石の聖女 第三夜

作:アッリア


耳たぶまで赤く染めた都が、館長室を向ってまっしぐらに駈けてゆく。
「全く・・・何よあれ!?」
こんなに胸がどきどきしているのは、急いで走っているせいだけじゃない。
都は先ほど通り過ぎた部屋で見た”愛犬と戯れる少女”という彫像のことを思い出していた。
床にあおむけに倒れた少女に、巨大な犬が覆い被さって歓喜の咆哮を上げていた。
彼女が何をされていたのかと考えると、なんだか、腰のあたりがむずむずしてきた。
「ここの館長に、ひと言文句いってやる!!」
羞恥と怒りで頬を紅く染めて館長室へと急いでいた都は、ふと何かの声に気付いた。
「・・・ぁ・・・ん・・・」
その場に立ち止まった都は、声の聞こえる方に移動していく。
(ここは、・・・特別展示室?誰かいるのかしら?)
都が部屋の扉を開けようとする。
「ああああっ!ジャ、ジャンヌゥ!ダメェ!」
「!?」
都の目に信じられない光景が映った
都の親友である日下部まろんが下着姿で、都が追い続けている怪盗ジャンヌと部屋の中央で抱き合っていたのだ。
(な・な・・何で!?まろんと・・・ジャンヌが・・・??)
彼女がジャンヌを追いつづけた理由・・・それはジャンヌに似ているという幼なじみであるまろんの潔白を証明するためだったのだが・・・。


「フフッ、子猫ちゃん・・・こんなに濡らして、はしたないわねっ♪」
ジャンヌの指がまろんの濡れた下腹部をまさぐり、更に濡らしていく・・・。
「ヒッ!ち、違う。わ、わたしは・・・・ンンッ!!」
ジャンヌの手馴れた指使いに、まろんの抗議の声はかき消される。
だらしなく半開きになった唇からは、甘い吐息と共に唾液が漏れている・・・。
その唾液を、ジャンヌは舌で舐め取りながらそのまままろんの唇をゆっくりと塞ぐ。

二人に気付かれない様に僅かに開けた扉の隙間からジャンヌとまろんの戯れを
目の当たりにした都は、信じられないといった感じで少々取り乱しつつも口に
手を当てて声を押し殺し、じっと静観していた。

「ああんっ!?あっ!ああっ!ひくぅ!」
ジャンヌの愛撫が序々と強まり、まろんがその刺激に過敏に反応して大きく身をよじらせる。
「もう、我慢出来ないのね。さあ、あなたの中の悪魔を封印してあげるわ・・・チェックメイト!!」
そのまろんの反応に絶頂の前触れを感じたジャンヌは、まろんの下着の中に差し入れた指を
優しくも激しく掻き回した。
「ああ!だめっ!らめぇっ!も、もう・・・!!」
喉をのけ反らせ、身体を弓なりに大きく反らし、髪を乱しつつ激しく痙攣して絶頂に達するまろん。
痙攣がおさまり、小さい吐息を漏らしながら余韻に浸っていたまろんの身体に変化が起こった。
まろんの下腹部が黄金に変わっている。
都は恐怖に満ちた目でまろんの下腹部を見た。
さらに黄金の侵食は続き、下腹部から腰、腰から内腿へと無機質な温かみの無い、黄金へと変化していく。
「・・ジ・・ジャンンヌゥ・・・キ・キスしてぇ・・・」
「フフッ、可愛いわよ、子猫ちゃん・・・んっ・ん・」
目をとろんとさせてジャンヌにキスを求めるまろんは、自分の身体に起こっている異変に
全く気付いていなかった。
嬉しそうにまろんと唇を重ねるジャンヌ。黄金の侵食はその間も止まることなく進んでいく。
下腹部から胸、胸から肩、肩から顔が黄金へと変化していく。
唇を離して、まろんのまだ生身の両腕を左右に水平に伸ばすジャンヌ。
さながら、ゴルゴダの丘で十字架にかけられたキリストのようなポーズのまま、
まろんの全身は黄金に変わった。うっとりとした表情を浮べたまま・・・・。
「今宵もまやかしの美しさ、いただきっ♪」


(ま・・・まろん、まろんが・・・・)
一方、静観していた都は、途中までまろんとジャンヌの行為に顔を赤らめていたが、
今では顔面を蒼白にし、ショックでその場に尻餅をつくような格好でへたり込んでしまっていた。
黄金像になったまろんを愛おしそうに撫でまわしていたジャンヌの動きがぴたりと止める。
ジャンヌの視線が、こちらに向けられる。
(い、いけない!早く逃げないと・・・えっ!?)
しかし、考えとは裏腹に両足に力が入らず、立ち上がることが出来ない。そして遂に扉が開く。
「あら?あなた・・・・いつもの刑事の娘・・・」
座り込んだ都を冷ややかに見下ろすジャンヌ。
ジャンヌから逃れようと都は立ち上がろうとするが、力が抜けた感じでその場に再び座り込んでしまう。
(・・・だ、だめ・・・足に力が入らない・・・な、なんで・・・)
ジャンヌとまろんの行為を見てしまった所為で、都は自分でも気付かないうちに下腹部に
熱い刺激を感じており、全く力が入らなかったのだ。その証拠に、顔は蒼白だが頬を少し紅く染め、
口からは僅かだが甘い吐息が漏れていた・・・・。
「覗いていたなんて・・・いけない娘ね」
ジャンヌは唇の右はじを吊り上げて、意地悪く微笑んだ。
「刑事の娘のくせになんて破廉恥な・・・お仕置きが必要ね・・・」
ジャンヌは腕を組んで、値踏みするような目を都の全身にさまよわせた。
「・・・・や、やめて」
都はジャンヌの視線から逃れるように、顔を背ける。
ジャンヌの足元で、なにかが動いた。床の上に伸びていた彼女の影が、急にその姿を変えたのだった。
影は床を走り、都の足元に溜まっていく。
驚きで目を見開いて、徐々に大きくなっていく足元の影を茫然と見つめる都。
その足元の影から、青色をした何かが伸びてきた。
「ひっ・・・・」
青色をした触手――表面に無数の吸盤らしきものを持った、しなやかで強靭な触手だった。
長く伸びるその先は都の足元に広がる影の中にあった。
触手は、立ち上がろうと地面につけていた両手と、ニーソックスで覆われた太股に触手が
巻きつきながら這い上っていく。
吸盤が音を立てて彼女の制服に、そして彼女の白い肌に吸い付いてゆく。
「離して・・・離しなさいよ・・・このっ!!」
目に涙を浮べて、必死に抵抗する都だが、身体を覆う触手はそれを許さない。
「やめて、やめ・・・ふうぐっ・・うう・・・」
触手の一本が都の口の中に侵入して来て、都の言葉を奪う。
さらに数本の触手が伸びてきて、都の全身を覆い尽くした。
その一部始終を、ジャンヌはじっと見つめていた。
そのジャンヌの耳に廊下を走る足音が聞こえた。
足音はどんどんとこちらに近づいて来る。
ジャンヌが指をぱちんと鳴らす。
都を全身を覆っていた無数の触手が霧散して紫色の霧へと変化する。
「・・・な、なにっ、終わった・・の・・・・」
「残念だけど・・・・主賓が到着したみたい」
「どういう・・・ことよ・・・ひ、ひいっ・・・」
ジャンヌの発した言葉の意味を問い質そうとした都が、悲鳴を上げる。
ジャンヌの顔がどろりと崩れて、ゼリー状の粘液に変わった。
そして、数秒後・・・。
床の上に、ジャンヌの服とともに解け崩れた粘液が広がっていた。
信じられえない事にその粘液が、都の問いに答えた。
”お前に構っている時間が・・・無くなったという事だ・・・”
それは、粘りつくような調子で都に語りかけた。
”石になって私のモノになるがいい・・・”
そして、紫色の霧が都に纏わりつく。
都のすらりと伸びた脚が、太股が、灰色に染まってゆく。
地面に付けた手も灰色に染まり、手から肘、肘から肩、そして全身が灰色に染まってゆく。
「いやっ・・・やっ・・・やめて、やめてよ・・・・」
涙を浮べ哀願を続ける都の声だけが、部屋に響く。
都の耳にも、この部屋に近づいて来る何者かの足音が聞こえた。
「・・お願い、早く来て・・・た、助けて・・・い、石になんかなりたくないのよ・・・」
彼女の絶叫は、足音の主に届くことは・・・・無かった。


扉が勢いよく開かれて、ジャンヌが部屋の中に入ってくる。
そのジャンヌの目に映ったものは、親友東大寺都の変わり果てた姿であった。
「都!?」


彼女の薄れ行く意識に、自分を心配する親友の声が聞こえた。
(よかった・・・まろん・・・無事だっ・・た・・の・・ね・・・)
親友の無事を喜びながら、都の意識は闇へと落ちていった。


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