「れたす絶叫!水中で踊る花、散る花」

作:アッリア
イラスト:桃色河馬


タルトは、怒っていた。
自慢のキメラアニマ・ゼノモグリを倒された事もあるが、自分でも何故だか良く分からないが、
とにかく怒っていた。
「なんだよっ、いつもいつも・・・。でも、もうおそいぞ。どうせドームはこのまま沈む」
「お前らなんか全員生き埋めだあっ!!」
宙に姿を消したタルトの宣言通りに、洞窟が崩れ始める。
激しい揺れが東京ミュウミュウ達を襲う。思わず悲鳴をあげるミュウミントとミュウレタス。
「きゃあっ!!」
「みんな、とりあえずにげるにゃん!」
ミュウイチゴの言葉に従って洞窟から脱出しようとするミュウミント、ミュウレタス、ミュウザクロ。
しかし、崩れ落ちる土砂にミュウレタスが飲み込まれる。
「きゃあああああーーーっ!」
「れたす、れたすーーーーーーーーーっ!」
イチゴの絶叫が、洞窟の中に響く。
だがそれも洞窟が崩れる轟音にかき消され、れたすに届かない。
そしてれたすの姿は、崩れ行く土砂の中へと消えていった。


どこともしれない洞窟に、エイリアン達3人はいた。
「捕まえたオバサンの処理を行うけど、キッシュはどうするのさ♪」
「−−−なんかねむい、帰る。今回もパーース。お前等で勝手にやっといてくれ」
訊ねたタルトに、欠伸をしながら手を振るキッシュ。
「いつも自分中心でやってるのにーーーっ。まっ、いいや。・・・パイ、おいら先に行ってるよ♪」
宙に姿を消して、部屋から出ていくタルト。
タルトを見送ったキッシュが表情を引き締めた後、パイに近づきそっと耳打ちする。
「タルトの奴・・・ここ最近、まるで死に急いでいるようだ・・・」
「データでもその兆候が見えるな・・・」
「あいつを死なせたくない。サポートを頼む・・・」
「わかった・・・」
いつになく真剣な表情のキッシュにパイは驚きながらも、その忠告に頷いて応える。
そして二人はタルトと同じように部屋から姿を消した。


巨大なガラス張りの水槽の上に、気を失った一人の少女が逆さ吊りにされていた。
細く編んだ長い髪に、丸い眼鏡をした優しい面立ちの少女−−−碧川れたすであった。
フリルの目一杯ついた、いわゆるメイド服風のカフェミュウミュウのウェイトレス姿で
逆さ吊りにされているため、スカートはまくれ上がり、白い小さな下着がさらけ出されていた。
「うっ・・・」
小さくうめいて、れたすは目を開いた。
れたすは身を起こそうとして、それが出来ないことに気付く。
自分の身体が逆さ吊りにされているの見て取り、その大きな瞳を見開いた。
「こっ、これは、一体・・・」
「やっと目が覚めたねっ♪」
嬉しそうな子供の声が聞こえた。はっと、れたすは声のした方へと振り向く。
部屋の入り口にはクールで冷徹そうな青年と無邪気な子供−−パイとタルトの姿があった。
「きゃっ!・・・み、見ないでください」
自分のはしたない格好をエイリアンとはいえ異性に見られているのに気付いて
慌ててスカートを押さえようとするれたす。
「あはははははっ、おいら達はオバサンのパンツなんか興味ないよーーだっ♪」
そのれたすの行為を見て、声を立てて笑うタルト。
パイはいつもの様に無表情でれたすを見ている。
「あ、あの、私を、どうなさるおつもりですか・・・・?」
顔を赤らめながら、弱々しく彼女は彼等に問い掛ける。
「我々に仇なしてきた東京ミュウミュウの処刑を、執り行うだけだ・・・」
「こうするのさっ♪」
タルトが壁のレバーへと歩みより、無造作にレバーを引いた。
「きゃーーっ」
がくん、と、鎖で吊られたれたすの身体が、少し落下して止まる。
恐怖に顔を引きつらせ、ひいっ、ひいっと引きつった呼吸を繰り返すれたす。
タルトは心底楽しそうにレバーを下へと動かした。
「い、嫌・・・、きゃあーーっ」
がくん、と、また少しれたすの身体が、下がる。
徐々に自分の身体が、水を満たした水槽へと近づいていく恐怖に、涙を流して叫ぶれたす。
「やっ、やめてください・・・・。わ、私、泳げないんですぅ・・・」
「そうなんだ♪でも、やーめないよーーっ♪さっさと落ちちゃえーーっ♪」
泣き叫ぶれたすを、満面の笑みで眺めていたタルトが、手にしたレバーを一番下まで動かした。
れたすは頭の方から水槽の中へと放り込まれる。
水中で息を堪えるため、咄嗟に大きく息を吸い込むれたす。
水槽の中に、れたすの身体は深く沈んだ。
れたすは目を瞑り、歯を食いしばって必死に息を堪える。
(息が・・・息がもたない!!おぼれちゃう・・・)
れたすは水の中で、早くこの責めが終わることを祈った。
突然、水の中から引き上げられるれたす。
「げほっ!ごぼっ!」
少し、水を飲んでしまったようだ。
「あはははははっ、オバサン。結構長いコト息止めてたねっ♪すごい、すごい♪」
「げ、ほっ・・・た、たすけてっ!、いちごさん、みんとさん、ざくろさん、ぷりんさん・・・!」
れたすは、助けを求めるために仲間の名を叫んだ。
「・・・助けが来る確率0.13パーセント」
「オバサン達は、陥没したドームから大量発生したキメラアニマの対処で手一杯だよっ♪
少なくとも、オバサンの処刑が終わるまでは、誰も助けに来ないよっ♪」
「そ、そんな・・・・!!」
絶望に顔を歪ませるれたすを、あざ笑うかのようにタルトは、レバーを下へ動かす。
派手な水飛沫を上げて、再びれたすの肢体が水槽の中に落とされる。
助けが来ないと言う絶望感のためか、今度は息を充分に吸い込む事が出来なかった様だ。
「ゴボッ・・・!!」
大きな気泡が上がると同時に水槽の中で、れたすはもがきはじめる。
鼻や口から流れ込む水にその優しい面立ちを歪め、苦悶する。
両足を縛られた身体を必死にのたうち悶えさせ、両手をばたつかせる
細く編んだ長い髪が、苦痛に歪む顔の周囲を藻のように漂い、
可愛らしい唇が開け閉めする度に、無数の気泡が水中を立ち昇る。
(く、苦しいです・・・・・)
(早く・・・早く、引き上げ・てください・・・っ・・・・!!)

タルトが、レバーを上に動かす。
がらがらと音を立てて鎖が巻き上げられて、ぐったりとしたれたすが水槽から引き上げられる。
水槽の上で逆さまに吊られたまま、荒く息をつくレタス。
「う・あ・・・、助け、て・・・ご、ごめん・な・さ、い・・」
「ゆ、許し・て・・もう、ゆ、許して・・・くだ・・」
「苦しい?ねえ、苦しい?返事してよっ♪せっかく聞いているのにーーー♪」
「はぁっ、はあっ・・・くっ、くぅ・るしぃ・・・い・です。はぁ、もぉう、・・ゆ、ゆるしえぇ・・」
引き上げられたれたすはか細い声で、タルトに許しを乞う。
「ほう、思ったより耐久力があるな・・・・」
「あれっ、返事がないってことは苦しいんだな♪次は、死んじゃうかな♪ま、いーけどさ、べつにぃーーっ」
「・ひっ、ひぃ・・・・」
れたすの必死の哀願に対し、聞こえない振りをするタルト。
そして、無情にも再びレバーを下に動かす。
三度、水槽に沈められるれたす。

(も・・・もう・・・、駄目です、駄目で・・・・)
朦朧とする意識の中で、突如として彼女は名案をひらめく。
(そうですわ、ミュウレタスに変身すれば・・・)
「・・・ミュウミュウレタス、メタモルフォーゼ!!」

水中で発した声にも関わらず、その言葉は水槽から離れた場所にいたパイとタルトの耳にも届いた。
「とうとう、変身したね♪」
「計算通りだな・・・・」
ミュウレタスに変身するれたすを冷ややかに見つめるパイとタルト。

眩い光の奔流が巻き起こり、れたすの身体を包んでいく。
その光の中で、れたすは若草色のレオタード状のコスチュームを身に纏った、
世界一小さなイルカ「スナメリ」の遺伝子と合体した「ミュウレタス」に変身していく。
(これで、溺れるコトはなくなりましたわ・・・)
溺れる心配が無くなり、水の中にも関わらず安堵したれたすに、異変が襲う。
(ああっ、熱いっ・・・、きゃ、あっ、熱いぃっ、ひいっ、ひいいっ!灼ける、身体がっ、ひいいぃぃっ!)
れたすの全身を、炎であぶられた様な熱さと痛みが襲ったのだ。
自由の利かない水中で身体をくねらせ、激しく頭を振ってれたすは水中で絶叫する。
声を上げるたびに水を飲み、気泡を吐き出しながら。
(ひいっ、熱いっ、あっ、アツイィィィッ!ど、どうしてですの!!!)
れたすの疑問も当然であった。
先程まで無害だったはずの水が、今はれたすの全身に熱さと痛みを与えるのだから。
彼女が身体をのたうち、悶える度に、ばしゃばしゃと水面が激しく波打つ。

れたすの凄惨で魅惑的な水中バレエを、タルトは目を輝かせて、パイは顔色ひとつ変えずに見守っていた。

しばらくすると、ひくひくと全身を痙攣させた後、れたすは動かなくなった。
余りの熱さと痛みに耐えられず、白目を剥いて気絶したようだ。
がらがらと音を立てて、鎖が巻き上げられていく。
水槽から引き上げられたれたすの全身から、じゅうじゅうっと白い煙が立ち昇る。
気絶してぐったりとしているれたすの身体が、水槽の上でゆらゆらと揺れた。

「うっ、あっ・・・・」
意識を取り戻したれたすは、焼け爛れたであろう自分の身体をおそるおそる見た。
「な、な、何ですの、こ、これはっ!!!」
れたすが心配した火傷の跡は身体のどこにもなかった。
が、そのかわり身体全体が茶色い斑点・しみのようなものができているのが見てとれた。
しかもその茶色い斑点は、じわじわと周囲に広がっている。
「いっ、嫌!!こ、これは、な、何なんですか!!!」
「・・・水槽には、対ミュウミュウ用の特別な酵素が溶かしてある・・・。
お前達の細胞を、石へと変える酵素がな・・・」
悲鳴をあげて取り乱すれたすに、淡々と説明をするパイ。
「じきに全身に広がって、身動きひとつ取れなくなるんだよ♪」
れたすの質問に答えながら、レバーを再び下に動かすタルト。

「た、助け・・ゴボッ、ゴボッ、ヒイッ、熱いっ、イヤアアァッ!熱い、アツイッ、ゴボッ!!」
水槽の中に落とされたれたすの身体に、再び熱さと痛みが襲う。
激痛でのたうつれたすの身体全体が、茶色く変色していく。

何処からとも無く、キッシュの声が聞こえる。
「・・・タルト、パイ。上からの指令書が届いた。宇宙船に戻って来い」
「わかった・・・・」
「おっけーーーー♪ーーーパイ、こいつどうなるかな♪」
水槽に沈んだレタスを一瞥して、パイがぼそりと呟いた。
「計算によると溺死する前に、全身が石化するのが早いな・・・」
そう言い残して、パイが姿を消す。
(・・・そ、そんなっ。そんなの、嫌っっっっっっ・・・・・)
水の中で声にならない悲鳴をあげる、れたす。
そして、激痛にのたうつ彼女の動きが、じょじょに緩慢になっていく。

「それじゃ、オバサン。バイバイ♪」
薄れゆく意識の中で、れたすは聞こえるはずも無い哀願を続ける。
(い、行かないで・・くださ・い・・・お願いし・ます・・・
ここから出して・・・・ここから・・・だし・・)

れたすが最後に見たものは、自分ににこやかに手を振って宙に消えていくタルトの姿であった。

翌日、がらがらと音を立てて鎖が巻き上げられていく。
水槽から、昨日までれたすだった物が姿を現す。
苦痛で身をよじらせ、苦悶の表情を浮かべて物言わぬ石像と化したれたすは
歩鈴と同じように大きな石版にその身体を埋め込まれ、彼女の横へと置かれる。
安全第一と書かれた黄色いヘルメットを被ったタルトがその作業を終えた後、歩鈴の前に立つ。
「・・・お前の弟や妹達に会ってきたよ・・・」
「・・・心配しなくても大丈夫さ、あいつらはお前がいなくても充分に生きていけるさ・・・」
タルトの声にはいつもの元気は無く、生きることに疲れた老人の様であった。
部屋にはタルト以外、誰もいない。
タルトは物言わぬ歩鈴に淡々と話し掛ける。
「・・・おいらは、もう・・・・疲れたよ・・・」
「・・・お前と会うのも、今日が最後だろうな・・・」
「・・・じゃあなっ・・・」
現れた時と同じ様に宙に姿を消すタルト。黄色いヘルメットが乾いた音を立てて、地面に落ちた。


それから3日後、東京ミュウミュウとの戦闘において、タルトは・・・・。

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