続・蜂使い

作:牧師


魔族の住む山に雪白眉小学校の六年二組がクラスで遊びに来ていた。

「さあ、自由時間にしましょう。余り遠くに行っては駄目ですよ〜」
担任の蓉子が生徒達に合図をすると、数人の班単位で遊び始めた。
「私は山の絵を描こうかな」
「僕はキノコやクリを拾いたいな」
「じゃあね、わたしは・・・」
生徒達は思い思いに秋の山を楽しんでいた。

「あらあら、かわいい子達がこんなに沢山来てるなんて、今日は楽しめそうね」
魔族のルーアは少し離れた場所から生徒達を眺めて楽しんでいた。
「そうだな、俺も楽しませて貰おう」
魔族の男は何匹かの蜂を出し、ルーアに合図を送ると行動をはじめた。

「きゃっ」
一人の少女の首筋に、魔族の男が送り込んだ黒い蜂が鋭い針を突き立てる。
少女は驚いた表情のまま、一瞬で体を白い大理石像に変えていった。
「く・・・久美子ちゃん。あ・・・」
「いやぁ」
四人で遊んでいた久美子達は黒い蜂に次々と襲われ、驚きや困惑した表情で、
柔らかい肌を硬く白い大理石にされていく。
「まずは四人。全員を石に変えた後でゆっくりと精気を吸い尽くしてやる」
魔族の男は次の生徒に狙いを定め、水色や緑の蜂を送り込んでいった。

「はぁ、はぁ、せ・・・先生」
一人の男子生徒が担任の蓉子に助けを求めに走っていく。
「遅かったわね、残念だけど先生はたった今、エメラルドの宝石像に変わったわ」
ルーアは蓉子から唇を離し、走り寄って来た男子生徒に、妖しく微笑みかけた。
「貴方も綺麗なエメラルドにしてあげるわ」
怯える男子生徒にキスをして、精気を吸い取りエメラルドの宝石像に変えて行く。
少年は驚いた表情のまま、全身から肌色を失わせ、透き通った緑のエメラルドに変わる。
「キスは初めてかな?最初で最後のキスね・・・」
エメラルドに変わった少年の頬を優しく撫で、ルーアは石の感触を楽しんでいた。
「残りの子達も捜してあげないとね」
エメラルドの宝石像に変わった少年を残し、去っていった。

「ぜぇぜぇ・・・」
息も絶え絶えになり、少年は木々の陰に隠れ、魔族から逃れようとしていた。
「そらちゃん・・・、昇・・・」
蜂に刺され、黒いオニキスや水色のトルコ石に変わった友達の姿を思い出していた。
「イッ」
少年の首筋に緑の蜂が針を突き立て、少年は体を翡翠に変えられて行く。
「それで隠れたつもりか」
魔族の男は木々に隠れた少年や少女達目掛け、容赦なく蜂を送り込んでいった。
木々の間に様々な色をした少女達の宝石像が、紅葉した山を彩っていった。

「さおりちゃん、ののかちゃん」
少女が瞳に涙を浮かべ、白い大理石に変わり果てた友達を名前を呼びながら揺すった。
「返事をしてよ・・・」
ルーアは少女に近づくと、銀色の蜂を放ち、少女に針を突き立てた。
「あ・・・」
蜂に刺され、少女は一瞬で体の自由を失う。
「運が良いわね。お嬢ちゃんは大理石じゃなく、綺麗な宝石に変わるのよ」
ルーアは少女にキスをすると味わう様にゆっくりと精気を吸い上げていく。
「んっ」
少女の体はゆっくりと透き通り緑に輝く硬いエメラルドに変化していく。
エメラルドに変わる髪の感触を楽しむ様に、ルーアは少女の髪を指で靡かせる。
初めはフワリと流れていた髪が、徐々にシャラシャラと音を立てていき、
最後には完全に空に浮いた形で緑のエメラルドに変化して、動きを止めた。
「綺麗よ、日の光が反射して輝いてて眩しい位」
ルーアは少女にもう一度キスをして、魔族の男の元に向かい始めた。

「これで全員か?私が石に変えたのは十五人だ」
魔族の男はルーアに確認の為、自分が石に変えた人数を教えた。
「私は二十五人。一人は先生も含めてるから、どこかにあと一人居るはずね」
その時、一人の少年が木々の間から姿を現した。
黒い髪の毛に覗いた瞳は、落着き払い、友達が石像にされた異常な事態にもかかわらず
まったく動揺していなかった。
「探す手間が省けたわ、最後の子は男の子だったのね。気持ち良く宝石にしてあげる」
余裕の表情のルーア達に向かい、少年が年に似合わず落ち着いた声で語りかけた。
「お前達、魔族だな。二人で手を組むとは、力が弱い明確な証拠だな」
「なっ!!貴方一体・・・」
「良いことを教えてやる、ある人が言っていた。
 子供は宝物、この世で最も罪深いのはその宝物を傷つける事だ。と」
自らも子供であるにもかかわらず、少年はルーア達に淡々と話し続けた。
「減らず口もここまでにして貰おう。ルーア」
魔族の男が合図をすると、ルーアが一匹の銀色の蜂を少年に向け放った。
「遅いな」
少年は空を駆ける蜂を右手で捕まえ、地面に叩きつけると、足で踏み躙った。
「そんな、この子一体・・・」
「ルーア、私が代わりにコイツを石にしてやる」
魔族の男の周りに数十匹の様々な色の蜂が出現する。
「弱いからこそ群れたがる。お前の弱さをその蜂の数が雄弁に語っている」
少年の手に光り輝く宝珠が現われ、それが紅いカブトムシに変化していった。
「真に強い者は多くを選ばない。変身!!」
少年は腰に現われたベルトに、手にした紅いカブトムシをセットする。
全身を銀色と黒のスーツに包み、マスクドフォーム姿で二体の魔族に視線を向けていた。
「変身した・・・」
「こいつ、神界の力を持っているのか」
少年はテレビで見た、仮面ライダーカブトの姿を模写していたのだが、
二人の魔族は仮面ライダーカブトを観ておらず、その能力も知り得ては居なかった。
「これだけの蜂の攻撃を見切れるか?」
数十匹の蜂が一斉に少年に向かい襲い掛かる。
「キャストオフ」
少年は腰のカブトを操作し、全身に纏ったマスクドアーマーを高速で吹き飛ばし、
向かって来た全ての蜂を飛び散るパーツに巻き込んで塵に変えた。
「な・・・一撃か!!」
少年はマスクドアーマーからライダーフォームに変わる。
身長百四十センチほどの仮面ライダーカブトがそこに存在していた。
「クロックアップ」
再び腰のカブトに力を送り、時間を刹那の瞬間だけ停止させる。
少年はその一瞬で魔族との距離を詰め、足に神の力を集中させ魔族を蹴り飛ばした。
「ライダー・キック」
蹴り飛ばされた魔族は木に突き刺さり、そのままの姿勢で時が動き始めた。
「ぐわぁぁっ」
「一体何が!!」
二人の魔族は自らの身に何が起きたか理解するより早く、灰に様に変わり崩れ去った。
「所詮は下級魔族。俺の敵では無いな」
少年は変身を解き、木の後ろに隠しておいた山菜やキノコの入ったバッグを手にした。
「今日は山の恵みで舌鼓を打とう」
自由時間で集めた山の恵みを、少年は満足そうに眺めた。
しばらくして先生や生徒達は元に戻り、無事山を降りていった。
今まで魔族の男とルーアに石に変えられていた人達も元に戻り、ひずみから解放された。

少年の活躍で紅葉に彩られた山から魔族が姿を消し、平和が訪れた。


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