アンデッドウィザード

作:永遠の憂鬱


金属をたたく音がする。
そこはどうやら何かの工房のようで、一人のボロボロの、ローブらしきものを着た男がいる。
「・・・またこんなわけのわからない付加効力か。やはり相性があるな」
彼はそう言うと、うっていた剣を横に置いた。
剣はどうやら普通の鉄で出来ているようだが、誰が見ても普通の剣ではないことがわかる。
剣が、この熱い工房内であるにもかかわらず、露で濡れているのだ。
そして、彼が顔をあげるとそれは・・・その顔は、頭蓋骨に皮だけを貼り付けたようだった。
彼、『エルガー』は、『賢者』と呼ばれる不死の者である。世界観については後でまとめて書くのでそっちを見てもらいたい。
「普通逆なんじゃ・・・ってか、本当に書くんだろうな?」
あ、こら、こっちに話しかけるんじゃない。とりあえず、彼のタイプは『リッチ』と呼ばれる。他にも不死にはいろいろあるが、やはり後述。
そして、彼がいるところは、あるダンジョンの最奥である。

「さて、『マテリアル』を仕入れてくるか・・・」
誰とも無くつぶやき、『製品』を持っていく。
彼が専門的に行っているのは『魔力付加』と呼ばれる、何かに魔力を付加するものである。用は魔法剣だ。
だが、属性の魔力のかけ方で、かなり効果は左右される。
彼はそれによってできた『製品』をふもとの村で『マテリアル』と交換する。
共存共栄である。基本的にフェアトレードでことは運ばれる。

・・・なのだが。
彼をよく思っていないのが『都市』の教会の者たちである。
彼らに取って行使していい魔法は神聖魔術のみであり、そのため暗黒魔術はもとより、精霊魔術すら『都市』では追放されている。術者は火あぶり。とんでもない横暴である。
そして、彼も例外ではない。はじめはただの洞穴に作った工房だったが、あんまり刺客が来るので、ダンジョンに作り変え、トラップを作り、モンスターを雇っている。
また、『製品』で入る利益では赤字である。彼の悩みの種だった。
また、その『製品』をダンジョンに数本置けば、それを持つために薬を捨て、結果として途中で退散せざるを得なくする事も出来たが、今度は
「あのダンジョンにはいい武具がある」と噂になり、冒険者が増えてしまうと言うこともあった。

「はぁ・・・引っ越そうかなぁ・・・」
とりあえず、『都市』から離れればしばらくは大丈夫だろう。だが、この姿である。『製品』をその先で売れるかどうか。
「はぁ・・・」
ダンジョン内にいる冒険者達の様子を『ゴーストアイズ』で見ながら、彼はまたため息をついた。
そして立ち上がり、仕事を・・・

ガタン

「そこまでよ、この外道」
する暇も無く乱暴に扉が蹴破られた。ああまた出費か・・・
「無力な村の人々から略奪を行うなんて、許せない」
リーダーらしき戦士風の女性が言う。おいおい、商売はしたが、略奪をした記憶はまったくないぞ。
「教会でしらべはついてるのよ?さぁ観念しなさい」
やっぱり教会の使いか。しかし・・・
パーティーは全員女性で構成されていた。よくここまで来れたものだ。
戦士が1人、盗賊が2人、モンクが1人、クレリックが3人。
そして身構える7人。だが・・・

エルガーは別の方の扉へ向かい、走り出した。
「な、逃げるな!」
彼女たちが叫ぶ。実際逃げれると思ってはいない。ここで暴れられたら商売道具に被害が及ぶから場所を移すだけである。

奥の部屋、ひらけた場所に出る。
「行き止まりよ。観念しなさい」
こんなこと言われては、つい悪役口調になる。
「さぁて、そんな口がいつまでたたけるかな?」
「なに?」
と、横から斬りかかられた。盗賊だ。気配を消して間合いに入っていたのだ。
彼女たちはにやりと笑う。斬りかかった2人を除いて。
「無駄だ。そんなちっぽけな得物では、な」
そう言って後ろに下がる。盗賊2人もPTに戻った。
「そう簡単にいかないか・・・行くよ、みんな」
女戦士の掛け声で、クレリックが聖歌を歌いはじめ、他が突撃してくる。
だが、骨、皮、つなぎとめるための若干の筋で出来ている自分には、剣も素手も同じだった。
だが、彼は女戦士の剣が『エンチャント』されたものだと、あばらを左半分持っていかれて気がついた。
「ほう・・・」
対アンデッドか、あるいは破魔かが付加されているらしい。

だが・・・
彼はおもむろに地面に手を当てた。
【大地の魔手】
とたんに、地面から岩石で出来た触手が伸び、クレリックの首を絞める。
「な・・・詠唱もなしに・・・」
助けに入るか敵に攻撃を行うか、その判断で一瞬動きが止まった。その隙に今度は2人固まってる盗賊に狙いを定める。
【慈悲なき停止】
盗賊2人が気が付いた時には、2人の周りに半球状に、水の膜がはられた。そしてそこは水で満たされて行き、呆然とする2人を閉じ込め、そして完全に満たされたときにそれは凍りついた。
「許さない・・・」
そう言うとほとんど同時に、うしろの方では聖水を振りまいて魔力を中和し、脱出したようだ。
だが、この間首を絞められ続けていたのだ。急に声が出るわけがない。また、前衛からも一呼吸分の距離がある。
それだけあれば、充分だった。また地に手をつき、
【食らう結晶】
今度はクレリックの足に石英の結晶が張り付く。
「な、なにこれ・・・あ、ああああああ!!」
結晶が人間を食っている。そう表現するのがいいだろう。露出の少ない法衣が下から上へと結晶にしていく。
「いや、いやあああああああぁぁ!!」
3人ともパニック状態で集中できず、『解呪』を行えない。
そして、そのままクリスタルの彫像になってしまった。
「ちくしょう!!」
2人が怒りに身を任せて突進してくる。大降りな攻撃を避け、モンクの後ろに回りこむと、直接彼女に魔術をかける。
【意思なき下僕】
電流が流れたかのように一瞬痙攣をしたのち、ただ立っているだけになった。
そして、エルガーが手を離すと指から赤い糸のようなものが彼女から伸びていた。それが1本1本現れるたびに、彼女の肌は艶をなくし、無機質なものに変わっていく。
完全に人形に変わった後、1人残った女戦士は恐怖で後ずさる。
「終わりだ」
そう言って、人形にした彼女を操り、戦士を取り押さえさせる。かなり動きやすさを重視した薄い法衣なので、関節にほとんど干渉しない。
「ね、ねぇ、お願い、目を覚まして、ねぇ・・・」
「無駄だ。この糸で操られるほかにはもう動く術すらない状態だ」
そう言うと、彼女の頭に手をかけ、魔法を発動する。
「あ、あ、やめ、やめて・・・」
【岩石の誘惑】
「あ・・・」
そう呟くと、彼女の目はうつろになり、ゆっくりと、まるでこの洞窟の岩に吸い込まれるように、肉体は石になっていく。
そして、1体の戦装束を着た石像が完成した。

「ふぅ・・・さすがに疲れたな・・・だが、これで仕上げだ」
巨大な魔方陣を描き、7人(2人と5体?)をその上に乗せると詠唱を始める。
【バシルーr】(ゴスッ
やめろ、怒られるから。
「わがままだな・・・だいたい書いてるのはお前だろうにな。さて・・・」
【地の精霊達よ 陣にありし物を彼の地に届けよ 巨人の手】
巨大な岩の手が魔方陣の下から現れ、7人を手に治める。
「それらは教会に直接送ってくれ。頼んだぞ」
そう言うと、その手は地中へと彼女たちとともに沈んで行った。
「さて・・・このプレゼントで少しはおとなしくなるといいのだが・・・」

しかし、これにより安易にクエストを受ける者はいなくなったが、上級者向けクエストになり、強い冒険者に狙われるようになってしまうのだった。

用語集
賢者
 魔道を極め、魔力を磨くうちに、生身の人間の身体での限界に達したため、何かしらの方法で不死となった者のこと。

リッチ
 アンデッドの一種。主人公がこれ。ゾンビと違うのは、魂を抜き、肉体を殺した後、乾燥させ、それからもう一度入ると言うこと。
 ゾンビとは違い腐っておらず、また魔力を身体全体に張り巡らせるため、切られても回復呪文で回復できる。
 これは不死化の1つで、他に自身の肉体を別の物質に変える『トランスフォーム』 他のものに魂を憑依させる『パラサイト』 魂だけの存在になる『ゴースト』 等があるが、他の賢者を出す予定は無いので多くは語らない(ぉぃ

魔力付加、エンチャント
 武具に特別な能力を鍛錬とともに付加させること。たとえば火属性を付加させれば、炎を噴き出す剣になるが、魔力の調整がおかしいと、あったかいだけの剣になる。実際には、鍛錬と魔力の注送を同時に行うため、かなりの技術が必要となる。
 エンチャントと魔力付加はにているように思うが、こちらは神聖属性の場合で、しかも全然別物である。
 こちらは何かを打ち消す、消滅させる能力と、持ち手を強化する能力を持つことが多い。また、エンチャントの場合は「授かる」と言った感じで、印を彫ったりすることが多い。
 そのため鍛錬のできない衣、木製の物などでもエンチャントは出来る。

マテリアル
 この世界の鉱石材料全般。鉱石の段階ですでに合金となっていたり、複数の金属の混じった鉱石だったりするので、こう呼ぶ。精製してようやく鉄など金属名で呼ぶ。

ゴーストアイズ
 魔法で作った目で、丸い球体。360度全方位を見渡せる。瞳などは無いが、形が丸いのでこう呼んでいる。教会が魔術を禁止したため、ほとんど使えるものはいないが、実は初歩の魔法。

教会・・・神信仰の者たちによって作られた組織。神聖魔術(この場合の魔は『強大な』という意味)以外の魔法を迫害している。

詠唱なし
 これは単に、詠唱を行わなくてもエレメントを貯めることが出来るため。唱えないといけないと思っている者も多いが、実際はこれは魔力をある程度制御するためで、むしろしない方が同じ魔法でも威力が高かったりする。ただし、うまくコントロールできないと、自分の精魂まで使い果たすほどになってしまうので注意。

聖歌
 これが、他の魔法との最大の違いと言える神聖魔術の特徴。
 神聖魔術の場合、歌としてリズムを取り、正しく歌っていくことによって恩恵を得られる。
 他の魔法は基本的に1つ1つ唱えるたびに区切りを作ってしまうが、神聖魔法は歌を自然に別の歌にスライドさせていくことで、まったく隙を作らずに効果を変えることが出来る。
 また、歌は思い描く者に届くように歌うため、補助は仲間にのみ与えられ、浄化は迷える者にのみ、攻撃は敵にのみ行う。

クエスト
 何かの組織、団体、または個人によって依頼される『仕事』のこと。〜〜を倒す、〜〜を拾ってくるなどある。
 エルガーは前者の依頼に教会からされて、命?を狙われた。


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