作:ビワハヤヒデ
最初は手短に話そう。私はこの歴史の中で幾多の事件を解き、戦ってきた。楽しかった。時には悲しいこともあった。
私は今、生涯を閉じる―――。冷たい手と布団の暖かさの差は、雲泥もある。
わたしはいろいろ見た。人とのふれあいを、傷つけ合う姿を・・・。
しかし私はそれ以上のものを見た。そう、あれはいつの頃だったか。
蝉のうるさい夏だった。生ぬるい風が体力を徐々に奪う。
闇の中不気味に笑う月が川の緩い流れに映り、怪しく光っていた。
私は歩いていた。袈裟からしみ出る汗。杖についた魔除けの鈴が、静かに響く・・・リン・・・リン・・・リン・・・。
不意に風が止まった。泡の緩い流れも止まった。鳴き声が止まった。
「来たか・・・」
私はおもった。お目当てのやつが来る。あちらから。私は静まりかえった村を歩く。夕闇に代わりはない。
少し歩いたか・・・。やがて集落が見えた。明るく賑わいを見せる光があったが、声の一つもない。当たり前だ。
私は着物の女性を見つけた。このなかでも有力な地主の娘か。20代の彼女は、はち切れそうな胸が、いまにも着物から飛び出しそうだと思った。
しかし、私は興味はなかった。別のもののふならすぐに帯を取り外していただろう。何も言わない。返事はない。時間が止まっているから。
不意に一人の女性の前に立った。仲間らしい農民の娘とお祭りに参加している。この村は今日、祭りだった。祭りといっても今とは違うが。
彼女は麻の服を着ていた。下着はないだろうから。そのままだ。私はさっきの女性の方が美しいとは思った。しかし、彼女には別の用があったのだ。
私は女性の前で経を唱える「オンセンダラハルバヤ、カルヤバ・・」
あたりに風が吹き戻り始める。いや、風ではない。まるで強力な衝撃波のようだった。
「グワ」私はとばされて、あの女性に当たる。女性は倒れた。私は女性の胸に手がいってしまったが、何も変化はなかった。
「大きい胸だね。どうせ我は小さいぞ・・・」
少女は動き出した。ごく普通の少女。しかし、顔つきに異変が。
「やはり・・・。幻魔め。」
「天海さんも胸好きなのね。このまま止めておけば彼女はあなたの・・・。」
「だまれ、それ以上言うな・・・」
天海は強く言ってしまったことに後悔する。女は笑った。
「あれっもしかして、まだ槇ちゃんのこと、怒っているの?。そりゃ彼女はきれいだったよ。でもね・・・むかついたんだよ。」
女の体の麻がはけて、服がちぎれ、全裸になる。しかし体は人でなかった。背中から翼が映えて・・・。角が生える。牙、爪・・・
「貴様・・・。何なんだ?」
天海は一瞬考えた。しかしやめた。奴の翼が完全となり、羽を広げたとき、私の手は動いていた。
「滅界」わたしは鋭い衝撃波を繰り出した・・・。
続く。