ビホルド

作:永遠の憂鬱


彼女、大島亜美は廊下を走って逃げていた。
身長は170cmほど、スレンダーな体つきの長い足で駆け抜けていく。
黒く背中まで伸ばしたポニーテール、胸が小さいのが悩み。顔つきはやや切れ目の気の強そうな美人だが、その顔は今は恐怖の表情をしていた。

ここはとある大学院。
『美術の写真モデル募集 1回 3万円 着衣OK』という割のいいバイトの募集に惹かれ、彼女はこの大学院に訪れていたのだ。
しかし、この学院の生徒である、もう1人との女性の撮影(こちらはヌードらしい)とバッティングしてしまったため、別室で待機していたのだ。
しかし、様子が変だった。使うカメラが普通のデジカメのようで、やや古ぼけた物だったのだ。あまりいい画質のものではなさそうだった。
気になってそっとドアを開け、撮影を行っている美術室を覗きこんだ。
すると・・・
そこにいたのは、デジカメを持った美術顧問(と名乗った)の男と、先に撮影を行っていた女性の『石像』だった。
なぜ『石像』になってしまっていたのか、それは分からないが、確かにその『女性』の『石像』であった。
「きゃああああ」
思わずそう叫んでしまい、逃げだした。そして現在に至る。

(追いかけてくる)
後ろからもう1つ、走っている足音が聞こえる。
(近づいているようには聞こえない、このまま人のいる所まで逃げれれば・・・)

パシャッ

そう思ったところで、カメラのシャッター音。
と同時に急に足が動かなくなり、転んでしまう。
足を見ると、膝までが『石』になってしまっていた。
「いやあああ、誰か助けてぇ!!」
その叫びを聞いて、数人が駆けつけてきたが、構わず男はカメラを構える。

パシャッ

フラッシュがたかれ、次の瞬間には・・・
彼女、大島亜美は衣服を残して『石像』になっていた。

「こ、これは一体どういうことだ」

駆け付けた人々が、目の前でおこった事態を理解できず、男に詰め寄る。
その間、男はカメラから手を離していたが・・・カメラは勝手に動き出していた。
『アルバムモード』であろう、先ほど撮影した大島亜美の画像が表示された。
しかし、その画像は明らかに違う光景を映し出していた。
まず足が石像ではなかった。先に足を石像にしていたので、足は石像になった画像でなくてはいけないのだが、全身が生身であった。
さらに、画像の彼女は衣服を着ておらず、全裸なのだ。

「何がおこったのか説明してくれないかね?」

そして彼女、大島亜美は・・・
(こ、ここは・・・いや、何で・・・体が動かない)
彼女はその『画像』の中にいた。『カメラの中』に、今彼女はいるのだ。

―――カメラには悪魔が取り憑いていた。その名を『ビホルド』。その一つ目に撮影された人間を画像の中に取り込み、そしてその取りこんだ人間を食らう悪魔―――

「信じられんが、目の前で人が石になるなど・・・」

画像の中の彼女にも変化が起こる。
現実と同じように、指先から石になっていく。
と同時に、奇妙な感覚が彼女を襲う。
(気持ちいい・・・)
それは明らかな快楽。それも、性的なものだった。
指先から腕へと侵食していく。それに伴い快楽も増幅していく。自分がまた石になっていることなど、まったく気にも留めていなかった。
そして、足の付け根である秘部が侵食された。
途端に圧倒的な快感が彼女を襲う。
(いや、気持ちいひ、ダメ、イク、イッひゃうぅぅぅ!!)
まったく動くことができず、、石になっていく彼女だったが、その中では激しい快楽で絶頂へと誘われていた。
しかし、石化と快楽は容赦しない。
(ダメ、とまらなひ、まらイク、イッイクぅぅぅ!!)
止まらぬ快楽による、強制的な連続絶頂。
悩みの種であった小さな2つの乳房が石となり、首からまですべてが石に覆われたとき、彼女はもう正気を保っていなかった。
浸食が顔まで及ぶ。頭のてっぺんまで石になった時、最後の絶頂とともに、『画像の中の彼女』も消滅した。

「いや、そうは言われても・・・」

ビホルドは最後の仕上げにかかる。完全に石と化した彼女の画像を・・・削除した。
その瞬間、事態は変わる。

「これは、『石像』ですよ?」
「何を言ってる、これは石像で・・・あれ、『石像』だな」
「あれ、なんで『石像』を話をしていたんだ?」
人々はみな、彼女が『彼女』であったことなど忘れてしまったような態度を取る。
・・・いや、本当に忘れてしまったのだ。
完全に存在を取りこまれた彼女は、その存在を食われ、唯一の存在の証拠を残す『画像』を削除され・・・
本当に、存在しなかったかのように、『消去』されてしまったのだ。
残ったのは、彼女の姿をうつした『ただの石像』のみ。

「まぁいい、なぜこんなところに『君の石像』が?」
「いえ、手元が狂い・・・落としてしまったもので」
「そんなに雑に扱うな、『君のもの』だろう? 見たところ良い石像のようだ」

いや、『男の物である彼女の石像』だ。
ビホルドに奪われた女性、その女性はビホルドの所有者である男に移る。

「軽いもんだな、本物の女性とそう変わりはない」

無論、この世の生物である以上、男もこの石像が『人間の女性であった』ことなど覚えておらず、『自分の所有物である石像』としか認識できていないのだが。

運んでいる最中、まだビホルドは動いていた。
大島亜美を撮影する前に石像にして、食らう前だった為に残していた・・・大学院の生徒、水野凛だ。
やや茶色がかったショートカットの髪型。身長は150cmほどで、顔も童顔なので中学生のようだが、胸だけはDカップぐらいある。
キチンと椅子に座ったその姿を、ビホルドは石に変えていく・・・

男が美術室につくころには、完全に石になっており、その画像をビホルドは消去した。
『存在』が『消滅』した彼女を、男は二度と思いだすことはないだろう。
自分に想いを寄せていた女生徒がいたことを・・・


戻る