作:アッリア
電気の消えた部屋に、一人の女性がいた。
彼女の名前は三田貴美子、小野霞学園の教師である。
「寒くなったわねぇ、ルドルフ」
彼女はベットに座り、トナカイのぬいぐるみに話し掛ける。
「やっぱり、あなただけよ、私の味方は・・・・」
「先生は誰も信用できないし・・・生徒だって・・・・」
スーツのポケットに手を突っ込み、一枚の紙片を取り出す。
「そう、またあいつらなの・・・」
紙片には”しょうこが死んで安心したでしょ貴美子センセェ”と書かれていた。
顔をしかめた彼女の脳裏に、自分の秘密を知られた日のことが浮かんだ−−−。
雪のちらつくある日。
いつものようにコンビニでコピーをし終えて、家に帰ろうとしたとき。
とんとん。
不意に後ろから肩をたたかれる。
振り向くと、教え子の3人がにやにやしながらそこに立っていた。
「せんせぇ〜〜、見たでぇ〜〜」
紙片を握りつぶし、ゴミ箱に投げ棄てる。
「私が苦しむのを楽しんでいるんだわ・・・」
「・・・もう・限界・・・どうしたらいいのよ・・・」
「もし、あの事をばらされたなら・・・みんなにどんな目で見られるか・・・・」
手を伸ばし、トナカイのぬいぐるみを抱き締める。
「我慢できない・・・とても・・・」
「いっそ・・・・このまま、あの娘達みんな・・・」
はっとして口走ったことを隠すように手で覆う。
「何も言われたくないの・・けど・・・」
再び抱き締めたトナカイの瞳が、一瞬紅く光った。
凍りつくような、真冬の夜の公園。
「ちょっと、どないしたん!?」
携帯電話に向かって叫んでいる高校生ぐらいの制服姿の少女がいた。
すらりと伸びた長い脚と、背中まであるつややかな黒髪にややきつめな顔が印象的だ。
「あんたがメールでさあ・・・」
「そうや・・・、いっしょに翔子のことを調べようて・・・」
戸惑いの表情を浮かべて困惑する少女。。
「え?ちょ、ちょお待って〜や、ほしたら誰が・・・」
何かの気配を感じて後ろを振り向く。
彼女の動きが止まった。
瞳孔が大きく見開かれる。
「あぁああああああ・・・!」
夜の公園に彼女の悲鳴が響いたが、それも一瞬だった。
静けさを取り戻した公園。
制服を脱がされ、白いパンツとスポーツブラというあられもない姿で
少女は横たわっていた。毛深い前脚が意識を失った彼女に赤地に白牡丹が
描かれたシルクのチャイナドレスを着せていく。
ごつごつとした前脚が、彼女の襟元にあるチャイナボタンを留める。
「うっ・・・・・」
最後に赤のピンヒールを履かせていると、少女はうめき声を洩らす。
どうやら意識を取り戻したようだ。
頭を振って立ち上がり、はたと自分の格好に気づく。
「な、なんやのん、この格好!?」
ボディラインを際立たせるタイトなシルエットに、深く入ったスリットから覗く脚が
悩ましい。
全く状況が理解できない彼女に、真っ白な冷気が吹きつけられた。
「いや・・・やぁ・・。ちよぉ、何すんのや!!!やめ・・・・」
両手を顔の前にかざし戸惑いの表情を浮かべたまま、彼女は凍りついた。
ホテルで目覚めた私は、朝のニュースを観て驚いた。
昨日、廃ビルで出会った少女が死体となって発見されたというのだ。
「雪女事件」の五人目の被害者として、凍らされて・・・。
私、一三子は彼女の残した”貴美子先生”の言葉を頼りに、彼女の通っていた小野霞学園へと赴いた。
つづく