作:匿名希望
イラスト:スピカさん
「今からあなたは私のお人形として生まれ変わるの…そして私のコレクションの一つとして飾られるのよ。まあ、気が向けば戻してあげるかもしれないわね。」
そう言い終えると足の先と指の先から徐々に冷たくなり、ピキピキ、と乾いた音を立ててゆっくりと硬いプラスチックへと変わって行く。そして動けなくなっていく。
「あああぁぁ…いやぁぁぁ、やめてぇぇぇ!」
笑いながら
「ふふ。本当にそうかしら?」
そして間接部ができ、人形に変貌していく。だが、心は恐怖から安堵に、そして少しずつ心地よさに摩り替っていった。
(な、なんで?人形に変わってしまうのに心地いい…え?なんで、なんで人形になってしまたいと思ってしまうの?で、でも…)
心の変化に戸惑い、うつむいていると告げられた。
「ほら。今のあなたを見て見なさい。」
そう告げられてふと肘と腰に間接ができるのを鏡で見たとき、そして徐々にその変化が迫りあがっていくその様を体が変化して行く感触と共に見てしまったとき、
「あっ……」
言葉が漏れ、はっきりと気がついてしまった。心の奥底にずっと潜み、否定してきた願望を。
(きれい…いや。ええ。…そうね。私はお人形として飾られたい。物として持ち主にかわいがられたい。ずっとそう想っていた。)
そして、その美しさと冷たい心地よさと気持ちよさから思い出し、決意し、そして運命の言葉を紡ぐ。
「あ、あの、私。思いました。いえ。思い出しました。それで、決めました。…お願いしたい事があります。」
体に訪れる変化が急に緩やかになり、プラスチックに変わっていく音だけが静かに響く中言葉を促された。
「うふふ。何かしら?」
ゆっくりと口を開き想いを告白する。
「あなたの言うとおりです。私はお人形になって飾られたいと思っていました。そんな事は無いとずっと自分を偽りながら…でも、もう正直になろうと思います。お、お願いです。私をずっと…ずっとお人形にしていてください…い、いえ、お人形で居させてください。人間に戻さないでください!それからあの人たちと一緒に飾って…欲しいです…」
自分に緩やかに訪れている冷たい、そして心地よくて気持ちいい感触をじっくりと味わいながら胸に秘めていた思いを告げ、心が軽くなる。
(言った…言ってしまった…これで私は人に戻らずに永遠に人形として飾られる…でも気持ちいい…嬉しい…)
気持ちは安堵し、そして永遠に続く気持ちよさ、心地よさへの期待へと変わる。それとともに思考は人の物ではなく人形としての思考になっていく。体も腕は完全に人形になり、胸には間接部ができつつあった。
「そう。正直になってくれて私も嬉しいわ。これで契約成立ね。今から人ではなく私の人形として永遠に愛でられる存在になる。人間に戻ることも無いわ。私自身の力を使ってもね。喜びなさい。これからのあなたのお人形としての永遠の美を約束するわ」
人形になる自分を想像して喜びすら感じてしまう。胸もプラスチックになり、言葉を出すこともつらくなっなり始めた時、鏡に映る自分の姿を見ながら思いついた人形としての願いを言う。
「は、はい。う、嬉しいです。ただ…一つ。一つだけお願いがあります。私を飾るときに服を着せて飾ってください。裸では恥ずかしいですから…」
「うふふ。そうね。そのままでは恥ずかしいでしょうね。裸のあなたもかわいいわ。けど、心配しなくてもあなたにぴったりの服が用意してあるの。それを着せてあげる。」
そう嬉しそうにそういった。
音とともに首までプラスチックの固くて心地よい感触が迫り、表情を作ることも、話すことも最後となるその時、人形になる喜びに打ち震えながら自然と人として最後の言葉を発した。それは人としての存在の決別であり、人形として生きることへの誓いの言葉であった。
「ああぁ…ありが…とう…ござい…ます。これ…から…ずっと…ずっと…私を愛でて…くだ…さ…い…ね…」
そのまま硬質な輝きは顔全体も多い尽くして行く。
そして、パキ。乾いた音を立てて完全にプラスチックの体になったとき、人としての生に終わりを告げた。
(嬉しいです…ああぁぁ…)
枷をはずし、嬉しそうに服を着せていき、飾るためのポーズを取らされながらなすがままの自分にその心地よさとうっとりとしながら虚ろな目をした生きた人形はたたずんでいた。