」
少女は上へと続く階段を見つけたようだった。
「なんなんだろう、この迷路。なんか石像とか妙にリアルだし、落とし穴は深いし・・・」
少女の名は崎本 雫(さきもと しずく)。
肩にかかるくらいの薄い茶髪に、左サイドで結んだサイドポニーが特徴的な中学2年生である。
家で寝ていたところをいきなり連れて来られたのだが、天然なせいかあまりこの状況に危機感を持っていないようで、
犠牲者の石像にもたいして疑問を抱かなかった。


「さっさとここを出て、買い物にでも行きたいな〜」
そう思いながら階段を登り、2階までやって来た。
「わぁ〜すごいな〜これ。」
そこには五月の石像や他にも数体の石像があった。
「オブジェかな?すごく細かいところまで作りこんでいてきれい。こんなところじゃなくて美術館にでも置けばいいのに、もったいない・・・」
雫は五月のからだを触ったり、しばらく観賞したあと、先へ進んだ。


2階で彼女は特にモンスターや罠を踏むこともなく、順調に進んでいた。
「あれ?なんだろうあれは・・・?」
雫が見つけたのは宝箱だった。
なんかRPGみたいだなと思いながらも、宝箱への興味もあるので、雫は迷う事なく、宝箱を開けた。
「・・・・何・・・これ?」
そこに入っていたのは破れた紙だった。
普通のノートサイズの紙を3等分にした真ん中の部分で、特に何も書かれていなかったが、せっかく見つけたものなのて持っておくことにしよう。
紙をポケットにしまい、雫は先を進むことにした。
2階の階段前にいたはずのミノタウロスもどこかに消えており、雫が襲われることはなかった。
「あの放送の人、なんか迷路を抜けるのは大変だみたいなこといってたけど、対したことないみたいね。」
余裕な雰囲気を漂わせて階段を登る。


3階はまっすぐな道が続いていて、特に危険なところはなさそうだ。
そう思い足を進めようとすると、
「待ちなさい」
ピタッ
と私は足を止めて声のした方を向いた。
そこには背中まで伸びた赤い髪がきれいな、背の高い女性が壁に寄り掛かってこちらを見ていた。
「そこを無警戒で進むのは不用心じゃないかしら?」
女性は妖しい雰囲気をかもしながら話しかけてきた。
「どういう意味ですか?」
私は思ったままに質問を投げかけた。
別に一本道なのだから進むしかないだろうに・・・
「まあ見てなさい、すぐに分かるから・・・」
「???」
よくわからないまま女性のいう通り待つことにする。

〜5分後〜

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
急に地鳴りがしたと思ったら目の前にあったはずの通路が動き始めた。
通路は回転するように動き、完全に通路が見えなくなると
反対側から別の通路が現れた。
ぞの通路には数体の蝋人形が無造作に置かれていた。
「これって・・・」
私は驚愕した。さっきまで何もなかったはずの通路が一瞬で蝋人形の群像が現れたからだ。
「これがこの階のトラップ、なにもない通路に見せかけて罠を踏ませて犠牲者を増やし、
また何事もなかったかのように罠を張る。恐ろしいものさ・・・」
「犠牲・・者・・・?」
これが犠牲者・・・?えっ・・・つまりこれは・・人間???」
「なんだ?知らなかったのかい?いままで犠牲者はたくさん見てきただろうに・・・」
そんな・・・いままでの石像が全部犠牲者・・・じゃあもしかして私もあんな風に・・・
「まあ落ち着きな、知らなかったなら無理もないが、これが今の私たちの現実だ。前を向きな。」
そういって女性は私を励ました。
少し動揺したが、彼女のおかげでパニックにならずにすんだ。
彼女は相澤 遥(あいざわ はるか)といった。
遥さんは大学4年で帰り道に連れ去られたそうだ。
「それでどうしますか?このままじゃ先に進めませんよ?」
「ああそれなら大丈夫。考えがあるから。」

〜数十分後〜

「そろそろね・・・来た!」
遥さんがそういうとまたあの地鳴りが来た。
今度の通路は前と違いどこか整った、そう例えるならお城の地下のような雰囲気だった。
「ここなら渡っても大丈夫よ。」
彼女はそういうと通路を歩き始めた。
「あっ、待ってください」
私は遥さんのあとをついていった。
不思議なことにこの通路は罠とかもなく、安全に抜けることができた。
「どうしてここが安全だってわかったんですか?」
「うん?ちょっとね・・」
まあとりあえず安全に抜けられるのだから遥さんには感謝している。
彼女についていけばなんとかなるかもしれない。
そう思いながら私たちは4階への階段を登る。



4階は1階や2階と同じようにまた迷宮のような作りだった。
「罠に注意して進みましょう。」
「はい」
私たちは罠やモンスターに気を配りながら迷路を進んだ。
すると目の前にまた宝箱があった。
「あ、見てください遥さん。宝箱がありますよ、開けてみますね」
「・・・」
なかを開けるとそこにはまた破れた紙が入っていた。
「なんなんでしょうかこれ?私ももう一枚もっているんですけど・・・」
そういいながら遥さんの方を向こうとしたとき・・・
ドンッ
にぶい音がした。
私は何が起きたのか分からないまま遥さんをみた。
私は目を疑った。
遥さんはこちらに銃を向けて立っている。
「えっ・・・どうしたんですか・・・遥さん?」
「まさかあなたが持っていたなんてね・・・クスクスクス・・・ラッキーだわ。もう一枚も見つけてくれるんだから」
「どうしたんですか・・・遥さん・・・その銃は?」
よく状況を飲み込めないまま焦る雫。
「この銃は迷宮で見つけたの。本来はモンスター用みたいだけど人にも使えるのよ?
 撃たれたものをガラスのように透き通らせることができるの・・・
 あなたを撃ったのは偶然、あなたが私の探していたものをあなたが見つけて
 あなたが持っていた・・・それだけよ」
「えっガラス・・・?」
意味が理解できずとりあえず立とうと足に力を入れるが力が入らない。
足を見ると、太ももの辺りまでが透明に透き通っている。
「いや、なにこれ・・・助けて・・助けて遥さん!」
「ごめんね雫ちゃん。もう私に止めることはできないの・・・ごめんね」
そういいながら遥さんは私から2枚の紙を奪っていった。
「そうそう、最後に教えてあげる。この紙は全部で3枚あってね、合わせると地図になるの。今いる階の地図と罠の位置が分かるのよ。」
そうこうしてる間にガラス化はもう胸にまで迫ってきていた。
「あ・・・あ、くる・し・・い・・・」
肺が固まってうまく呼吸ができない。
遥さんは私にウィンクをするとさっさと歩いて行く。
ガラス化が顔へと進み口が透き通って声が出せず、
鼻が、固まり髪の毛が透き通り、ガラスが目を覆っていく。
意識が暗闇に落ちる前に雫が最後に見たのは
私を振り返ることもなく歩いていく遥の背中だった。
ピキッ
乾いた音がしたあとにはしゃがんだ格好で後ろに振り返る姿のまま動かなくなった雫がいた。
そこにあるのは足の先から髪の毛の先まで透き通った美しいガラスの像だった。
また迷宮に新たなオブジェが造られた。



五月が描き、玲が失くしたあの地図は迷宮の魔力に当てられ、
魔法の地図へと変化していた。
そしてこの地図が迷宮脱出のカギとなるのだった・・・



崎本 雫・・・記録:4階通路
          遥に裏切られてガラス化

つづく


戻る