作: アルビレオ
真夏。太陽が真上からさんさんと照り付け、ジリジリと地面を焦がす暑い昼下がり。
部活帰りの女子高生、葵と若葉は、日陰を求めて人通りの少ない住宅街をさ迷っていた。
「あっつー……ねぇ葵、公園かどっかでジュース買って休憩しよ」
「うん、私も賛成……」
日に日に陽射しが強くなり気温も上昇するこの頃。既に外気は35℃に達し、住宅街を見渡しても外に出ようとする人影は見当たらない。クーラーの室外機の合唱が聞こえるようだった。
この暑さの中で元気になれるのはセミくらいのものだ。人間はもちろん野良猫たちも、この夏の暑さでバテているようだった。
汗が制服のワイシャツに張り付く。バレー部の練習を終えて学校でシャワーを浴びたばかりだというのに、あっという間に不快感が纏わり付いていた。
一刻も早く涼みたい。そんな思いから、二人は自販機のある公園を一心に目指す。
「それにしても今年暑すぎじゃないの? 気象庁もちゃんと仕事してよね、まったく」
元気な短髪の少女・若葉は、ワイシャツのボタンを開け、衿元を掴んでバタバタと扇いでいた。
時折制服の隙間からブラが垣間見える。控え目な大きさの胸に風が入ってきて、わずかながらに涼しくなってきた。
それを見て、セミロングの黒髪の少女・葵は若葉を制止する。
「わ、わわっ。だ、ダメだよ若葉ちゃん。女の子がそんなことしたらはしたないよ」
「いーじゃない、人っ子一人いないんだしさ」
「そ……そういう問題じゃなくてぇ」
言い合う二人だったが、いつの間にか公園へとたどり着いていた。
ようやく涼が取れる。ホッとした二人は、財布を取り出して公園の中の自販機に向かった。
が、その時。
ふと見ると、自販機の横のベンチに、何か見慣れたものがあるのが見えた。
まず見つけたのは若葉だった。それをよく見てから、若葉は葵に告げる。
「……ねぇ、葵」
「ん? どうしたの、若葉ちゃん」
「ベンチの上にソフトクリームがあるんだけど。……それも二個」
言われて、葵もそれを眺める。
たしかにベンチの上にはソフトクリームが二つあった。コーンに渦巻きアイスの典型的なソフトクリームが、ご丁寧にもスタンドに乗せられて。
片方は白色のバニラ味、片方は茶色のチョコ味だ。
どちらもこの炎天下の中、溶けてはいない。買ってすぐに置いたものだろうか?
「誰かが買ってきて、ベンチに置いといたんじゃないかな。きっと誰かを呼びに行ったとかで」
「でも、回りには誰もいないわよ?」
辺りを見渡すが、やはりこの暑さのせいか公園には人っ子一人いない。いるのはセミだけだ。
と、その瞬間。若葉の頭上に電球が灯った。
「そうだ。ねぇ葵、このソフトクリーム食べちゃわない?」
「えぇ!? だ、ダメだよ若葉ちゃん。見つかったら怒られるよ」
「でもさ、このまま放っておいても溶けるだけだよ? それじゃ買ってきた人も可哀相じゃない。だからこれは私たちで食べちゃってさ、買った人が現れたらその分の代金を払えばいいよ」
「で……でも」
「だーいじょぶだって。きっとわかってくれるよ。ほら」
葵が反論する前に、若葉はバニラ味のソフトクリームを手に取って葵に手渡した。
しぶしぶ葵が受け取ったのを見て、若葉はにまっと笑ってチョコ味のソフトクリームを手に取る。
「それじゃ、いただきますか。この出会いに感謝して」
「もう……知らないからね?」
「はいはい。いっただきまーす」
「……いただきます」
二人とも、同時にソフトクリームの先端を舐める。
が、その時。
二人が舌先で感じ取ったのは、ソフトクリームの感覚などではなかった。
何か生物のようなうごめき、そして脈動。
「……なに、これ」
「ひっ」
二人とも手を離し、両方のソフトクリームが地面に落ちる。
しかし。ソフトクリームは地面にぶつかるよりも早く、巨大化した。
掌で握れる程度の大きさだったソフトクリームは、一気に3メートルくらいにまで膨張した。コーンだけでも人一人飲み込めそうなくらいの大きさだ。
突然巨大化した二つのソフトクリームを前にして、葵と若葉はその場にへたりこむしかなかった。
「な……なによ、なんなのよこれ」
「あぁ……あ……」
葵に至っては腰が抜けていた。意味不明な光景を前にして、二人は一切身動きが取れない。
そんな二人の目の前で、巨大ソフトクリームが動いた。
アイスの部分が宙に浮かぶ。白と茶色のアイスがコーンから分離し、空中に浮遊し始めた。
呆然とする二人を無視して、残ったコーンの部分が二人に覆いかぶさった。
まるで工事用の赤い三角コーンのように、頂点を上に向けて、空洞に二人の女子高生を封じ込める。
「なっ、なに!?」
「い……いや……」
「ちょっと! 出しなさいよ!」
若葉はバンバンとコーンを中から叩くが、コーンは微動だにしない。
一方で同様に閉じ込められた葵は、抵抗することもできずただ震えているだけだった。
その瞬間。
二人を封じ込めたコーンの空洞の中に、突風が吹き荒れた。
「っ!?」
驚愕する二人だったが、すぐにその意味を知ることとなる。
服が裂けていったのだ。制服のワイシャツとスカートも、そしてブラとパンツも、突風にひきちぎられて舞い落ちていく。
「ひっ……!?」
二人はそれぞれのコーンの中で、すぐさま胸と股間を押さえる。
訳がわからなかった。ただ公園でベンチに置いてあったソフトクリームを食べようとしただけなのに、なぜ閉じ込められた挙句服を剥がれなければならないのか。
だが。本当に理不尽なのは、これからだった。
布一つ纏っていない女子高生二人を閉じ込めたコーンが、突然上下に反転した。
先程まで上を向いていたコーンの頂点が今度は真下を向く。当然、それに伴って二人の体もコーンの中で上下に反転した。
「こ、今度は何が……?」
若葉はコーンの中で身を翻し、顔を上の穴から出して淵に手をかける。
見ると、葵も同様のことをしていた。双方共に服を来ていない。全裸の女子高生二人がコーンの中にすっぽり収まっているという異様な光景だった。
その時。
不意に、二人の頭上が暗くなった。
今日は雲一つない快晴だったはずだ。不審に思って見上げると、そこには。
「う……嘘でしょ……?」
先程分離したアイスが、若葉と葵のすぐ頭の上にあった。
そして二人は理解する。
なぜコーンが反転したのか……そして、いまコーンがソフトクリームとして正しい上下関係にあることを。
「い、嫌。やめ――」
「ひっ……――」
叫び声がこだまするその前に。
コーンに収まる二人の女子高生へ、アイスが降り注いだ。
ぐちょっ、という音と共に、二人の全身がアイスの中に取り込まれる。若葉は茶色のチョコ味に、葵は白色のバニラ味に。
それで二人が死んだわけではない。全身をアイスに覆われた二人は、巨大ソフトクリームの中で生命活動を続けていた。
(うっ……、全身が……ひんやりする。……少し、気持ちいいかも……)
言いようのない気持ちよさに若葉は恍惚としていた。
胸の先端や秘部に触れたアイスが、若葉に快感を与えていく。
(なに、これ……。私……どうなっちゃうの……?)
びくっ、と葵の体が小刻みに震える。まるで全身を性感帯にされたような気持ちよさだった。
アイスが鼻や口から入り込み、秘部や尻の穴からも入っていく。
体の外側から、そして体の内側からも、徐々に葵の全身が犯されていくのを感じる。
(どうして……こんな……ことに……)
若葉の理性が、快感の中にとろけて消えてゆく。
びくんっ!と若葉の体が一度大きく撥ねて……そして、若葉の意識が完全に快感の中に溶けきった。
それと共に、体の端の方から徐々に感覚が消えていく。
(若葉……ちゃん……)
最後まで友人のことを想いながら、しかし恨むことなく、葵も絶頂を迎えた。
全身が打ち震え、頭の中が真っ白になっていく。まるでバニラのように。
ゆっくりと全身が浸蝕され、他の何かに変わっいく感覚が、葵が最後に感じた意識だった。
コーンが傾き、巨大ソフトクリームのアイスの中から二つの塊が吐き出された。
全裸の少女の形をした、絶頂の表情のまま固まった二つの塊は、もう二度と動くことはない。
茶色のチョコ味のアイスとなった若葉。
白色のバニラ味のアイスとなった葵。
それら二つの『消化』の結果をまじまじと眺めた二つのソフトクリームは、満足そうにベンチへと跳ねていった。
体を縮小させ、元の大きさに戻す。再びベンチの上のスタンドへと収まって、二体は次なる獲物を待つ。
この炎天下、公園に人通りはない。セミの大合唱だけが無人の公園に響く。
誰の目にも留まることなく、かつて若葉だった茶色のアイスと、葵だった白色のアイスは、一時間後には完全に溶けきっていた。