みんと奮戦!!ガトー・デュ・ロワ強襲

作:アッリア
イラスト:桃色河馬


東京都内某所にある病院。
完全武装した自衛隊員が警備するこの病院に、前の戦いで負傷したいちごとみんとが入院していた。
何かの炸裂音とともに、夜空に閃光が走った。
眩く光るそれはあちこちから打ち上げられ、ゆっくりと地上を照らしながら落下してくる。
落下してくる照明弾によって浮かび上がったのは、空をびっしりと埋め尽くしたキメラアニマの群れであった。
「敵襲!!」
病院の警備に当たっていた自衛隊の部隊が迎撃を開始する。


頭に包帯を巻いたパジャマ姿のミントが、ケガのため満足に動かない右足を引きずりながら、電気の消えた廊下を歩いていた。
外からは、銃声や爆発音がひっきりなしに聞こえてくる。
「・・・くっ?!」
激しい激痛が、みんとの身体中を駆け抜ける。思わずその場にうずくまる。
羽織っていたガウンが、はらりと床に落ちる。
「う・・うう・・・、わたくしの身体、どうなってしまいましたの・・・」
前回の戦いで受けた、背中につけられた傷の痛みをなんとか堪えて、前に進むみんと。
負傷者の治療をしていた看護婦の一人がみんとに気づき、慌てて駆け寄る。
看護婦になったばかりという感じで初々しく、栗色の外はねの髪型に白い肌が印象的な少女だ。
「みんとさん、あなたは動いちゃ駄目です。この病院で一番の重症なんですよ!?」
「・・・ここがやられましたら、病気だ怪我だなんて言ってられませんわ!」
「そ、そうですが。あっ・・・」
看護婦の身体を押しのけて、再び歩き出すミント。
「み、みんとさん、どうするつもりなんですか?」
「・ミ、ミュウミントに変身しないと・・・」
と、不意に、みんとの視界がぐらぐらと揺れだす。
続けて、地の底から突き上げるような震動が来る。
「きゃっ!?」
「じ、地震ですのっ!?」
突然の揺れによろめき、バランスを崩して膝をつくみんとと看護婦の少女。
それは地震を思わせるほどの揺れであったが、そうでは無いとすぐに判った。
震動が連続せず、数秒の不定期な間隔で襲ってくるのだ。
唐突に、彼女達から3m先にある壁に亀裂が走り−−−砕けた。
舞い散る粉塵と散乱する瓦礫の向こうに、信じられないものがあった−−−ではなく、いた。
「キメラアニマ!!」
そいつは烏賊に似ていた。
しかし、烏賊ではなかった。
尖った頭に人間のような二本の長い腕と、二本の短い脚。
真ん中には緑がかった目玉が仄かに光っている。
そいつの鋭い牙の並んだ顎が、ゆっくりと開いた。
大きく息を吸い込み、分厚い胸を膨らませる。喉元からごぼごぼと不気味な音が漏れ出す。
突如、みんとの身体が宙に舞い、壁に激突した。
危険を察知した看護婦の少女が−−−信じられない力でみんとを突き飛ばしたのだ。
壁を背に崩れ落ちるみんとが見たのは、どろりとする緑色の液体を頭から浴びせかけられた看護婦の少女の姿であった。
壁に頭を打ちつけて朦朧としていたみんとの意識が、現実に引き戻される。
沸き上がる白煙と刺激臭の中で、看護婦の少女の身体が灰色に染まっていく。
もし突き飛ばされていなかったら、間違いなくみんとも同様の運命を辿っていただろう。

液体に触れた部分の白衣が溶け、素肌があらわになる。
「ふ・・・服がぁ!!いやあああぁぁ!やぁ・・・」
服が溶かされ、あらわになった白い素肌に緑色の液体が触れると白煙があがり、灰色に変わっていく。
「か、身体がっ・・・・?!」
緑色の液体は、服が残っている部分では服を溶かし、素肌があらわになっている部分では肌を灰色に染め上げていく。
白衣の下から水色の下着が現れた後、小振りながらも形の良い乳房が露になり、彼女の頬は羞恥に染まる。
白衣から伸びた手足はすでに灰色に染まり硬化していたため、胸を隠すことも、その場から逃げ出すことも出来なかった。
不思議なことに、痛みは・・・なかった。
だが、少女はもう自分が助からないだろうと悟った。
薄れいく意識の中で、目を見開き涙を流しながら呆然と自分を見つめるみんとの姿が見えた。
「早く・・・逃げて・・・」
そう呟いた後、彼女の意識は混濁し、朦朧としていった。

「・・・・・うっ、うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
怒気を全身から発して、みんとは吠えた。
そして感情の爆発は、彼女の身体を一瞬にミュウミントへと変身させた。
「リボーーンミントーンエコーーーー!!!」
放たれた光の矢は狙いたがわずキメラアニマグーンの一つしかない目玉をぶち抜き、
その身体を白い炎に包んだ。
名も知らぬ少女の・・・変わり果てた身体に近づくミュウミント。
落ちていたガウンを拾い上げると、彼女のあらわになった胸を隠すように羽織らせる。
そして、彼女の冷たく硬くなった頬に手をあてて軽くキスをした。
「ありが・・・とう・・・」
ボソっと、彼女にしか聞こえないよな小声で彼女に礼を言うと、くるりときびすを返すと走り始めた。


長く尾を引く叫びが、空に響き渡る。
その残響が消される前に、鈍い音を立てて声の主が地面に叩きつけられる。
・・・それは女人の姿をしていた。
 やや青みがかった人間の女性の上半身に、肩口から翼を生やし、黒光りする剛毛に覆われた下半身――。
キメラアニマハーピィと呼ばれる、エイリアンの尖兵である。
別のキメラアニマハーピィの叫び声が響いた。
それに呼応するかのように複数の叫び声が空に響き渡る。
12匹もの群れが円陣を描いて、ミュウイチゴの頭上を飛び交っていた。
いずれも顔に嗜虐の色を浮かべて、にたにたと笑っていた。
 その円の中央に、ミュウイチゴの姿があった。
彼女の足元には数匹の妖鳥の屍が転がっている。
円陣から外れて突撃してきたものを迎撃した跡である。
そしてこれらは囮であった。
再び囮の一匹が、包囲の輪から飛び出した。
ミュウイチゴが空中で身体を回転させる。彼女の頭上に螺旋状にエネルギーが集中していく。
「リボー−ンストロベリーサプラーーイズ!!!」
左足を折り曲げ、右足だけで立ったままストロベルベルを頭の上に掲げてそのエネルギーを
吸収すると、両腕を前に突き出してキメラアニマハーピィへと向ける。
ピンク色をしたハート型の光から、無数の光の球が襲い掛かる。
鼓膜をつんざく絶叫をあるキメラアニマハーピィ。
本来ならば、その身体を跡形も無く消滅させる技なのだが、今はその命を奪うにとどまった。
半日以上、戦い続けた疲労がたたっているのだ。
そして、必殺技を放って動きを止めたミュウイチゴに向けて、円陣から充分に狙いをつけた
風の刃が浴びせかけられる。
通常なら避けることが出来るこの攻撃も、死を覚悟した囮によってミュウイチゴの体力を
確実に削っていた。
「きやっ!!」
短くうめきながらも、なんとか体勢を立て直し、彼女は次の攻撃に備える。

”も・・・・だめかな・・・・・”
 絶対絶命の状況下で、いちごは死を覚悟した。
”みんなと一緒なら、こんなキメラアニマに負けないのに・・・”
仲間たちの姿が次々と脳裏に浮かぶ。
ミュウプリンが素早い動きでキメラアニマを翻弄しつつ必殺の蹴りを繰り出す姿。
ミュウレタスがレタスタネットを鳴らし強烈な水流でキメラアニマを押し流す姿。
ミュウザクロが眉ひとつ動かさずにキメラアニマをザクロホイップで切断する姿。
そして、ミントーンアローから放たれる光の矢でキメラアニマを倒す−−−ミュウミントの姿が脳裏をよぎった。
−−−空中を自在に駆け、ミュウミュウメンバーの中で唯一の飛び道具を持つミュウミントなら・・・。

”思えば短い一生だったにゃ・・・・・・・・・”

”・・・歩鈴、れたす、ざくろさん、助けられなくてゴメンネ・・・”

”・・・みんと、背中の傷、痕がのこらないとイイネ・・・”

”そして そして 青山くん・・・”

”できることなら もう一度 会いたかったにゃあ・・・”

何故か急に涙が出てきた。顔を上げると、空は青く晴れて太陽が照り付けている。
太陽に影が映る。
その影を見たミュウミントの顔に笑顔が戻る。
影の主は彼女の大切な仲間であった。


ミュウミントは太陽を背にして翼を折りたたみ、直下降しながらミントーンアローを掃射した。
今まさにミュウイチゴに襲いかかろうとしていたキメラアニマハーピィを光の矢が貫いた。
「ひとつ、次っ!」

太陽を背にしているために、狙いを定められず、上空から降り注ぐ光の矢を
なす術も無く受ける2匹目。
「ふたつゥ!」

風の刃を放とうとして、両翼を広げたまま光の矢に、どてっ腹をぶちぬかれ
上半身と下半身がばらばらに落ちていく3匹目。
「みっつゥ!」

妖鳥の円陣を抜け、ミュウイチゴの傍らに降り立つミュウミント。
「みんと!!」
「なにをもたもたしていますの、いちご!!」
腕を組んで、ミュウイチゴに背中を向けるミュウミント。
いちごが無事であったことを素直に喜べない彼女の、照れ隠しである。
「ま、わたくしが来たからには、いちごは寝ていても構いませんことよ。」
いつものように憎まれ口を叩くミュウミント。
ミュウイチゴもいつものように顔を膨らませて怒る。
「なによーー、1人で大変だったんだからねーーー。」
「話は後ですわ!さあ、さっさと片付けてしまいますわよ。」
「うん!!」

ミュウミントの奇襲から立ち直ったキメラアニマハーピィ達が態勢を立て直し、再び陣形を組む。
上昇してくるミュウミントに対して、3匹のキメラアニマハーピィが襲い掛かる。
左右前方の2匹が風の刃を放ち、態勢を崩したミュウミントの側面を残りの1匹が突こうとする。が・・・。
「見えます、見えますわよ!!」
風の刃をその場でくるりと一回転してあっさりとかわすと、側面を突こうとしたキメラアニマハーピィにまよわずミントーンアローを向け、放つ。
「グェッ!!」
左胸を撃ち抜かれ、悲鳴をあげて地上に落ちていくキメラアニマハーピィ。
「よっつぅ!」

ミュウミントに急接近したキメラアニマハーピィが彼女に蹴りをかます。
「きゃあああああ!!」
後ろに吹き飛ばされるミュウミント。
畳み掛けるように風の刃を放つ。が、ミュウミントはその攻撃を紙一重でかわすと
ミントーンアローから放たれた光の矢がキメラアニマハーピィの頭を吹き飛ばす。
「いつつ!」


「何があったの、今日のみんとはカンが冴えてるにゃん!!」
ミュウミントの鮮やかな手並みに感心しつつ、ミュウイチゴも手にしたストロベルベルから
光の球を打ち出してキメラアニマハーピィを2匹まとめて消し去る。


狂ったように放たれる風の刃をかいくぐり、ミュウミントはキメラアニマハーピィに
急接近すると顔面に膝蹴りを喰らわせる。
「グエッ!!」
悲鳴をあげるキメラアニマハーピィの髪の毛を左手で掴む、と前に押出すようにして自分の盾にする。
「ギャーッ!ギャッギャッ!!」
ミュウミントに向けて放たれた風の刃を一身に受け、絶叫をあげ身をよじらせるキメラアニマハーピィ。
血まみれとなったキメラアニマハーピィを盾にしつつ、その仲間の頭を、胸を、腰を貫いていくミュウミント。
「むっつぅ!ななつ!やっつぅ!」

最後に用済みとなったキメラアニマハーピィの頭を撃ち抜く。
脳漿と血をまき散らしながら地上に落ちていく。
「ここのつ!」


「ぜ、全滅?12匹のキメラアニマハーピィが全滅?3分もたたずにか?」
最後のキメラアニマハーピィをミュウイチゴが消し去るのを、鋭角的なシルエットが特徴的な
フォルムの艦内で、驚愕の表情を浮かべて見ている男がいた。
彼の名はガトー・デュ・ロワ。
エイリアンの一人であり、失敗続きのキッシュ・パイに替わり、ディープブルー直々に今回の
東京侵攻計画の任をまかされているのだが・・・。
「き、傷ついた人間二人に、キメラアニマハーピィが12匹も?ば、化け物か・・」
呆然自失の状態の彼に、通信が入る。
彼が現在、最も見たくない男の顔が大型スクリーンに映し出される。
「パイ、わ、笑いに来たのか!」
「ガトー・デュ・ロワ、この場は引け・・・」
パイはいつもと変わらぬ無表情だ。
それがかえって、ガトーの怒りを呼ぶ。
「何だと、後もう少しで彼奴等を始末できるものを、何故引かねばならぬ!!」
「貴公には、次の作戦の指揮を取ってもらわねばならんのだ・・・
これは、ディープブルー様の御意思だ・・・」
「ぐっ、・・・承知した・・・」
彼にとって、ディープブルーの命令は絶対であった。
が、このまま引き下がるには、彼の矜持が許さなかった。
「だが、あの青い奴だけは殺らせてもらう!!」


ガトーの叫びに呼応するかの様に、ミュウミントの足元から
地を割り、土砂を巻き上げて、血の色をしたザリガニの化け物が現れる。
そしてその鋭い爪が下から上に突き上げる様に、ミュウミントのわき腹に襲い掛かる。
「みんと!、逃げて!!」
ミュウイチゴの目の前で、ミュウミントの身体はくの字に曲げられ、腕は力無くだらりと垂れ下る。
「い、いやーーーーーーっ、みんと、みんとーーっ!!」
ミュウミントの頭が左右に動く。
「う、うるさい・・ですわよ、いちご。・・・このくらい、大したこと・・あ・・りませんわ」
ミントーンアローをザリガニもどきの額にあてがう。そして・・・。
「・・・リ・リボーンミントーンエコー!!」
零距離で放たれた光の矢は、ザリガニもどきの分厚い甲羅をやすやすと貫いた。
白い泡を大量に吐き出して、絶命するザリガニもどき。


ミュウミントに駆け寄るミュウイチゴ。
「ねえ、大丈夫なの、みんと!!」
ミュウミントはバトルコスチュームの上からわき腹に手を当てると、顔を強張らせる。
「・・・え、ええっ・・・大丈夫ですわ・・・」
少しうわずった声でミュウミントの問い掛けに答えるミュウミント。
足元を見るとザリガニもどきの鋭い爪が粉々になっていた。
「・・本当に、本当に、本当に!?」
ミュウイチゴはミュウミントに掴みかかると、ゆさゆさとその肩を揺さぶった。
「・・・あ、あら、わたくしにとって、あ、あれぐらい何ともありせんわよ・・・」
左手を口元にあてて、強がるミュウミント。
「・・無事で・・本当・に・・よか・・っ・た・・・・」
ミュウミントを掴んでいた手が、するりと離れる。
彼女の身体から力が抜け、ミュウミントの胸元に倒れこんだ。
「いちご、ちょっと大丈夫ですの!?」


パイの前にある大型スクリーンには、昏倒したミュウイチゴを心配そうに覗き込むミュウミントの姿が映し出されていた。彼女の姿を見ながら、パイはぽつりと呟く。
「・・・ガトーめ、余計なことを・・・」
「・・・計画の要たる彼女が無事でよかったものの・・、やはり彼には舞台をおりてもらうしかないな・・・」
「そうね・・・」
パイの斜め後ろに、影のように付き従うブラックオパールのように光り輝く黒髪をした美女が、
無愛想に応える。その口元は心無しか微笑んでいるように見えた。

(続く)

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