魔の音階

作:牧師


 初夏の夕暮れ、日はまだ十分に高い時間だったが、ある一角は奇妙な事に薄紫色の薄い靄がかかり薄暗くなっていた。
薄暗くなっている範囲は半径十メートル程の小さな円だったが、その中ではこの世の元と思えない淫劇が行なわれていた。
「ん……っ………、ふわぁっ……」
「きもちいぃ………、わたし………こんなに感じてる……………」
 高校生位の年齢の少女が、豊かに育った形の良い胸を自らの手でゆっくりと揉み、右の乳房を持ち上げ、硬くなった乳首に吸い付いていた。
その隣ではまだあどけなさの残る幼い少女が、ちいさな手で甘酸っぱい香りのする蜜を滴らせる小さな蕾に、ゆっくりと指を這わしていた。
 淫靡な宴を静かに見守っていたのは全長五十センチ程の大きな鈴虫と、自らを慰める淫靡な姿で石像に変わった、数人の少女達だった。
ここにある自らを慰める姿の淫靡な石像は、元は全て人間である。少女達は、この大きな鈴虫の力により生きたまま石像に変えられていた。

 人を襲い石像に変える鈴虫の正体は淫獣だった。
 淫獣とは、淫は陰に通じ、陰は闇と同意、この世ならざる闇より産み落とされ生態は殆どが謎に包まれる獣。
様々な生き物の姿を模し、その殆どが、人間など精神的に進化した生物を特殊な能力で快楽に誘い精気を奪う。
 そして精気を吸われた対象は石等に(結果的に)変わってしまう。
淫獣のタイプにもよるが、精気を吸われて石などに変えられても、その対象は死ぬ事は無く、
その多くは石等に変わった身体で、死ぬ事さえ許されず、強制的に永遠に快楽を味わう運命が待っている。

 鈴虫型淫獣が作り出した結界に、新たに二十歳前半位の年齢の女性が誘い込まれた。
女性の名は赤城沙紀。四年前に結婚した主婦で、三歳と一歳になる女の子の母親でもあった。
 沙紀は買い物に行く途中なのか、手には大きなカバンを提げていた。
「これ…………どうなってるの?」
 沙紀は目の前で繰り広げられる淫靡な宴と、淫靡な姿の石像を困惑した表情で見回していた。
 ある少女は胸元まで服を手繰りあげ、その下から右手を潜り込ましまだ小さな膨らみを押し潰すように激しく揉み、
まだ毛の生えてない、ぷっくらとした丘の下にある蕾に、二本の小さな指を根元まで突っ込み、
足元で小さな水溜りとなった甘酸っぱい匂いのする銀色の愛液と、一筋の赤い破瓜の血を流していた。
「ああっ!!くるっ……、な……なにかっ……きちゃうっ!!や…やあぁぁぁぁぁぁっ」
 突然、沙紀の目の前でその少女が嬌声をあげた。
おそらく生まれて初めてと思われる絶頂を迎えた少女は、はじめて迎えた絶頂の姿のまま、身体を固い灰色の石へと変えていく。
パキッパキッという乾いた音と共に、膨らみかけた少女の胸も、秘穴も硬く冷たい石に変わっていた。

 その時、鈴虫型の淫獣が沙紀に向き直り、背中の羽を擦らせて、リリリリリリリィィィンと鈴の様な音を鳴らした。
「ひっ………人が……石にかわっ……、い……いやぁ……ああああぁっっっ!!」
「また……鈴の音が……、やぁぁぁっ!!もっとカンジ……」
「ダ……ダメ……これ以上…。イ……イクッ!!いっちゃうっ!!」
 鈴虫型淫獣から生じた鈴の音を聞くと、たちまちに沙紀の体は激しく疼き、周りでその音を聞いた少女達は絶頂に達して身体を激しく震わせ、
まるで壊れた蛇口のように愛液を噴出しながら、次々に灰色の石像に変わっていった。
「あああぁっ……、き……きもちぃぃっ……、ダ…ダメ……、いっちゃうと……私も…石に…」
 沙紀は歯を食い縛り、どんなに拒んでも齎される甘美な快楽と、幾度と無く襲い来る激しい疼きに耐えていた。
脳裏に浮かんだ夫と可愛い二人の娘の姿が、沙紀を快楽へ堕ちるのを留まらせていた。
 しかし、いつしか無意識のうちに左手がスカートの中に滑り込み、中指でスリットを優しく撫で、ショーツの上から軽く陰毛を掴んでいた。
沙紀の身体はそれに呼応するように、秘穴からトロトロと愛液を滴らし、やがて愛液でべとべとになったショーツを下ろし、
二人の娘を産んだにも拘らず形の良い膣穴に三本も指を突っ込み、グチュグチュと淫靡な音を立てて更なる快楽を求めた。
 既に石像に変わった少女達に比べ、沙紀は十分に快楽の誘惑に耐えていたが、男性経験があったが為に、齎される快楽に耐える事が出来なかった。
「ダメ……、耐え……なくっ……ちゃ………、でも………指が……とまらな……いっ……」
 沙紀が揉みしだく豊かな胸からは母乳が染み出し、沙紀の右手と絡まり、ニチュニチュといやらしい音を奏でていた。
やがて沙紀は上着を肌蹴させると柔らかい胸をブラから取り出し、二人の娘を育てあげた母乳を、自らの口で啜り始めた。
「んっ……ミルク……おいひぃっ……、知世……、えりかっ…………。ママ……もう……がまん……できな……っ…いぃぃっ!!」
 一瞬、二人の娘の姿が浮かんだが、激しい快楽の濁流が意識の外へと流し去り、沙紀を今まで味わった事が無い程の絶頂の極みに押上げた。
絶頂の極みに達した沙紀は、激しい音を立てて愛液と母乳を撒き散らし、柔らかかった身体を、固く冷たい灰色の石へと変えていった。
 数秒後、沙紀は母親の面影の見えない淫靡な表情で石像に変わっていた。
沙紀が完全に石化した後、鈴虫型の淫獣は地面にズブズブと沈み込む様に消え去った。

 結界が消えた後、その場所には淫靡な姿で石像に変えられた女性達が、無数に立ち並んでいた。
付近の住人から通報を受けた警察が即座に現場を封鎖し、続いて連絡を受けた祓い衆の巫女が現場を検証し、石像に変えられた女性達の身元も確認された。

 祓い衆……その殆どは女性で、厳しい修行を耐え抜いた巫女達が、遥か古よりこの国を淫獣から守り続けてきた。
淫獣などが起こした事件の知らせを受けると、近くの神社から、祓い衆の巫女達が駆けつけるように指示がされていた。

「どう?助けられそう?」
 祓い衆の巫女、鳶木留美がもう一人の巫女、椿桃香に小さな声で尋ねた。
「残念ですがダメですね……。彼女達の心の声を聞いてみましたが、今回も魂まで快楽で侵し尽くされてます。石化が解けても……」
 桃香は首を小さく振りながら、その事を伝えた。
ごく稀に魂が無事な場合がある為、石像に変えられた沙紀達の心を覗いたが、沙紀達は石に変わった身体の中で、終る事無く絶頂に達し続けていた。
もし仮に沙紀達の石化を解いたとしても、命が尽きる瞬間まで、終る事の無く絶頂に達し続ける運命が待っているだけだった。

「ママッ!!」
 その時、警察官の制止を振り切り、一人の少女が一体の石像に飛びついた。
女の子が飛びついた石像は最後に石に変えられた赤城沙紀で、冷たい石像の母親に抱き付いているのは、長女の知世だった。
「ママッ。どうして動かないの?早くおうちへ帰ろうよ〜〜〜っ」
 知世は石像に変わった沙紀を何度も揺すり、やがて石に変わった母親の足にしがみ付いたまま泣き出した。
「どうします?処理するには可哀想ですし、泣き疲れて眠ったら記憶だけ消しますか?」
 淫獣による事件が起きた場合、一応家族に連絡は入れるが、その時、淫獣に関する情報は他言しない様に誓約書を書かされる。
もしも誓約書を無視して口外した場合や、誓約書に合意しなかった場合、祓い衆の巫女達は様々な方法を使い、その対象を処理する。
「そう……ね。任せるわ……」
 それだけ伝えると、留美は警察とこの後の処理について話し合った。


 十二年後。

 鈴虫型淫獣の事件は忘れ去られ、時間が全てを解決したようにおもえた。
「間違いないわ……。お母さんを……あんな姿に変えたあいつが次に襲うのはこの町よ!!」
 知世は記憶を消されていなかった。三歳でありながら、知世は留美の記憶操作術を無効化した。
その才能を買われた知世は、祓い衆の巫女として修行をはじめた。
 厳しい修行だったが、知世は鈴虫型淫獣を倒す為にあらゆる苦行に耐え、祓い衆の巫女としての力を手に入れていた。
知世は鈴虫型淫獣に関する書物を調べ、出現する町に一定の法則がある事を発見し、次に出現するであろうこの町に張り込んでいた。

「この気配!!あいつの結界ね!!」
 知世が町を探り始めて数日後、十二年前と同じ薄紫色の薄い靄がかかった薄暗い結界が発生した。
結界を前に、鈴虫型淫獣に対抗する手段として特殊な耳栓と、淫獣を無に還す強力な護符を取り出し、これから始まる戦闘に備えた。
 知世は目を閉じ、これまでの修行の日々と石像に変えられた沙紀の姿を思い浮かべ、意を決して鈴虫型淫獣の結界へと足を踏み入れた。

「わたし…こんな…に……溢れて………、やあぁぁぁぁぁぁん!!乳首もかんじちゃうぅぅぅっ……」
「すごいよぉっ!!これぇぇっ…クチュクチュってしたら…。おまた…きもちいいっ……」
 結界の中では無数の少女達が、鈴虫型の淫獣によって齎された淫靡な快楽を貪っていた。
知世が結界に入った時、既に何人かの少女は自らの恥部を晒した姿で、冷たい灰色の石の像に変わり果てていた。
一瞬、その石像の少女達と、十二年前に石像に変えられた母親の沙紀の姿が重なって見えたが、すぐにその幻影を振り払った。
「見つけた……。今……無に還してあげるわ!!」
 知世の瞳は二メートル近くまで巨大化した鈴虫型淫獣を捉えた。
十二年前の鈴虫型淫獣を知世が知っていたなら、その大きさの違いに驚いていた事だろう。
しかし幸いにもその事を知らない知世はその大きさに怯む事無く、巨大な鈴虫型淫獣に無数の護符を叩きつけ、足や身体に幾つもの穴を開けた。
 鈴虫型淫獣も、知世にただ一方的にやられてばかりではなかった。
背中の羽を擦り合わせ、リリリリリィィィィィンと鈴の様な音を何度も響かせて、知世を淫靡な世界に引きずり込もうとしたが、
特殊な耳栓を着けていた知世には、ほとんど効果はなかった。
「い……いやあぁぁぁっ!!かっ……感じすぎちゃう!!」
「ひぃぃぃっ!!イクッ!!いっちゃうぅぅぅぅっ!!」
 しかし、鈴虫型淫獣の周りにいた少女達は、そんな耳栓を着けていない為、その音により更に淫靡な世界に引きずり込まれ、
次々に自らの指によって絶頂に押上げられて、淫乱な姿のまま身体を冷たい灰色の石へと変えていった。

「この鈴虫型淫獣……。傷をつけてもすぐに再生しちゃう…」
 淫獣を退治する方法は大きく分けて二つ、今知世が行っている力により淫獣を殲滅する方法。もう一つは、淫獣を封印し無効化する方法だ。
再生力の高い淫獣は倒すのが困難な為、封印される事も多いが、今回の鈴虫型淫獣の殲滅は知世の独断で行われていることだった。
その為、通常複数の巫女で行う淫獣退治を知世一人で行うこととなっていた。
「また羽を広げて鳴いてるの……。幾ら鳴いてもわたしにはきかな……。んっ……」
 知世が鈴虫型淫獣に向き直った瞬間、膣穴から淫蜜がトロトロと溢れ出し、内股を伝ってくるぶしまで流れ落ちた。
いつの間にか敏感になっていた知世の身体は、僅かに乳房が布に擦れただけで、体が芯から痺れるような快楽の稲妻が、脳まで突き抜けた。
「どう……し…て?耳栓をしてるのに……。くぅっ……」
 その時、鈴虫型淫獣が再び羽根を広げ、更に強く羽を擦りはじめた。
鈴虫型淫獣の力は鳴き声だけではなく、その力の篭った振動そのものに催淫の効果があり、その振動が知世の手や顔の皮膚を伝わって、
知世の身体を淫靡な力がじわじわと侵食していた。

「え?なに……が………おきてるの?」
 知世と鈴虫型淫獣が戦っている結界の中に、また一人の少女が迷い込んだ。
この時、既に結界内にいた少女達は全員淫靡な姿の石像に変わり、結界内で動いているのは知世と巨大な鈴虫型淫獣だけだった。
『んっ…、また…誰か入って……!!え……えりかっ!!』
 入ってきた少女を一目見て、知世はその少女が妹のえりかである事に気がついた。
十年前にえりかと父親は、嫌な思い出のある町を出て、運悪くこの町へ引越していた。
そして更に不運は続き、あろう事か、えりかは十二年前の沙紀と同じ様に鈴虫型淫獣の結界に足を踏み入れてしまった。
 鈴虫型淫獣が結界に入った獲物を見逃す筈も無く、再び羽を擦り合わせて、リリリリリリリィィィンと鈴の様な音を結果以内に響かせた。
「あああぁぁぁっ……、ど……どうし…て?からだが……あつ…い…、んんっ!!」
 えりかの身体は激しく火照り、小さな唇から熱い吐息を漏らし、幼い身体に不釣合いな大きな胸をプルンプルンと震わせて、
生まれてはじめての淫靡な世界に引きずり込まされた。
 えりかはぎこちない手つきで服の上から乳房を揉み、やがてその手は誰に教えられた訳でもなく、導かれる様に股間に向っていった。

「この子は……、あんたなんかに石にさせない!!ああああぁぁっっ!!」
 えりかを淫靡な世界に引きずり込んだ鈴虫型淫獣の鈴の音は、当然結界内に居た知世の身体も更に敏感にしていた。
知世が護符を取り出す為に胸のポケットに右手を突っ込んだ瞬間、その手が偶然にも乳首を僅かにかすめたため、たちまち脳を焼く様な快楽が齎された。
魂が蕩ける様な甘美な快楽により意識が一瞬遠のきかけたが、知世は気力を振り絞って意識を取り戻し、その場に踏みとどまった。
 しかし、知世の膣穴からは堰を切ったかの様に愛液が溢れだし、足元に大きな粘り気のある水溜りを作り出した。
「あ……、ダメ……、あいつが…また…羽を……。いや…、感じちゃダ…メ…。んんっ!!あああぁぁっ…イクッ。いっちゃあああぁぁぁっ!!」
 鈴虫型淫獣がトドメとばかりに羽を擦り、結界内に鈴の音を響かせた。
知世は限界まで淫靡な快楽に耐えていたが、新たに齎された快楽に脳裏を塗り潰され、津波の様な快楽の濁流に押し流されてその身を石へと変えた。
「人が…石に……、あああっ。何か来る!!きちゃうっ!!あぁぁぁぁんっ!!」
 知世に数秒遅れて、えりかは生まれて初めての絶頂を味わい、やがて柔らかい身体を冷たく硬い石へと変えていった。
目の前で石に変わった人物が姉である事に、えりかは永遠に気がつく事は無かった。

 鈴虫型淫獣はえりかが石像に変わった後、十二年前と同じ様に地面にズブズブと沈み込む様に消え去った。
結界が消えた後、その場所にはえりかと知世、他に二十人近い女性達が淫靡な姿で石像に変えられて立ち並んでいた。

「どうやら失敗したみたいね……」
 祓い衆の巫女、鳶木留美が知世の石像を優しく撫でながら、もう一人の巫女の椿桃香に話しかけた。
「……みたいですね、それにこの子、確か妹のえりかちゃんじゃないですか?母親に続いて姉妹で石像にされてしまうなんて、ちょっと可哀想ですね」
 桃香は石像に変わったえりかを優しく抱き締め、石に変わったえりかの心をほんの少しだけ覗いてみた。
『イクのキモチィィィッ、しゅごぉぉぃっ、まだ……きもちよくなっちゃうっぅぅぅぅっ!!』
 予想通り、えりかの心は体が石に変えられた後も犯され続けており、永遠に絶頂を繰り返す甘美な世界に捕らえられていた。
えりかの身体を離し、首を振って留美に合図し、知世達の石像の処理を他の巫女達に任せ、二人はその場を後にした。

 その後、二十年以上鈴虫型淫獣は姿を現さず、祓い衆は鈴虫型淫獣の探索を中止した。
しかし、鈴虫型淫獣が滅した訳ではないので、再び同じ悲劇が繰り返されないとはいえなかった………。


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