作:ビワハヤヒデ
「滅界」
天海が鋭い光を放つ。謎の魔獣はするりと交わす。
「その程度か」
魔獣は空中から急降下する。そして、鋭い爪を振り落とした。
「グシャッ・・・」
天海は飛び上がる。爪は地面に当たり土が砕ける。
「貴様・・・やるな」
天海は徐々に押され始める。力が切れかかっていた。
「くそ・・・このままでは」
天海は完全に魔獣のペースに飲まれていった。魔獣は爪を振るごとに力が増していく。白い霧が晴れてくる・・・。
ついに霧は晴れ、辺りが見えた。
天海の周りの時間は止まっていた・・・。
「どういうことだ・・・」
彼が気づいたとき、辺りの様子が山から薄暗い寺に変わっていた。たき火がたかれ、黒い瓦、城のような石垣。
「本能寺・・・」
天海は魔獣の幻覚に惑わされているのかと考える。しかし、どうにもならない。
「うぬは・・・か」「貴様に・・・せん」「是非もなし」
頭の中を言葉がよぎる。天海は目を開いた。
「蝶姫さま・・・」
目の前には彫刻のように動かない、女性がいた。白装束を着て、こちらを向いて固まっていた。
「ここは・・・本能寺」
天海は蝶姫に近づく。こんなに近づいたのは幼少の頃以来だ。まだ彼女が子供だった頃、自分が若き青年だった頃・・・。
天海は蝶姫に触った。感触はそのままだ。もう止めることはできなかった。天海は帯をほどく。手は止まらない。紫の帯を引っ張ると、自然と着物が脱げていく・・・。
やがて蝶姫の乳房が見えてきた。昔は下着がない。正装でもないので、何も巻いていなかった。肌色の柔らかい肉体が姿を現す。天海は思わず触ってしまう。もう止まらない・・・
そして下にも手をかける。下にも何もつけていない。あっという間に全裸となった。
「初めて見た・・・」
40を過ぎても美を誇る彼女のオブジェに見とれる天海。
「だめだ・・我慢できない」
天海はついに彼女に抱きついてしまった。
「蝶姫様・・・」
グサッ・・・嫌な音がした。何だ、この感触。さっきまでの感触とは違うような・・・。
はっ、と気づいたときには遅かった。天海の腹部から、赤い液体が流れてくる・・・。
「バッカダネ・・・ククク」
目の前には蝶姫ではなくあの魔獣がいた。全ては過去の幻覚だった。時間も動いている。山際から朝陽が顔を出し始めていた。
「ぐっ・・・不覚・・・か・・・。」
天海はもう立てない。動けない。駄目だった・・・。そして、あたりは真っ白となり、意識はとぎれた。
「何だ・・・思ったより簡単に倒せたし・・・ウケる・・・」
魔獣は元の少女に戻ると笑いながら風とともに消えていった・・・。
しかし、彼女は気づいていなかった。倒れ込んだ天海のからだから、不自然な煙が出ていること、そして、流れた血が本物の血ではないことに・・・
時は安土桃山時代後期。京都。賑やかな町なみ。人がたかる。
やがて黒い雲が立ちこめてきた。
「なんだあれ・・・」「なになに・・・」
町人がひそひそと話す。黒い雲は京都全体を覆った。
「どうしはったの・・・」
町に住む女性が友人に話しかけている。
「なんやろな・・・」
心配そうな顔で空を見上げたその瞬間だった・・・